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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(幼年学校)19

 ブルーノ足利は執務室で奏上された案件の山に囲まれていた。

管領や評定衆、執事の段階で精査されているが、それにしても多い。

書類の山脈、種類は四つ。

一番多いのは内政関連。

管領や評定衆が事前に裁可済みで、

国王は目を通すだけで良い案件だ。

見た目、簡単そうだが、分厚いのが多いので読み熟すのに手を焼く。

 次は官僚や貴族の任免や処分等、それに外交関連。

国王の裁可を必要とする重要案件ばかり。

こちらは少ない。

少ないに越したことはない。

それだけ平和だと言うことだ。

 三つ目は国王の直轄領から届けられる報告書等々、

後宮からの物も含む国王の私的部分の書類。

執事が事前に精査しているとは言うが、こちらも多い。

 これらは明らかに当日分の仕事量を超えていた。

どう甘く見積もっても、五日分は優に超えていた。

何にしても国王一人では手に余る仕事量であった。

その為、国王の執務室には秘書役が設けられていた。

定数は四人。

彼等は事前に届けられた書類に目を通し、

優先順を付けて国王の手元に回すのを仕事にしていた

四つ目の山がそれ、国王の可及的速やかな処理を必要とする山。


 ブルーノはうんざりしながら、ひとつ一つ片付けた。

目を通すだけで良い書類にはサイン、

裁可が必要な書類には署名して璽。

時には要領を得ない物も混じっており、時間を無駄にしてくれる。

それらは付箋を付けて差し戻し。

溜め息をつきながら次の案件に手を伸ばそうとして、

窓から入って来た銅鑼の連打に気付いた。

遠くで打たれているのが、風に乗ってここまで聞こえて来た。

実に喧しいが、迷惑ではない。

心躍らせてくれる。

 ブルーノはやおら立ち上がり、窓辺に寄った。

五月の風が額に当たり、前髪を掻き乱した。

気にはせず、風のするままに任せて音のする方向に目を遣った。


 外郭の東門だ。

時刻からすると美濃地方の者達が王都に凱旋入場する頃合い。

昨年暮れ、木曾谷の大樹海から魔物が溢れ出た。

所謂、魔物の大移動。

それを歴史上初めて阻止したのが彼等だ。

バート斉藤伯爵と息子達、その重臣や主立った寄子の貴族達。

尾張から加勢に駆け付けたレオン織田男爵。

彼等が騎乗のままで東門から凱旋入場し、

国王に謁見する段取りになっていた。

 昨年暮れからだから随分と日にちが空いたが、それは致し方ない。

王家だからと言って、潤沢に年間予算がある訳ではない。

見えない所では削りに削っている。

この凱旋も恒例の春の園遊会と同日開催にし、

謁見後の夜会を園遊会にセット、予算を浮かせた。

ブルーノは全てが終わったら裏方の者達の労を労おうと思った。


 謁見場は王宮とは別で独立した建物になっていた。

春と秋の園遊会に用いられる庭園に付属する形で、

その一角に建てられていた。

謁見と園遊会をセットにしても距離的には何の問題もない。

 問題なのは双方に典礼の責任者がいて、

それぞれの予算が決められている事。

どちらの予算から如何ほど支出するか、何度もすり合わせが行われた。

しかし双方が納得できる範囲には収まりきらなかった。

双方で支出をけちったからだ。

余剰金を手元に残そうと足掻いた。

結局、期日が迫り、最後には若手の典礼が譲歩させられる形になった。

 その庭園に園遊会を任された典礼がいた。

バイロン神崎子爵。

若手ながら誠実な仕事振りで知られる人物だ。

ただ今回は相手が悪かった。

エリオス佐藤子爵。

同じ子爵だが、年齢も官位も違った。

若手と老人。

バイロンが従四位なのに対しエリオスは正三位。

佐藤子爵は伯爵待遇。

最後は官位で押し切られて悔しい思いをした。


 バイロンは庭園で催される園遊会の準備を見て回っていた。

遺漏はない、準備万端。

後は夕刻の開始を待つだけ。

 途中で典礼補佐のクラウド守谷男爵と合流した。

「子爵様、受付から給仕まで人員の手配に異常はありません」

「警備の方は」

「近衛の方々はもうじき来られます。

来着次第、総点検されるそうで、

その際には子爵様に立ち会って欲しいそうです」

「分かった。立ち会おう」

 二人は並ぶようにして庭園から出た。

その時、エリオス子爵と鉢合わせした。

老人だが矍鑠としており、

供の典礼補佐のフランク板倉男爵に負けぬ歩幅で歩いて来た。

謁見場に向かうのだろう。

 バイロンは同じ子爵なので目礼だけで脇を過ぎようとした。

けれどエリオスはバイロンには目もくれない。

むっとした。

過ぎた瞬間、弾けるような笑い。

老人特有の高笑い。

かーっとした。

頭に血が上った。

エリオスに押し切られた際の表情を思い出した。

あの人を見下す何とも言えぬ目付き。

 思わず帯剣に手が伸びた。

宮廷での武装は固く禁じられ、貴族に許されているのは短剣のみ。

その短剣を勢いで抜いた。

陽光に燦めく刃。

バイロンは我を忘れた。

短剣を大きく振り上げた。

「このっ、思い知れ」斬り掛かった。

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