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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(幼年学校)22

 フロッグレイドと聞いて驚きはしても恐れはない。

ランクは同じでも数値は俺の方が上。

負ける気がしない。

もっとも、戦うつもりもない。

水中は相手の土俵、上がるつもりがそもそもない。

 それに俺とフロッグレイドには圧倒的な違いがあった。

戦いの経験値。

生まれ落ちてから生存競争に晒されてきたフロッグレイドに対し、

俺が本格的に戦ったのは両手でも数えられるほど。

神経を使う対人戦などに至っては皆無。

ダンジョンマスターとの戦いも、まぐれで勝ったようなもの。

経験値には数えられない。

圧倒的に経験値の少ない俺が強者の土俵に上がることはない。

 それでも警戒だけは怠らない。

探知スキルと鑑定スキルをフル稼働させた。

何と、図鑑で名前を知っているだけの初対面の水棲魔物の多いことか。

大型だけでも十二頭。

そのうちフロッグレイドが半数を占めていた。

他に中型が三十七頭。

「生態観察、観察」俺は遠足気分。

光学迷彩スキル君、ありがとう。

ところが、

「これ以上の接近は危険です。

相手は勘で生きている魔物です。

こう多くては、どれかに万が一、勘付かれないとも限りません。

乱戦になれば巻き込まれる事もあり得ます。

引き返す事をお勧めします」脳内モニターからの勧告。


 一頭でも刺激すれば他にも波及するのは必定。

俺の迂闊な行動で湖底に大混乱が発生すれば、

堆積した泥の類を巻き上げて完全に視界を失う、という側面も。

そうなれば一触即発。

どこから何が来るか分からない。

闇夜の撃ち合い。

光学迷彩も役に立たない。

湖底がドロと血で染まる。

考えるだけでも恐い、恐い。

 観察を諦めて引き返す事にした。

イメージで光体の舵取り、方向転換させて川を遡った。

追い掛けて来る魔物はいない。

俺は探知スキルで魔物達に気付いたが、

先方は俺の接近に気付いてさえいないだろう。

ありがとう探知スキル君、鑑定スキル君。


 泳ぐスライムの群を掻き分けて遡上。

探知スキルで周囲の安全を確認して川から上がった。

光体の性能ゆえ全く濡れていない。

 安全な川原に戻ると光学迷彩を解き、身体強化スキルを発動した。

街道に出て、巨椋湖に向かった。

巨椋湖とその周辺は魔物の生息域として知られ、

多種多様な魔物が確認されていた。

俺は単独行動中のフロッグレイドとの遭遇を願いながら、

探知スキルで付近のザコ魔物を警戒しつつ、先を急いだ。

陸上でも戦いを挑むつもりはない。

毒のブレス、ポイズンミストのシャワーを浴びるなんてゴメンだ。

せめて、遠くから一目、実物を見てみたいだけだ。


 それにしても周辺にはザコ魔物が多い。

ザコがザックザク。

ザコが襲って来ないので、こちらも手出ししない。

無意味な戦いは時間の無駄と割り切り、先を急いだ。

 巨椋湖に近付くにつれ、

探知スキルが周辺で行われている戦いを捉える回数が増えてきた。

間近でも冒険者パーティが魔物と戦いを繰り広げていた。

鑑定スキルも連携させて戦いを解析した。

高ランク冒険者パーティは確実に仕留めるべく、

囲んで戦いを有利に推し進めていた。

加勢の必要はなかった。


 脇街道の方で異質な戦いを探知スキルが見つけた。

そこでは人を現す緑色の点滅が多いのだ。

少数の茶色の点滅はたぶん馬。

魔物を現す黄色の点滅はなし。

魔法発動を意味する青色の点滅も確認した。

人と人が争っている。

複数の人間対複数の人間の争い・・・。

信じられない。

魔物の生息する地で人間同士争うとは。

これでは魔物の餌になりに来たみたいではないか。

 俺は人間相手に光学迷彩もないだろうと考えた。

身体強化のみで急いだ。

両者の視界から外れた位置の木陰に身を伏せた。

 いたいた。

大量の動く餌を見つけた。

手に手に武器を持ち、死闘を繰り広げていた。

剣、槍、斧、遠間からは弓、魔法。

剣戟の響きに気合い、一喝。

敵味方共通して多いのは咆える者、喚く者。

怒鳴り立てて味方を鼓舞する者も見受けられた。

彼等の足下には息絶えた者がちらほら。


 その中心には四頭立ての幌付きの荷馬車があった。

不思議な事にそれに手を出す者はいない。

馬にも荷馬車にも被害を出さぬように気遣っている節が見受けられた。

そうなると馬車を巡って争っているということになる。

お宝を積んでいるのだろう。

 当然、馬車には馭者が付きものだが、既に無人になっていた。

元気で戦っているのか、

それとも真っ先に弓か魔法の餌食になったのか。

たぶん疑問の余地なく後者だろう。

 鑑定スキルがフル稼働。

脳内モニターに連中のステータスを次々と上げて行く。

何れも国都に住まう者ばかり。

荷馬車の中身までは分からない。

 と、突然、脳内モニターが停止、フリーズした。

驚いていると、さらに驚きが、再稼働したモニターに文字。

「全員がタグを偽造しています」


 国都に出入りする者は全員が首のタグを提出し、

城門の【真偽の魔水晶】で確認する決まりになっていた。

手配されている者を捕らえ、身元不明の流れ者を排除する為だ。

そのタグも魔水晶も魔法ギルドが作成したもので、

特殊な術式が施されている高機能品。

偽造は不可能とされていた。

 それでも身元を偽って通過しなければならぬ者達が、

少なからず存在した。

その多くは犯罪者だ。

そんな彼等の為に一つのカラクリが生み出された。

門衛の抱き込み、偽造したタグ、これまた偽造した【真偽の魔水晶】。

三つがセットになって初めて効力を発揮する城門のフリーパス化。

偽造した【真偽の魔水晶】を抱き込んだ門衛に渡し、

彼が勤務する日に偽造したタグで城門を出入りする。

摘発はされていないが、そんな噂話を学校で耳にした。


 鑑定スキルが怒っているように感じられた。

怒号は聞こえなくても熱を感じた。

次々と全員の身元を洗い直して行く。

新たなステータスがモニター表示されるのに時間はかからない。

真っ黒。

いずれも歴とした悪党ばかり。

人殺しもいれば、強盗、盗人、粗暴犯と人材に事欠かない。

住所はスラム。

 国都の外郭は四つの区画に分けられていた。

東西南北それぞれ繁栄しているが、

その陰には低賃金で働く貧民達の存在は欠かせない。

彼等貧民が棲まうのが各区画にあるスラム。

下層から落ち溢れた者達やワケありの者達の中から、

さらに暴力商売に特化したのがスラムの悪党達。

 荷馬車の向きから国都から来たと分かった。

それを別の連中が先回りして待ち伏せしていたと推測。

間違いない筈だ。

 鑑定スキルが彼等を二つの集団に分け、識別した。

外郭北区画のスラムの者達、南区画のスラムの者達という風に。

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