(幼年学校)15
冒険者パーティの根底にあるのは信頼。
信頼なくしては何も成り立たない。
俺は右手で方向を指し示し、
「ゴブリンの群が来る。数は十匹以上」状況を伝えた。
俺の回りに仲間達が無言で集まって来た。
顔色こそ悪いが誰一人逃げようとはしない。
無駄口も利かない。
顔を上げて俺の次の指示を待つ。
「僕が正面を受け持つ。マーリンは右警戒。モニカは左警戒。
キャロルは背後に回り込んで来た奴を頼む」
俺はマジックアイテムから取り出すと見せ掛け、
虚空の収納スペースから大型の盾を手早く取り出した。
八枚。
裏側の支柱二本でもって地面に縦置きするタイプ。
通常は馬止めの盾と呼ばれている頑丈な物。
それで俺達の周囲を大雑把な円陣で囲った。
盾と盾の隙間からゴブリンに侵入される懸念はあるが、
その前に俺が弓で倒せば済むこと。
今の俺には弓士スキルに加えてEP付加がある。
彼女達の安全の為にもEPをフル活用するつもりでいた。
M字型の複合弓を左手に持ってゴブリンの襲来を待ち受けた。
俺達の周囲の雑草の丈は低い。
足首が隠れるほど。
薬草の自生地なので、手入れが行き届いているのだろう。
けれどゴブリンが来る方向は違う。
前方の山の麓から手前の100メートル辺りまでは、
人の手が入っていないようで雑草は伸び放題。
蔦も絡み放題。
こんもりした藪も点在し、それらが視界を遮っていた。
枯れ草の隙間から鳥達が一斉に飛び立った。
距離300。
距離200を過ぎた辺りだった。
草陰に隠れながら足音を消して忍び寄って来た群の動きが豹変した。
一斉に駆け出した。
丈の高い草を踏み倒しながら猛進して来た。
真っ直ぐに突っ込んで来る、と思いきや違った。
途中で変化した。
左右に大きく広がりながら、こちらを囲む態勢をとった。
指揮を執る個体の存在が明白になった。
武官タイプだろう。
半数が人間から奪った武器を持っていた。
槍、斧、長剣、短剣。
弓はいない。
残りは長い棒。
何匹かが雄叫びで気勢を上げた。
自分達の方が多勢と分かっているのか、動きにも余裕が見られた。
俺は女児三人を見渡した。
相変わらず顔色は悪いが、頑張って持ち場に付いていた。
彼女達は魔物との戦いは初めてではない。
カールの指導下でも二度ほど遭遇していた。
今回が三度目。
カール抜きの初めて遭遇戦になっただけ。
俺は迎撃の前に三人に声を掛けた。
「僕達は一人じゃない、四人だ。大丈夫、勝つ。
キャロル」
「おう、私も大丈夫」弓を掲げるが声は上擦っていた。
「マーリン」
「おう、任せて」小刻みに足を振るわせながら短剣を振り上げた。
「モニカ」
「おう、ぐさっと突き殺すわ」乾いた声、頭上で槍を振り回した。
俺は探知スキルを活用した。
最接近している敵から順番に脳内モニターにズームアップ。
そして収納スペースから間断なく矢を取り出すイメージ。
矢を取り出し矢継ぎ早に右に左に射た。
硬い外皮と剛毛に覆われていると聞いていたが、所詮はゴブリン。
EPから2を付加した効果もあり、深々と射貫いて行く。
その気になれば全部の個体を射殺せるが、手を抜いた。
仲間の仕事を奪う気はない。
この先、学校に通う五年間、パーティを組み続けるので、
彼女達には経験を積み上げてランクアップして貰う必要があるのだ。
万一に備えて、探知スキルで周辺を警戒しながら、仕事振りを見守った。
キャロルは後方に回り込んだゴブリンを見逃さない。
盾と盾の隙間からジッと見遣る。
待ち受け時間は長いようで短い。
射程に入るや、すかさず手にしていた二本の矢を射た。
ゴブリンの身体の正面に二本とも当たった。
威力は女児なりのもの、それでも動きを封じる事には成功した。
矢筒から次の二本を掴み取り、動けない奴を容赦なく射る。
一匹が別の隙間から忍び込もうとしていた。
マーリンが気付いた。
声を上げるより早く、跳ぶようにして駆けた。
短剣を振り上げ、内側に伸ばされた腕を叩くように切り落とした。
噴き出す血飛沫。
マーリンは容赦しない。
血飛沫を浴びながらも短剣を突きだして仕留めた。
別の箇所では一匹が盾に体当たりして来た。
馬止めの盾なので、ゴブリン程度で倒せる筈がない。
それでも諦めない。
二度目の体当たり。
盾と盾の隙間から槍がスルリと突き出された。
「オッシャー」モニカの気合い。
穂先がゴブリンの首を貫いた。
残ったゴブリンは二匹。
そのうちの一匹はそれなりの防具を身に着けていた。
古びた革の兜に胴巻き、籠手、長剣。
奴は手前で足を止めた。
俺と視線が絡んだ。
憎々しげに睨み付けて来るゴブリン。
その姿形に違和感・・・。
他のゴブリンに比べて一回り大きい。
別の種の魔物の血を濃く受け継いでいるのだろう。
これが群を率いている個体のようだ。
奴が不意を突いて来た。
俺の前の盾を蹴るようにして駆け上がって来たのだ。
頑丈な盾なので壊れることも倒れることもなかった。
俺を見下ろして邪悪な笑み。
次の瞬間、長剣を両手で大きく振り上げた。
こちら側に飛び降りながら、勢いに任せて振り下ろす。




