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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
77/373

(アリス)1

 俺にとっては期待外れだった。

状況によっては何れかに加勢する気でいたのだが、

悪党同士の争いとなると、どうしても二の足、三の足。

かといって立ち去るのも惜しい。

リアルに悪党同士が命の遣り取りをしているのだ。

見過ごせない。

 脳内モニターで解説してくれた。

「北の者達はテレンス・ファミリー。

南の者達はザッカリー・ファミリー。

それぞれの立ち位置、仲間同士の遣り取りから、

テレンス側がザッカリー側の荷馬車を待ち伏せしていた、と断定」

 残念な事に現場にはテレンスもザッカリーもいない。

部下に任せ、当人達は国都に残っているのだろう。

もしかして凱旋パレードの見物を優先か・・・。

ついでに夜会に招かれているということは・・・。

まさかな、スラムの大立者にそれはないだろう。


 俺は観戦するのに打って付けの場所を見つけた。

太い古木の枝。

そこへ移動、鶏をイメージ。

身体強化スキルと風魔法を連携してジャンプ。

3メートルほどの高さの枝に、軽い身ごなしで跳び乗った。

スキルに感謝、感謝。

幹に背中を預けて観戦した。

 よくよく連中を見てみると大半が手練れ者で占められていた。

身ごなしに隙がなく、周囲の状況も捉えていた。

仲間とも連携していた。

魔物の生息域でも平然としていられるのは、

この戦力の裏付けあってのことなんだろう。

 時間経過と共にザッカリー側が次第に押されて行く。

治癒魔法でもポーションでも手に余る重傷者が増えたのだ。

無傷で戦っているのは十人ほど。

それでもリーダーらしき男は味方を鼓舞し、戦線を支えようとしていた。

性格なのか、諦める気配を見せない。

修羅場に慣れているということか。


 テレンス側が優勢なのは後方の射手と魔法使いによるものだろう。

射手三人の内の一人は弓士スキル持ちで狙った相手を逃さない。

魔法使い三人は負傷した味方に速攻で治癒を施し、

足りなければポーションを何本も惜しげもなく使い、

戦線に復帰させる手際の良さ。

 悪党のルールか・・・。

双方の魔法使いは攻撃魔法の発動を控えていた。

接近戦において魔法は使い方を間違えると、

ほんの少しの手違いで味方にも甚大な被害を与える。

それを懸念しての事かも知れない。

賢明にも負傷した味方の治癒にのみ専念させていた。


 目の前でリアルに血が流されているが、俺に悪影響はなかった。

心音は平常だし、震えることも鳥肌が立つこともなかった。

前世のお陰かも知れない。

向こうでは人命は重い、人権を守ろうと声高に唱えていたが、

お題目でしかなかった。

例えば労働者の過労死。

過労死が明るみに出ると行政側が是正勧告をしたが、

それは単に表向きのポーズにしかすぎなかった。

彼等が真に守るのは政官財のみで、労働者は置き去りにされた。

過労死だけでなく、パワハラ等のストレスで精神を病んで入院する者、

自殺する者は後を絶たなかった。

社員、契約、期間、パート、派遣等に関わらず、安い賃金で酷使され、

被害を被る者は数知れず。

それでも政官は財の要望に従い、

安い労働力を得ようとして海外からの労働力の導入に走った。

それは実質的な移民受け入れ。

安くこき使える日本人若年層が減少傾向にあるので、

これまた安直に海外から労働者を低価で迎え入れようと考えた。

人種・宗教・文化とかの違いは考慮せずにだ。


 俺は被害に遭った同僚が長期入院しても見舞うことしか出来なかった。

社内の組合が御用組合化してこともあり、座視するしかなかった。

怒りはあったが、ずっと、ずっと自分を殺して生きてきた。

 前世は政官財による陰湿な苛めが横行する世界だったが、

こちらの世界は違った。

強い者が上に行き、弱い者は下に蹴落とされる世界。

明確な身分差はあるものの、大概の事は実力のみで比較される。

幸いにも人権とか、人命のお題目に類する物はなかった。

嘘で塗り固められたお題目がないだけ、こちらの方が生き易いと思う。

前世の記憶を持っている俺だが、心身はこちらで育まれたもの。

堅実に対応していた。

まあ、それはそれで・・・構わない。

こちらの人生は、おまけの人生。

立ち回り方さえ間違わなければ楽しめるはずだ。


 全滅間近と気付いたのか、ザッカリー側のリーダーが動いた。

後方で治癒に専念していた魔法使い二人を呼び寄せ、

「皆殺しにしろ」と攻撃陣に加えた。

味方に被害が及んでも致し方なしと判断したのだろう。

 それにテレンス側のリーダーが気付かぬ訳がない。

同じく後方にて治癒に専念していた魔法使い三人を呼び寄せた。

「勝ち戦だ。防御に徹して相手の魔力が尽きるのを待て」と命じた。

 ザッカリー側の魔法使いが攻撃魔法を解き放った。

一人はファイアボール、一人はウォーターボール。

 対してテレンス側は防御魔法。

三人がそれぞれ得意のシールドを正面に張りまくった。

ファイアーシールド、ウォーターシールド、ウォーターシールド。

一つが破られても別のシールドで防御。

 俺は双方の魔法使いが前面に出て来たので期待した。

五人とも先天的な魔法使いではなく、

魔道具を用いている野良の魔法使いだと分かっていたが、

それでも魔法の撃ち合いを見るのは初めてなので期待した。

装飾された魔法使いの杖、威厳的な詠唱。

見た目は派手だった。

が、目の当たりにしたものは・・・ショボかった。

攻撃も防御もヘロヘロとしか思えないショボイ魔法。

チケットは買ってないが、チケット代を返せと叫びたかった。


 防御に徹したテレンス側が相手の魔力切れと共に、

一斉に攻勢に打って出た。

射手の援護を受けて相手の中央を断ち割り、個々に打ち倒して行く。

こうなると早い。

ザッカリー側は坂を転げ落ちるように墜ちて行く。

最後の一人、リーダーの首に矢が刺さるまで時は要さなかった。

 テレンス側のリーダーが中央に仁王立ち。

みんなを見回し、後始末の指示を下した。

「射手は魔物の接近を警戒しろ。

魔法使いは仲間の負傷者の治療。

ポーションは使い切っても構わん。

残りは倒れている敵を仕留めろ、息の根を止めろ。

金目の物は剥ぎ取り、現金を取り上げるのを忘れるな。

後で平等に分配するから荷馬車に運び込んでおけ」

 リーダーはザッカリー側から奪った荷馬車に歩み寄った。

まず四頭の馬の状態を確かめた。

異常なしのようだ。

満足そうな顔で荷馬車の幌を上げて中に乗り込む。

その際、隙間から積み上げられた木箱の山が見えた。

お宝の山。

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