(アリス)3
俺は荷馬車に乗り込み、探知スキルと鑑定スキルを連携させ、
原因を調べる事にした。
荷台には蓋付きの大小様々な木箱が並べられていた。
全部で二十箱。
馬への負担を減らすべく左右に整然と並べて積まれていた。
敵味方双方の死者から剥ぎ取った武器と防具、財布も。
探知スキルと鑑定スキルの仕事は早かった。
木箱を特定した。
俺はその蓋を開けた。
途端、魔素が溢れ出るのを感じ取った。
当たりだ。
中を覗くと様々な形状の木箱が詰められていた。
探知スキルと鑑定スキルが、またもや突き止めた。
一番下に置かれた1メートルほどの長さの木箱だった。
横は六十センチほど。縦は四十センチほど。
「魔素に覆われていますが、危険はありません」脳内モニターに文字。
年代を感じさせる木箱。
重さはそれほどでもないので取り出して床に置いた。
開けようと蓋に手をかけた。
蓋ごと箱が持ち上がった。
両手でも開かない。
蓋がガッチリくっついていた。
念の為、収納に再チャレンジ。
イメージして触れた。
失敗。
更に失敗。
3度目も失敗。
「盗難に備えた術式が施されています。
一つは開封拒否。
一つはアイテムボックス等への収納拒否。
開けられるは術式を施した当人。
ないしは次席の者です」脳内モニターに文字。
俺はそれを持って荷馬車から降りた。
木箱を足下に置き、荷馬車に触れて収納を試みた。
すると、さっきのが嘘のように簡単に収納できた。
慌てた。
急いで「悪党の荷馬車」と名付けた。
何の考えもなく単純に荷馬車を収納した訳だが、
こうやって複数の雑多な物を荷台に載せたまま、
一個の形で収納可能とは思わなかった。
優れもの。
問題は足下の木箱。
強引には壊せない。
中身が何かは知らないが、厳重な術式が施されている事を考えると、
相当なお宝。
外箱もろとも壊れたら元も子もない。
これはなし。
術式を解除するしかない。
やった事はないが何にでも最初はあるもの、チャレンジ。
俺は考えた。
そんなに時間はかけられない。
周辺のザコ魔物に新たな動きはないが、
何時までも辛抱強く待ち続けてくれるとは思えない。
ザコだし、魔物だし、早めに見切りを付ける必要がある。
試すにしても一度か二度。
思い付いた。
術式を術式として捉えるのではなく、汚れとして理解することにした。
木箱の汚れ。
それで発動するのは光魔法。
入浴と洗濯のライトクリーン。
心身の疲労を取り除くライトリフレッシュ。
対象の術式に、二つを連携させて染み抜きのイメージ。
脳内モニターに木箱に施された術式を映しながら、
EPを調整して取り組んだ。
最初こそ手応えがなかったが、EPの微増を続けて行くと、
術式に揺らぎが現れ始めた。
直感、水を投入。
汚れには水洗い。
水魔法をも連携させた。
ただの水滴では芸がない。
毒消しの効果を含有した魔水をイメージし、水滴として木箱に垂らした。
一滴、二滴、三滴、四滴、五滴。
水が光に融合しながら木箱の表面に広がり始めた。
そして、術式の文字や記号が端の方から溶けるように消えて行き、
「染み抜き完了です」脳内モニターに結果が示された。
術式だけでなく本物の染み付いた年代物の汚れも消え、真っ新。
新品同然。
嬉しくて気軽に蓋を開けた。
ひょいと開けた瞬間、・・・もっくもく、箱の中から煙が立ち込めた。
油断していたものの、反射的に煙りを躱した。
「毒性はありません。ただの煙です」脳内モニターに文字。
中には貝、箱一杯の大きさの二枚貝があった。
その二枚貝の上の方がパコッと大きく開いた。
思わず、ビーナスの誕生かと我が目を疑った。
違った。
一瞬で期待を裏切られた。
下の貝殻の中に小さな白い毛深い物がいた。
二十センチほど。
枕を抱き、こちらを向いて寝ていた。
猫に似て・・・、どう見ても子猫です。
腹部が微動、生きている。
「姿は猫ですが、ただの妖精です」脳内モニターに文字。
えっ、ただの妖精と言い切った。
猫で、妖精って・・・、何ですか。
それもだが妖精自体、すでに絶滅している筈だ。
「絶滅はしていません。
人間が売買の対象にしているので、人里から遠くへ離れたのです。
多くは深い森や高地にテリトリーを移しました」脳内モニターに文字。
俺は猫を鑑定した。
「名前、なし。
種別、妖精。
年齢、不明。
性別、不明。
住所、不明。
職業、不明。
ランク、不明。
HP、不明。
MP、不明。
スキル、不明。
ユニークスキル、不明」
種別は妖精だった。




