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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
9/373

(戸倉村)9

 名古屋の屋敷でアンソニー佐藤は目を覚ました。

その部屋に近付く足音。

自室の前で止まり、声がかけられた。

「御主人様、朝食の用意が整いました」

 昨夜、部屋に案内してくれたメイドに違いない。

「わかった」

 メイドが立ち去るとアンソニーはベッドで大きな伸びをした。

新築の匂いが鼻をついた。

屋敷自体が建てられて半年ほど。

この母屋は当主も家族も不在なままなので、

全くと言っていいほど使われてはいない。

長屋に住み込みの執事やメイドが毎日、空気の入れ替えをするくらい。

 このまま当主不在という訳ではない。

いつ呼集がかけられるか分からないからだ。

今、村では武家に相応しい人員の訓練と編成を行っていた。

騎乗の者十騎、槍足軽二十人、弓足軽二十人。

これに文官を加えると最低でも七十人を必要とした。

幸い人員は満たしたのだが、訓練と編成が終わっていない。

それに最大の問題は、村の代官を誰にするか、であった。

戸倉本村と漁村を管理するわけだから、能吏は必要。

伯爵家に事情を話し、暫くの猶予を貰っていた。

期限としては、遅くとも来春まで。

全て完了すれば引っ越す予定でいた。

 

 食堂に行くと既に二人の息子が着席していた。

アンソニーが入って行くと二人が立ち上がり、朝の挨拶。

「おはよう御座います、父上」

 打ち合わせでもしていたかのように声を重ね、軽く頭を下げた。

慣れていないのでアンソニーは苦笑い。

「おはよう」

 彼の着席を待って息子二人が腰を下ろすと、

メイド三人が食事を運んで来た。

執事が現れてアンソニーの耳元に囁いた。

「村に戻られるのを少々、繰り下げる必要が出てきました」

「どうした」

「面会の申し込みがあるのです。それも三件」

「私は昨日、着いたばかりだぞ。どうして私が来た、と分かったのだ」

「相手は商売人ですから」

「塩か」

 漁村での塩田開拓が順調で、

少量ではあるが村外に売却できるところまで進んでいた。

それに目をつけたのであろう。

 執事によると今朝、それも早朝、

三つの商会の使いの者が息を切らせて現れた、と言う。

商会は何れも領都では有名どころばかり。

これまでの戸倉村は馬車の製造で知られていた。

これに塩が加わるのだ。

村の経営は順風と言っても過言ではない。

 

 名古屋は外堀に囲まれた城郭都市であった。

跳ね橋を四方に持ち、治安だけでなく、

籠城戦をも見据えた都市設計が成されていた。

城郭内は名古屋城を中心に四区画に分かれていた。

伯爵家や寄子の貴族が屋敷を構える東街。

伯爵家の家臣が住む西街。

一般市民の南街。

商人等が集まった北街。

それぞれに通用門が幾つもあり、平時は自由に行き来ができた。

 領都であるので、人口も敷地も満杯かと思いきや、そうではなかった。

籠城戦や火災、疫病等に備えて、空き地も残されていた。

城郭内に空き家が見つけられない者が希望すれば、

跳ね橋に通じる街道沿いに家を建てることが許されたので、

領都は城郭外にも延びていた。

 城郭の門限は厳しい。

平時は東西南北にある跳ね橋が朝五時に下げられ、

夜八時には上げられた。

各街区を繋ぐ通用門もそれに準じて開け閉めされるので、

規則正しい生活が求められた。

 アンソニー佐藤家は城郭の東門外の街道に屋敷を構えていた。

佐藤家だけが珍しいことではない。

家臣でも貴族でも郭外に屋敷を構える者は多くいた。

ことに新規採用の武士や貴族の多くは堅苦しい郭内生活を嫌い、

治安には目を瞑って自由な生活を求めて外に出た。


 アンソニーは一行を率いて名古屋城へ向かった。

アンソニーの乗る一頭立ての幌馬車と、

魔物の首を運ぶ一頭立ての荷馬車。

馭者と徒歩の雑兵で計九人。

東門の門番に身元を現す胸元のタグを確認させ、

公用の手形を取り出し、「奉行所へ向かう」として跳ね橋を通った。

東門を抜けると向こう正面に白い五層の天守閣が聳え立っていた。

 雑兵の一人が初めて見たのだろう、「うわっ」と思わず足を止めると、

同僚の一人に、「他の通行人の邪魔になるから進め」と笑われた。

 指定されたのは名古屋城正門前の奉行所だったので、

そのまま真っ直ぐに進んだ。

当然のように奉行所は城の堀の外にあった。

奉行所は領都を管轄する役所で、治安を統轄していた。

  アンソニー一行は内庭に案内された。

待たされることはなかった。

十数人が早足で庭先に現れた。

驚いたことに奉行だけでなく、伯爵家の執事や重臣も含まれていた。

如何にも冒険者といった身形の者もいた。

皆の目が血走っていた。

その様子からアンソニーは挨拶もそこそこに、荷馬車の覆いを外した。

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