(幼年学校)17
女児三人が落ち着いた頃を見計らい、代表してシンシアが俺に言う。
「ごめんなさいね、駆け付けるのが遅くなってしまって」
「謝られてもね。
まず、謝られる理由からして分からない」
「そうよね。
・・・。
私達三人はそれぞれのお店の御主人に、
お嬢さま方の護衛を依頼されていたの。
なのに、駆け付けるのが遅くなってしまった。失敗ね」
彼女達は冒険者として冒険者ギルドに所属していた。
ただし魔物討伐系の仕事は行わず、
街中の仕事に従事する冒険者であった。
家庭教師や商店の帳簿整理、国に提出する書類の仕上げ等々、
仕事には事欠かなかった。
「魔物の討伐は苦手と聞いていました。
それでも引き受けたんですか」
シンシアに代わってルースが答えた。
「苦手なんだけど、戦えない訳じゃないのよ。
これでも魔法学園の歴とした卒業生。
卒業試験の魔物討伐は立派に遣り遂げたわ。
ただ、野営が嫌いなだけ。
どう、ご希望なら私のファイアボールをお見舞いしてあげようか」
彼女達は魔法学園の同期生であった。
魔物討伐を終えて卒業すると三人揃って国の招聘に応じた。
魔法使いとして国軍に配属された。
当初から士官待遇なので文句はなかった。
が、年を経るに従い、様々な不満が溜まってきた。
その最大なのは人事面。
足利氏の長期支配の弊害か、依怙贔屓・汚職が跋扈していた。
貴族の子弟だと昇進が早い、金銭で階級が売買されている等々・・・。
我慢の末、三人は一緒に退役し、現在に至っていた。
「せっかくですけど、ファイアボールはご遠慮申し上げます」
するとシビルが笑って言う。
「あらルース、振られちゃったのね。
それじゃダン君、私のアースボールなんてどうかしら」
「それも結構です。
ねえ、仕事しませんか」みんなを見回した。
「仕事・・・。終わっているわよね」シンシアが応じた。
「まだ息してる奴がいます。
虫の息ですから危険はないでしょう。
それを二人一組で回って仕留めて下さい。
ついでに討伐証明部位を刈り取って下さい。
角は二本一組で一体扱いです。
・・・。
俺は周辺の警戒を続けます」
ようく見ると、のた打ちまわるゴブリンが見受けられた。
これは俺の弓の命中精度の問題点だろう。
「そういうことか。ゴブリンは常時討伐扱いだったわね。
分かった、やるわ」とシンシア。
話し合って、組み合わせは師弟コンビということになった。
勿論、家庭教師と担当する教え子だ。
三組が散開してゴブリンを仕留めて回る。
結構な数、悲鳴が上がった。
ついでに討伐証明部位の刈り取りの声。
こちらでは女児達の悲鳴が上がった。
ゴブリンの討伐部位は角なので、頭部から切り取る際、
手際が悪いと皮膚も一緒に削り取る事になるので悲惨なことに・・・。
俺は警戒しながら足下のゴブリンを見下ろした。
他よりも一回り大きい固体だ。
たぶん、ゴブリンリーダーだろう。
こいつの角は俺が切り取らないと立場上拙い。
弓を虚空に仕舞い、換わりに短剣を手にした。
女児達が知れば卑怯呼ばわりされるかもしれないが、
俺はEPの助けを借りることにした。
身体強化のイメージ。
他人の魔法を分析して取得したものではなく、
田舎で行っていた気の精錬を応用したものだ。
剛と柔を意識して全身にEPを巡らした。
体中の筋肉にピリッと痛みが走った。
「新たなスキルを獲得しました。身体強化☆」脳内モニターに文字。
予想外のスキルを得た。
ついでに短剣にも、ちょっとだけEPを付加。
その短剣を振り下ろした。
サクッサクッ。
「魔卵を持ってます」脳内モニターに文字。
鑑定スキルの精度が上がった。
ゴブリンをスキャンした画面に切り替わった。
内臓の端にくっついていた。
切り開いて取り出すしかない。
腹部に刃先を突っ込んだ。
ズブッ、グリグリ。
俺は張ったままの水盾に気付いた。
ウォーターシールドを張ったままだった。
意外と長持ちするではないか。
魔法使い三人の指摘がないことから、
俺のEPの方が高位にある事を実感した。
慌てる事でもないが、解除。
途端、消える手応え。
疲れたような表情で女児達が戻ってきた。
両手で持ちきれないのか、討伐部位の角を胸元に抱えていた。
手袋や胴当てが血で汚れているが、慰めの言葉は掛けない。
これが冒険者の仕事・・・。
俺は虚空から風呂敷を取り出し、それに刈り取った角を置かせた。
14匹だから角は28本。
魔卵が3個。
小さなゴブリンにしては、これは大収穫と言うべきだろう。
なにしろゴブリンは肉質が悪く、他の部位も低評価、まさしくFランク。
売れるのは角と魔卵の二つだけときた。
ところが、その二つが調剤の素材として高評価、
高値で買い取って貰えるのだ。
「さあ、最後の仕事だよ。頑張ろう」
俺の言葉に家庭教師の三人が頷くが、女児三人は不審そうな顔。
それを見て取ったシビルが説明した。
「平地で魔物を討伐したら穴に埋める決まりなの。
血の臭いに誘われて大量に魔物が集まる懸念があるからね。
ただし、山や森で討伐したら、そのまま置き捨てにしても問題ないわ。
穴掘りしている最中に魔物に襲われちゃ、元も子もないでしょう」
シビルが土魔法で広くて浅い穴掘り。
俺は警戒続行。
他の五人でゴブリン運搬と分かれた。
俺は不満そうなキャロルに約束した。
「これが終われば今日は、じゃがバターだ。残ってればだけど」
茹でたジャガイモにバターを乗せたものだが、
バターは入手困難な一品。
平民には贅沢品。
それでも常に入手しているスイーツ店があった。
途端に女児達の動きが良くなった。
流石は元国軍の魔法使い。
シビルが手慣れた呪文で穴を広げて行く。
14体もあるので、それ相応の広さの穴が必要と考えてのことだろう。
丁寧な仕事ぶり。
小さい魔方陣が足下にまで現れた。
地面の雑草ごと土が除去され、広くて浅い穴が出現した。
「土魔法の分析が終わりました。
EPで再現可能です」脳内モニターに文字。




