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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
95/373

(アリス)19

 俺はアリスを探した。

人波が邪魔しているが、勘働きを駆使して辺りをつけた。

左方、小さな白い物。

人波の足下を縫うようにして、こちらに駆けて来た。

 そちらから子供の声が聞こえた。

「わあー、ちっちゃい、ちっちゃい子猫ちゃんだあ」

 驚き混じりの声が上がった。無理もない。

アリスの体長は生まれたての子猫に近い。

それが前後に動く無数の足障害を巧みに擦り抜けて来るのだ。

それでも子供の目線からは逃れられない。

 俺の手前でさらに速度が上がった。急加速。

人目を避ける為に俺のローブの裾の内側に飛び込んだ。

事前通告も、遠慮もない。

爪を立てずに俺の身体を駆け上った。

フードに入り、定位置の後頭部の髪を掻き分けた。

『ここは落ち着くわね』言いながら俺の首筋の臭いを嗅いでいる様子。

 文句は言えない。

一つでも言おうものなら、即座に暴言混じりの反論が返って来る。

目立つ白猫姿を注意した際などは、罵倒の嵐。

『アンタ馬鹿なの、目はお飾りなの、腐ってるの。

私はこの姿が気に入っているの。

それが分からないの、無神経なの、腐ったゴブリンなの』

これには俺も閉口した。

眷属にしたものの、これでは、どちらが主人であるかが分からない。


 俺達は西門から出た。

行き交う人々を縫うように足を急がせた。

丹波地方に向かう街道だ。

途中の国軍駐屯地を過ぎて少し行くと、その先は山道になっていた。

山道でも正規の街道なので整備は行き届いていた。

昼間の街道は国軍騎兵隊が定期的に巡回しているので、

魔物の出没は少ない。

護衛の冒険者を雇っていれば尚更安心。

 俺達は、傍目からすれば俺一人なんだが、

街道を逸れて間道に爪先を向けた。

間道も国軍騎兵隊が巡回している上、

魔物討伐の冒険者パーティも見かけるので、

こちらも魔物の出没は少ない。

 顔を隠す為にフードを深く被っているせいか、

擦れ違う大人達に呼び止められることはなかった。

間道から獣道に入る際、虚空から魔法使いの杖を取り出した。

殴るのに適した無骨な杖だ。

それで道を遮る丈の高い雑草を除けながら進んだ。

 勘働き、胸騒ぎ、ザワザワ。

脳内モニターをオン。

探知スキルと鑑定スキルを連携させた。

いるいる、魔物の黄色い点滅、獣の茶色い点滅。

双方が警戒し、進退に躊躇していた。

時折、人を現す緑の点滅も見かけた。

討伐か素材収集の冒険者パーティであろう。

 俺は人目を避けながら迂回して山中に入った。

『この辺りなら人目はないわね』アリスがフードから首を出した。

『アリスは魔物討伐だ。

俺は討伐した魔物から魔卵を採る』

 魔卵は魔物の卵ではない。

魔物の体内にある魔素の塊だ。

形状が卵に似ている事から、そう呼ばれていた。

昔から人はその魔卵の魔素を活用してきた。

特に錬金術の分野で重宝された。

鍛冶、調剤、付与等々。


 少し離れたところに小物の群を見つけた。

鬼の種から枝分かれしたにしては弱い二足歩行の魔物、ゴブリン。

ところが個体はFランクなのに群れると意外に手強い。

器用な手足を活かして棍棒を武器に、奇襲して来る。

中には冒険者から奪取した武具を完全装備している個体もあり、

油断は出来ない。

 遅れてアリスが俺に告げた。

『見つけたわよ』気配察知がレベルアップしたのだろう。

 勢い良くフードから飛び出した。

子猫姿のまま風魔法を駆使し、木々の間を縫うように飛んで行く。

人の手の入っていない鬱蒼とした山なので視界は狭い。

にも関わらず迷わない。

 俺も身体強化スキルを発動してアリスを追った。

でも追いつけない。

空中を飛ぶ相手には敵わない。

差が広がった。

そこで群の注意を引き付ける為に俺は足音を意識的に立てた。

囮になった。

するとゴブリンの群から甲高い警報の声が上がった。

俺の足音に気付いたらしい。


 防御態勢を整えたゴブリンの群の頭上にアリスは到着した。

悠々と下を見下ろした。

十二匹。

リーダーらしき一回り大きな体軀のゴブリンもいた。

 群の視線は地上、木々の向こうに向けられていた。

足音を立てるダンタルニャンが目立つ分、

小さな気配でしかないアリスには気付かない様子。

 アリスは他の飛ぶ魔物の接近を警戒し、手頃な太さの幹を背にした。

自分の安全を確保すると、下のゴブリンに妖精魔法を発動した。

ウィンドカッター。

 小さな身体でもBランク。

しかも妖精魔法のレベルは☆☆☆。

そのウィンドカッターだから威力は高い。

ゴブリンリーダーの首を切り放つだけでは飽き足りず、

通過して木々を切断、地面をも抉った。

立て続けに首を五つ切り飛ばした。

切断した木々の巻き添えで四匹のゴブリンが負傷した。

 無傷のゴブリン三匹が逃走を図るがアリスは逃さない。

飛び立つや空中から爪でゴブリンを襲った。

身体強化しているので、子猫の短い爪でも凶器そのもの。

名刀並みの切れ味で、いとも簡単に三つの首を切り落とした。

爪は短いが、魔力を乗せて疑似ウィンドソードにしたのだ。

残りは負傷した四匹。

アリスは容赦しない。

地上に降り立ち、獲物に向かって駆けた。


 俺が到着した時には終わっていた。

ゴブリンの首が転がっていただけではなかった。

聞こえる音で予想はしていたが、酷い有様だった。

木々が切り倒され、地面には小さな亀裂が幾つか出来ていた。

血の臭いの中、埃や枝葉が舞い立ち、ここは戦場か。

 アリスが得意気な顔で出迎えた。

『どうよ、私やるでしょう』

『だよね。次は俺の出番だから周囲の警戒を頼むよ』

『任された』機嫌が良い。

 俺はゴブリンの死体を見ながら鑑定スキルで探した。

新たなイメージ。

透視、透視。裏まで透かし見る力、透視。

鍛冶スキルを得た時もそうだ。

イメージが大切なのだ。

魔法の発動は呪文だが、俺の場合はイメージなのだ。たぶん。

「新しいスキルを獲得しました。透視☆」脳内モニターに文字。

 鍛冶スキルの3D表示をも連携させて魔卵を探した。

結局十二匹のうちで魔卵を持っていたのは四体。

風魔法、ウィンドカッターで切り分け、取り出した。

ついでに角も切り取った。

ゴブリンの魔卵と角は調剤の素材として高評価。

捨てるには惜しい。

 山中なのでゴブリンの死体は置き捨てても問題ないが、

俺は新鮮な死体で試してみたかった。

鍛冶スキルを起動した。

イメージは雲散霧消。

前回は鍛冶で造った物を消した。

今回は生物で確認。

簡単に。

思うより簡単に成功した。

跡形もなく魔素に変換されて消えた。


 アリスの気配が強くなった。

『警戒して、魔物が飛んで来たわ』

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 絶対に「?」を使わないという強い意志を感じるのですが、何か理由があるのですか?
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