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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(アリス)11

 大歓声が馬車の中に届いた。

思わずブルーノ足利は身震いした。

そわそわと挙動不審になった。

隣に腰掛けていたベティが気付いて、やくわりと窘めた。

「いけませんよ」

 ブルーノは微笑む。

「何が・・・、どうして叱られるのかな」

「窓を開けてはいけませんよ」軽く睨み付けた。

 馭者席から声がかけられた。

「スタートします」

 走り出しこそが馭者の腕の見せ所。

無様なダッシュではなく、ゆっくりと動き始めた。

徐々に速度を上げて行く。

ただし全力疾走ではない。

車列の左右を伴走している近衛兵の足を意識した速度に留めていた。

 ブルーノはベティを一瞥するや、

おもむろに立ち上がって窓を開けた。

沿道の観衆と視線が絡み合う。

 事態に気付いた観衆が身を震わせ、悲鳴に似た歓声を上げた。

小さな子供を抱え上げて対面させる者。

両膝を地面につけて何やら祈りを捧げる者。

歓喜のあまり飛び上がって奇声を上げる者。

 彼等彼女等に心底から敬愛している。

ブルーノはにこやかな笑顔を向け、鷹揚に手を上げた。

隣のベティは苦笑いでブルーノを振り返るが何も言わない。

言わないどころか、彼女も窓を開けた。

観衆に向かって、とびきりの笑顔を向けた。


 ブルーノは観衆を見ながらベティに尋ねた。

「よかったのか」

「夫に従うのが妻の役目でしょう」嬉しそうな声。

「それにしては楽しそうだが」

「女は生まれながらの嘘つきなんですのよ」

「そっ・・・そうか」

「そうなんですのよ」窓から半身を乗り出し、両手を振った。

 観衆全てが知る事態となった。

熱気が一段と増した。

大喝采、大熱狂。

これでは園遊会の前に喉が嗄れてしまいかもしれない。

 警護の者達も事態に気付いた。

気付いたが手遅れ。

こうなれば国王も王妃も止められない。

慌てて態勢を見直し、国王の馬車周辺の警護を厚くした。


 王宮本殿に着いた。

広々とした表玄関前に車列が並ぶ。

後列の馬車から侍従や秘書役の面々が飛び降り、

一両目の前に殺到した。

不満げな顔の近衛指揮官もいるが、それはそれとして、

部下達には万全の警護態勢をとらせた。

 国王夫妻が馬車から下りて来た。

観衆の熱気にあてられたままなので機嫌はすこぶる良い。

だからかブルーノは指揮官に軽く手を上げて謝意を現すと、

ベティと腕を組んで踊るようにして玄関口に消えた。

慌てて侍従と秘書役の面々が後を追う。

 王宮宮殿には表と奥があり、

表は国王夫妻の執務室を中心とした公用の空間、

奥は国王夫妻一家の私的生活の空間と分けられていた。

奥は後宮ではない。

側室達が住まう後宮とは隣接しているが、明確に切り離されていた。


 奥に戻った二人を一粒種がメイド達に連れられて出迎えてくれた。

「おかえり、なさいませ」

愛娘、イヴ、三才だ。

 ブルーノは思わずイヴを抱きかかえた。

頬擦りすると、キャツキャツと笑う。

 横からベティが手を伸ばしてイヴを奪い取る。

「アナタ、早く着替えませんと」

 引見の次は園遊会。

今日も朝から公務ラッシュ。

毎度の事ではあるが、その度に着替えを求められた。

国王主催の園遊会にも関わらず、多忙な国王に配慮。

国王代理として公爵の筆頭にある者が開会を宣言し、

招待客にも対応してくれるので、

国王は途中から出席して顔を見せるだけで良かった。

 貴族の最上位に位置する公爵は、

王の子のみに一代限りで授けられる爵位。

兄弟の誰かが王に即位すると、男女の区別なく授けられた。

ただし規定があった。

俸禄は与えるが領地は持たない。

王都に屋敷を与えるが家臣は必要最低限。

二代目からは臣籍降下し、領地を与えて子爵家とする。

以上の取り決めが守られていた。

現在の筆頭は前王の三女、口喧しいのでブルーノは苦手にしていた。

だからといって欠席は出来ない。


 並んで立つ夫妻を侍女達が取り囲み着替えを行っていた。

まるで着せ替え人形状態。

「あれ持って来て」

「こちらが良いんじゃない」侍女達が姦しい。

 それでも二人は嫌な顔一つしない。

自分達で選ぶより楽なので任せきっていた。

 ブルーノがベテイに問う。

「引見で面白い者はいたか」

 謁見を許されたのは美濃は尾張の者共だ。

「二人だけ」

「ほう、二人か」

「アナタ様は」

「こちらも二人だ。

たぶん、同じ者だろう」

 見方が違う。

ブルーノは勘、ベティはスキルの鑑定。

王宮区画での魔法の使用は禁止されているが例外も存在した。

近衛や国軍の文武官の魔法使いであった。

だからといって日常公然とは使用しない。

周囲の警戒を避けるように内密に使用していた。

ベティは例外中の例外。

鑑定スキルそのものからして秘匿されていた。

そのベティが二人の名前とステータスを告げた。

何れも今日、陞爵したバートとレオンだ。


「名前、バート斉藤。

種別、人間。

年齢、六十五才。

性別、雄。

住所、足利国美濃地方領都住人。

職業、美濃地方の寄親、侯爵。

ランク、C。

HP、125。

MP、50。

スキル、槍士☆☆☆、火魔法☆」

「名前、レオン織田。

種別、人間。

年齢、二十七才。

性別、雄。

住所、足利国尾張地方犬山村住人。

職業、尾張地方の寄子、子爵。

ランク、C。

HP、100。

MP、125。

スキル、土魔法☆☆☆、剣士☆」

ユニークスキル、楽市楽座☆☆」


 二人の名前にブルーノは満足げに頷いた。

「やはりあの二人か。

それにしてもレオン子爵は土魔法☆三つか、驚いた。

出来る奴だな」

「それもそうですが、ユニークスキルが気になります。

意味は分かりませんが、楽市楽座☆二つには何かあるのでしょうね」

「犬山村が町規模に広がっていると秘書役の一人が調べてきた。

その領地経営に関連しているのではないか」

 周りには着替えを手伝っている侍女達の耳があるのだが、

二人は全く気にしない。

ベティが言う。

「領地経営ですか・・・、良いことですね。

バード斉藤侯爵にも驚かされました。

あの歳で矍鑠としているのですからね」

「年齢から評定衆は無理だと思っていたが、一考の余地ありだな」

 ベティがニヤリと笑う。

「あちら様の意向を汲んで内々に、色々としたんですもの。

こちらに呼び寄せて使い潰しませんか」

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