(アリス)2
俺は探知スキルで周辺の様子を探った。
いたいた。
ザコ魔物が現場を遠巻きにしていた。
戦いが続いている間は死闘の気配を敬遠し、
巻き込まれぬように迂回していたのだが、
終息と同時に魔物達は態度を変えた。
踏み留まり、様子見していた。
ハイエナ行動・・・、死臭に誘われたのか。
一頭が、もしくは一匹でも前に踏み出せば、それを合図にドッと来る。
これだけ数が多いとザコ魔物でも厄介だ。
テレンス側の連中はそれに気付かない。
勝利に酔ったまま、役割を果たそうとしていた。
特に回収班は目の色を変えていた。
金目の物を逃しはしない。
当然、死んだ仲間からも奪う。
死者数は両者合わせて二十八人。
魔法使い達が負傷者の治療を終えたのを見て、
リーダーは射手も含めた全員を荷馬車の脇に集めた。
生き残ったのはリーダーを入れて十九人。
大の大人が小さな輪になって何事か話し合う。
ここまでは聞こえない。
最後に全員が頷き、輪が解けた。
と、一斉に駆け出した。
何事が起きたのかと思えば、全員がこちらに向かって来た。
まさか・・・。
俺は囲まれた。
連中は古木を遠巻きにし、逃さぬ態勢。
俺は臍を噛んだ。
連中の中に探知スキルを持つ者がいないのは確かめていた。
それなのに見つかってしまった。
再度、鑑定スキルで確かめた。
でも、いない。
どうやら獣人並みに勘の鋭い者がいるらしい。
射手と魔法使いを左右に従えた敵リーダーが俺に呼び掛けた。
「覗き見とは感心しないな。
聞きたい事がある、下りてこい」
下りてこいと言われて素直に下りる馬鹿はいない。
生き証人を無事に帰す訳がない。
一対一なら勝算ありだが、
多勢が相手では躓き一つで簡単に殺されてしまう。
声を出せば児童と見破られる可能性もある。
それは接近戦でも同じこと。
か弱い俺としては非常に拙い。
口より先に手を出すしか選択肢は残されていない。
そこで俺は虚空の収納スペースから魔法使いの杖を取り出した。
魔道具屋で入手した初心者の杖だ。
店員が飾りのない無骨な杖を売るに際し、
殴るのに適していると笑って教えてくれた。
俺は攻撃魔法を発動する前に、紳士的に、
杖を返答代わりにリーダーに見せ付けた。
宣戦布告のポーズのつもり。
強気の裏で自分のHPとEP残量を確認した。
あまり使ってはいない筈なんだが・・・。
実際、それほど減ってはいない。
消費速度よりも回復速度の方が早かったらしい。
それでもある程度の余裕が欲しい。
虚空の収納スペースに蓄積しておいた分を回す事にした。
HP、EPを満タンにした。
まず面割れを防ぐ為に風魔法でフードを捲れぬようにした。
これで準備万端。
ゆっくりと大袈裟なまでに、魔法使い初心者の杖を振り回した。
その際、小枝を何本かへし折ったが、無視、無視。
選択は水魔法、ウォーターボール、水弾の連射。
威力は人間相手なので、EPから2を付加。
オリジナルで砲弾の自動装填をイメージし、
一発発射する度に次弾が自動的に精製されるようにした。
弾数は敵が十九人なので予備を含めて二十二発。
実戦投入は初めてだが、
自動装填のイメージは風呂で何度も試し、固めたもの。
失敗する訳がない。
探知スキルで個々にロックオンし、ホーミング誘導。
リーダーが口を開くより先に魔法使い三人が即座に対処した。
MPを回復させるポーションを飲んで余裕があるらしく、
周辺にシールドを幾重にも張った。
ウォーターシールドとファイアシールドの天こ盛り。
射手三人も負けてはいない。
死闘の熱を維持しているかのように、連射に次ぐ連射。
矢を雨のように射て来た。
木の下にはザコ敵が群れて集まって来た。
俺が墜とされるのを確信しての行動だろう。
なんて脳天気な連中。
俺は魔法を一つしか放てない訳ではない。
並行して複数の魔法を起動するのは試し済み。
ただ、これも実戦投入は初めて。
まずは飛来する矢への対策。
来る方向にウォーターシールドを大きく展開した。
展開した瞬間、自分の才能を疑った。
敵のシールドを紙だとすれば、俺のは鉄のような堅さ。
まあ、野良の魔法使いと比較すること自体が間違いなんだよね。
ダンジョンマスターだしね。
全ての矢が弾かれて行くのを横目に俺は水弾を連射した。
まずは一番最初に敵リーダー。
次に弓士スキル持ちと残りの射手。
それから魔法使い。
残るのはザコ敵のみ。
俺の水弾は一味違う。
軌道は一直線ではない。
オリジナルのカーブ。
野球を真似て、縦に大きく曲がるカーブにした。
高所からの敵の右肩狙い。
本当は頭に落としても良かったのだが、それでは殺してしまう。
何の恨みもないのに殺すのは・・・、どうなんだろう。
敵の命の心配ではない。
俺がダーク面に墜ちないかと危惧しているのだ。
敵が張った天こ盛りのシールドの上を越えて、
俺の水弾が敵に間断なく降り注ぐ。
それは実際に見たことのあるプロのカーブとは似ても似つかないもの。
縦に大きく、大きく、愚直なまでに垂直に落ち、
狙い通りに右肩を直撃、破裂、一撃で砕いてしまった。
光の速さで飛ぶから敵は避けようがない。
木の下に群れなすザコ敵の幾人かが、逃げようとして背中を見せたが、
そこまで。
ものの一分かかったか、かからないかで全てが終わってしまった。
鑑定スキルによると全員が気絶。
連射と自動装填の結果には100点満点を与えても問題ないだろう。
余った水弾が三発。
探知スキルで周辺の魔物の動きを探った。
何頭かが接近して来る。
距離はあるが、残弾処理には丁度良い。
こちらは魔物相手なので威力を変更し、EPの付加を3にした。
探知スキルでもっとも近い三頭の頭を狙ってロックオン、ホーミング誘導。
迫撃砲をイメージして打ち上げた。
呆気なく命中。
「三頭とも死亡」脳内モニターに文字。
残りのザコ魔物達は恐れをなしたのか後退り。
そのまま遠巻きにし、こちらを見守る動き。
俺は木から飛び降りた。
身体強化スキルを継続しているので、着地には何の障りもない。
全員の気絶を確認しているものの、
悪党の群の中を歩くのはスッキリしない。
幾人かが肩から血を垂れ流し、
幾人かが口から泡を吹いている様子が目に映った。
中には肩の骨が剥き出しの者も。
とっとと過ぎて荷馬車に歩み寄った。
鑑定スキルで四頭を調べた。
異常なし。
荷馬車も調べた。
潜んでいる者はいない。
さて、どうするか。
ザッカリー側は全滅し、テレンス側は見たまんまだし、
荷馬車の所有権は俺に移ったと判断してもいいだろう。
四頭を解き放ち、荷馬車を虚空スペースに収納する事にした。
四頭は周辺の魔物の存在に気付いているようで、
解き放たれるや俺に礼の一つも言わず、
矢のような早さで国都方向に駆けて行く。
それを見送りながら荷馬車を収納しようと手をかけた。
ところが、どすこい、失敗した。
荷馬車がウンともスンとも言わない。
「収納に適さない物が積まれています」脳内モニターに文字。




