表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
70/373

(幼年学校)16

 俺の左手は愛用のM字型複合弓を掴んでいたが、

右手に矢はなかった。

これから取り出しても、完全に手遅れ。

半拍遅れで斬られてしまう。

となると、打つ手は限られた。

防御。

水魔法。

風呂で散々練習した水盾、ウォーターシールドを発動した。

初めての実戦投入だが、造るのには自信があった。

問題は強度のみ。

万一に備えて盾一枚につきEPから3を投入。

強度に2、弾力性に1。

それを三枚重ねして9を消費した。

 前はイメージに加えて掌の所作でEPを操作していたが、

今は掌を省いてイメージのみ。

探知スキルや鑑定スキルと同じ様に自在に操作できた。

ゴブリンとの間に瞬時にウォーターシールドを置いた。

水盾だからと言っても物は魔法、その姿形は人の目には見えない。

勿論、ゴブリンにも。

空間が微かに歪む程度。

手応えは当人にしか伝わらない。


 長剣が迫って来た。

俺との中間で、「パキーン」と乾いた軽い音。

長剣が大きく弾き返された。

ウォーターシールド一枚目を鑑定した。

激しい打撃を受けた筈なのに、ダメージはない。

 ゴブリンが想定外の出来事にバランスを崩して着地に失敗。

盾陣の内側に落ち、長剣を手放した。

それでも起き上がると、直ぐに態勢を立て直した。

歯を剥いて俺を威嚇しながら長剣を拾い上げた。

 ゴブリンには俺しか見えていないらしい。

生憎、馬止めの盾に囲まれた内側には女児三人がいた。

その三人が黙って見ている訳がない。

加勢。

最初に槍が突き出された。

「オッシャー」モニカだ。

背中から入った穂先が腹から顔を覗かせた。

驚愕の表情でゴブリンが穂先を見た。

 短剣が叩き込まれた。

「エイヤッ」マーリンだ。

問答無用で首を斬り落とそうとした。

一撃目は失敗した。

マーリンは諦めない。

二度三度と斬り付けた。

四散する血飛沫。

すでにゴブリンは意識を手放していた。

鬼の如き表情のマーリン、四撃目で首を落とした。


 出番のなくなったキャロルは新たな敵影を求めた。

盾と盾の隙間から外を警戒した。

見つけた。

最後の一匹。

こちらに背を向け、50メートルほど先を逃げて行く。

先の藪を目指している気配。

キャロルは弓を構えた。

矢を番えたと思いきや、簡単に放った。

無造作に放たれた矢が緩い放物線を描きながら、

物の見事に相手の背中に喰い込む。

藪に首だけ突っ込むゴブリン。


 女児三人は精神的にも肉体的にも疲れている筈なのに、

弱音は一切吐かない。

無駄口も利かない。

黙ってそれぞれの持ち場に戻り、警戒を維持し続けた。

 俺は改めて三人に感心した。

意識が高い。

とても平民の子とは思えない。

 俺は探知スキルで周辺を探った。

境目辺りに魔物や獣はいるが、こちらに向かって来る奴はいない。

と、俺達の後方に緑色の点滅、人。

一人、二人、三人。

しばらく人の気配が途絶えていたのだが、ここにきて人とは有り難い。

人の気配が増えれば魔物も接近自体を控えるだろう。

その三人なんだが、何だか・・・走って来る様子。

何かに追われている気配はない。

何を急いでいるのだろう。

遠目にだが、三人の様子が見て取れた。

魔法使いの杖を肩に担ぎ、血相を変えてこちらに駆けて来る。

俺はズームアップした。

お揃いの灰色のローブを着用した成人女性が三人。

見覚えがある顔ばかり。

シンシアにルース、シビル。

キャロル達の家庭教師三人ではないか。

それも杖から分かるように、魔法を教える家庭教師。


 都合良く近くに居合わせ、

こちらの様子を見て助けに駆け付けたのか・・・。

 俺は女児三人に尋ねた。

「後ろを見て。

ようく見て。

こちらに駆け付けて来るのは家庭教師だろう。

どうしてこの辺りにいるんだろうね」

 三人からの答えは返ってこない。

それでも、それぞれが喜んでいるのは分かった。

家庭教師三人が近付いて来るのに従い、

女児三人の身体から力が抜けて行くのが丸分かり。

「迎えに出ても良いよ」

 俺の言葉で女児三人が武器を手放し、

馬止めの盾の陣から抜け出した。

それぞれが自分の家庭教師の元に駆けて行く。

キャロルはシンシア。

モニカはルース。

マーリンはシビル。

それぞれの胸元に飛び込む。

シンシアは水魔法の使い手。

ルースは火魔法の使い手。

シビルは土魔法の使い手。

国軍の元士官でもあった。


 キャロル達三人が上の学校に進むには魔法のスキルが有利とか。

そこで魔力の少ない三人が取ったのは魔道具で魔力を増力し、

スキルを得る方法。

彼女等は生まれながらの先天的な魔法使いではないので、

後天的な、所謂、野良の魔法使いに成る道を選んだ。

 幼年学校に進むには一芸試験が有利として、

道場に通って武芸に励んだ三人。

その上に進むには魔法スキルが有利と判断しての家庭教師。

実に計算高い。

何時までも彼女達とは仲間でありたいもの。

それぞれの家庭教師の胸元からすすり泣きが聞こえるが、

聞こえなかったことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ