表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
97/373

(アリス)21

 見張りは男の言葉を建物内部の者に伝えた。

少し待たされた。

身内にも厳しいのは何時ものこと。

男は肩を竦めて外壁にもたれた。

 直ぐに立ち入りが許可された。

中に入るとボスの護衛の一人が待ち受けていた。

にやけた顔で男に尋ねた。

「処刑を見物したんだろう。

それで、どうだった」

「途中で邪魔が入った。

非番の門衛の一人に声をかけられてな、

聞いて損はありませんよとタレコミだ。

高い情報料も払わされた」

「ほおー、払ったってことは、それなりのタレコミか。

それをボスに報告に来たという訳か」

「そういうこと」


 建物の一階は倉庫のような広さなのだが、何も置かれていない。

奥の階段手前にテーブルが一つあり、

そこで数人の顔見知りが賭け事に興じているだけ。

彼等は通る男をチラ見しただけで、何も問わない。

彼等は休憩中の護衛兼障害物だ。

 護衛の案内で二階に上がった。

ここは廊下の左右にドアが幾つかあった。

何れもボス、ザッカリーの部屋だ。

ただ、どれが当日のボス部屋かは分からない。

 奥まったドアの前に二人の護衛が立って、こちらを見ていた。

だからと言って、そのドアの奥が今日のボス部屋とは限らない。

ダミーの事も多い。

予想通り、男を案内した護衛は全く別のドアを開けた。


 広いが飾り気のない部屋だ。

ドアの内側にも護衛が二人、閉められた窓の方にも二人。

警護だけは厳重な事この上ない。

 ザッカリーは頑丈そうなデスクで書類を読んでいた。

男が部屋に入ると、眠そうな顔を上げた。

「問題が発生したのか」

 男が頷くとザッカリーはゆっくり立ち上がった。

まるでオークのような巨体。

窓の方へ歩み寄ってカーテンを閉め、大きく伸びをした。

今にも天井に手が届きそう。

「このところ、書類仕事ばかりで気が滅入っていた。

面白い話なんだろうな」


 ザッカリーは元々は冒険者、最終ランクはB。

人生色々、魔物から人間相手に鞍替えすることになった。

外郭南区画のスラムの大立者の一人に伸し上がった。

主力商品は暴力と盗品の買い取り。

 ザッカリーの期待を受けて男が表情を曇らせた。

「面白くはありません」

「聞かせてくれ」

「その前に一つ、質問をして宜しいでしょうか」

「何だと言うんだ」視線を強めた。

 男は名前を幾つか挙げ、「知ってますか」と尋ねた。

ザッカリーは耳を疑った。

知っているも何も、盗品を運ばせている手下の名前ばかり。

 買い取った盗品は当然ながら国都内で盗まれた物。

中には殺傷の末に強奪したものもあり、国都で捌けない。

万が一、捌いて足が付けば一巻の終わり。

相手が官憲であれば周到な手配で全員捕縛され、

主犯格は全員死刑、他は犯罪奴隷として鉱山に送られる。

貴族の恨みを買えば、襲撃され、容赦なく全員切り刻まれる。

何れにしても、どちらも選びたくない。

「お前も分かっているんだろう、うちの連中だ」


 他のファミリーもだが、やばい品物は地方に運んで売り捌く。

これが盗品売買の基本。

今回は摂津地方の領都、大阪で「泥棒市」が開かれると聞いて、

荷馬車に盗品を積んで送り出した。

 泥棒市だからと言って、堂々と盗品を並べる訳ではない。

領都の大通りに普通の商人や一般人が露店を出し、

そこで盗品のように安く投げ売りされるので、そう呼ばれていた。

 実際はその賑わいに付け込んで、盗品が売買される。

昼日中の大通りではない。

大阪のスラムに各地から集められた盗品が、ご同業間で売買される。

北から持ち込まれた盗品は南のご同業へ、

東から持ち込まれた盗品は西のご同業へ、と言う具合に捌かれる。

 男も予想していたのだろう。

「やっぱり大阪の泥棒市でしたか」

「ああ、そこに荷馬車を送り出した。

今上がった名前は荷馬車を警護していた連中だ」


 男は表情を変え、

「これは非番の門衛からのタレコミです」と前置きして、

更に別の名前を次々と挙げた。

 聞いたザッカリーは困惑した。

配下ではないが、知った名前があった。

ご同業の配下ではないか。

外郭北区画のスラムの大立者、テレンスの幹部の名前が幾つかあった。

「どういうことだ」

「巨椋湖へ向かう間道で死体が見つかりました。

魔物の襲撃を受けて大勢が死亡していたそうです」

「大勢が・・・」

「宮中で陞爵が行われた日です。

国軍の騎兵隊が巨椋湖方向に異常を感じ、急行しました。

行ってみると、魔物の群の足下に大勢の人間の死体があり、

それを巡って魔物同士が奪い合っていたそうです。

・・・。

駆け付けた騎兵隊が魔物を追い散らし、食い千切られていた死体を、近くの駐屯地から呼んだ荷馬車で回収したそうです。

人数ははっきりしませんが、大雑把で四十人近いとか・・・」

 ザッカリーだけでなく居合わせた者達全員が顔色を変えた。

「確かなのか」

「門衛は国軍の騎兵隊の友人から酒の席で聞かされたそうです。

金目当てで嘘をつく奴じゃありません」

 暫し停止していたザッカリーの口が動いた。

目の前の男を案内して来た護衛に命じた。

「サンチョを捜して連れてこい」

 

 サンチョはザッカリーの片腕で金庫番。

元々はザッカリーの冒険者時代のパーティ仲間であった。

ザッカリーが身体を活かして盾役、サンチョは後方から魔法で支援。

役割が違っても、魔物相手に何度も修羅場を潜ったせいか気が合う。 

 サンチョが顔色を変えて部屋に飛び込んで来た。

大方、来る途中、呼びに行かせた護衛に聞いたのだろう。 

デスクのザッカリーヘではなく、タレコミをもたらした男に詰め寄った。

「詳しく聞かせろ」

 男も又聞きなので、それほどの情報はない。

それでもサンチョは男の説明に満足げに頷いた。

ザッカリーを振り返った。

「このところの疑問に一つの答えが出た」

「疑問、答え、・・・」

「ああ、今思うと日付は合う。

陞爵の後からだが、この辺りで妙な視線を感じていた。

それが官憲の見張りだとすれば納得が行く」

「なに・・・、見張りだと」

「一般人は誤魔化せても、魔法使いまでは誤魔化せない。

探知は無理でも、ダンジョンで鍛えた気配察知があるからな。

・・・。

今回の一件が表に出ないのは、官憲が情報を規制しているからだろう。

ザッカリーファミリーとテレンスファミリーが同じ場所で、

仲良く魔物の餌になっている。

そうなると官憲としても興味が湧く。

手柄の匂いもする。

ジッと双方の動きを見張っている筈だ」


「詳しく・・・」

「想像だが、うちの動きが筒抜けで、荷馬車をテレンス側が襲った。

その際に流れた血の臭いに魔物の群が誘われ、現れた。

ファミリー間の抗争に魔物が介入し、

遅れて国軍騎兵隊までもが駆け付けて来た。

そういうところだろう」

「そうか・・・」

「テレンスに殴り込むのは少し待ってくれ。

たぶん、官憲があちらも見張っている。

俺達が衝突するのを待ち望んでいる筈だ。

・・・。

もしかすると、こちらにテレンスの見張りも来ているかもしれん。

襲ったのはいいものの、

誰も帰って来ないから心配してこちらの出方を見張っている、

そうも考えられる」

「腹が立つ・・・。で、何時まで待てばいい」

「その前に探ることが二つ。

一つは荷馬車の行方。

現場で魔物に壊されたのか、国軍に接収されたのか。

そこをハッキリさせよう。

もう一つは、誰がテレンス側に情報を売ったのか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ