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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(アリス)4

 子猫が目を覚ました。

寝起きが悪いのか薄目・・・、再び目を瞑ろうとした。

が、状況に気付いたようで、ガバッと上半身を起こした。

俺を睨み付けながら周囲にも注意を払う。

その子猫、おもむろに自分の足下を見下ろした。

オロオロと狼狽え、狼狽え・・・。

前足二本をグッと持ち上げ、またしても狼狽え、狼狽え・・・。

 俺の目に子猫の姿がダブって見えるようになった。

一つは普通に子猫。

もう一つは朧気に・・・、羽根・・・がある。

「新たな術式を二つ見つけました。

貝には内側から開ける事を拒否する術式が組み込まれています。

外側の木箱を開けなければ、いつまでも開かない仕組みです。

目的は閉じ込めた妖精の逃走防止です。

もっとも、既に開いているので問題ありません。

もう一つは子猫の首にかけられた首輪にあります。

非常に珍しいのですが、これには獣化の術式が組み込まれています。

妖精魔法を封じる為に編み出された魔道具のようです。

解錠は染み抜きすれば可能です」脳内モニターに文字。


 簡単に解錠可能と言ってくれた。

お気楽な脳内モニター君。

 獣化と言っても同じネコ科のライオンやトラなら別だが、所詮は猫。

危険性は皆無に等しい。

しかし妖精魔法を封じる為に獣化とは・・・。

言葉を奪えば魔法詠唱を無効化できるとして考案したのだろう。

高価で取引されている妖精に特化した魔道具なんだろうが・・・。

加えて二枚貝の暗闇の中に閉じ込めて心を折る算段、えげつない。

唾棄すべき行為だ。

子猫、いや妖精に同情を覚えた。

何とかして助けてやりたい。

問題はそれを子猫が大人しく聞き分けてくれるかどうか。

取り敢えずは人間の言葉で説明してみよう。


 すると何をどう判断したのか、子猫が行き成り飛びかかってきた。

俺の首めがけて大きく跳躍。

油断していた。

躱す余裕がなかった。

首を左腕で守るので精一杯。

その腕に子猫が噛み付いた。

あっ、痛くない。

身体強化したままだったので傷もつかない。

ただ、布地は傷むだろう。

それにしても、心折られることなく、この元気。

体力も有り余っている感じで、エエじゃないか、エエじゃないか。

 俺はこれを奇貨とした。

噛ませたまま右腕で子猫を押さえた。

脳内モニターに獣化の術式を映し出し、それを汚れに分類。

光魔法、ライトクリーンとライトリフレッシュを連携させた。

淡い光が子猫を包む。

並列させて水魔法をも連携させた。

毒消しの効果を含有した魔水をイメージし、水滴を垂らし加えていく。

さっきと同様に進展具合を確認しながら、EPの強度を操作。

二度目なので難しくはない。

さほど手間取らずに済みそう。

 子猫に目を遣ると、四肢で俺の左腕に絡み付き、布地を食い破り、

何とか腕そのものに歯を立てようと躍起になっていた。

その様が何とも微笑ましい。

「染み抜き完了です」脳内モニターに文字。


 首輪がポンと外れ落ちると子猫の姿が掻き消え、

左腕には小さな人形のようなものが残った。

背中に三対の六枚羽根、たぶん、これが妖精なんだろう。

身長は二十センチほど。

妖精に性別があるのかどうかは知らないが、・・・体付きは女子。

「新たなスキルを獲得しました。術式洗浄☆です。

分類はユニークスキルになります」脳内モニターに文字。

 術式解除ではなく、術式洗浄とは・・・。

たぶん、解除なら首輪をリサイクルで再度活用できるが、

洗浄となると完全に術式の白紙化、

術式そのものを綺麗サッパリ洗い流すので、リサイクルは不可能。

変に納得してしまった。


 腕に絡み付いたまま、俺を見上げる妖精と目が合った。

妖精は状況に付いて来られないようで、噛み付きを止め、

口を大きく開けてあ然としていた。

でも、親切に説明している場合ではない。

周辺に集まったザコ魔物のうちの何頭かが我慢しきれなくなったのか、

ついに動き出した。

血の臭いに誘われて前進を開始。

釣られて他の魔物達も追随した。

中小合わせて、およそ四十ほど。

FランクEランクのザコ魔物ばかり。

次第に速度が上がって来た。

途中で鉢合わせするや、血気に逸って戦い始める魔物も数組。


 俺は右手で妖精を優しく摘み上げ、近くの木の枝にチョコンと乗せた。

怪訝な表情の妖精に俺は言い聞かせた。

「この辺りは木も疎らには立っている。

風に乗って梢から梢に飛べば魔物の目からは逃れられる。

上手く逃げろよ」

 返事を待つのは面倒臭い。

それに人間の言葉が分かるかどうかも不明。

たぶん伝わっていないだろうなと思いながら踵を返した。

魔物の多い方へ向かって駆けた。

身体強化を試すには絶好の機会。

戦うのではなく、奴等の目の前を擦り抜けてみよう。

課題は無傷での脱出。


 一頭目に正面から向かった。

Eランクの魔物ガゼローンだ。

奴は俺を真っ向から受け止めるつもりのようで、

後足二本で仁王立ちになった。

俺にとっては好都合。

正面から当たると見せ掛け、右脇を擦り抜けるつもり。

 すると背後に強い圧力を感じた。

何っ・・・、とっ。

俺はとっさに、何かから逃れるように更に右へ大きく跳んだ。

何かが俺の脇を通り過ぎた。

ガゼローンの首が斬り飛ばされた。

「妖精魔法のウィンドカッターです」脳内モニターに文字。

 新たに俺の前に立ち塞がろうとするEランクの魔物パイア。

それにも妖精魔法、これまた首を斬り飛ばされた。

「ウィンドカッターです」脳内モニターに文字。

 俺の左頬の辺りを妖精が飛んで並走していた。

尖った目付きで俺を見て言う。

妖精語なので分からない。


 藪から胴体部分が鱗で覆われた二足歩行の魔物。

待ってとばかりに飛び出して来た。

右手には錆び付いた短剣、左手には木の丸盾を装備していた。

下位ランクの冒険者から奪ったものだろう。

 血走った表情で俺を睨むが、恐ろしさは感じない。

何しろ体格が体格。

児童並みの身長で首から上は岩石のような顔。

四頭身、しかも頭部が大きすぎて、アンバランスの極み。

笑いを禁じ得ない。

「クランクリン、Fランクの魔物です」脳内モニターに文字。

 ゴブリンと同じFランクだが、

ゴブリンのように他の魔物達に毛嫌いされた存在ではない。

でも油断はしない。

水辺に生息する魔物で、常に群で狩りをするからだ。

目の前の奴は囮で、仲間が別方向から襲うつもりでいるのだろう。

注意を逸らさぬようにジワジワと足を進めて来る。

 妖精を残して逃げる訳には行かない。

探知スキルをフル活用。

藪の右に迂回する三匹を確認した。

俺は再び魔法使いの杖を取り出した。

殴る用途にも使える杖だ。

クランクリン相手に試してみようと思った。

ところが俺より先に妖精が手を出した。

ウィンドカッター。

目の前の奴の首をアッサリと斬り飛ばした。

相前後して迂回していた三匹が飛び出し、襲い掛かってきた。

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