(幼年学校)14
国都は東方・北方・西方を鬱蒼とした深い山々、
南は巨椋湖を中心にした湿地帯、四方を自然の要害で囲まれていた。
だからと言って孤立している訳ではない。
幾つもの街道が整備され、四方に繋がっていた。
東方は北海道から、西方は九州の先のオアシス都市・琉球まで。
国都の外周には広大な平地が広がり、
農村や各種の施設等が点在していた。
俺達が選んだ枝道の先には冒険者ギルドの施設があった。
馬の放牧地だ。
堀割と外壁で囲われているので内部は窺いようがないが、
馬の嘶きが頻りに聞こえて来るので、それと分かった。
俺達は目立つ。
お揃いのカーキ色のローブ姿の四人組。
どう見ても魔法使い気取りの子供パーティだ。
擦れ違う大人達に心配された。
「山に入ってはいけないよ」
「魔物を見たら、急いで逃げるんだよ」等々。
その度に俺達は、「薬草採取するだけだよ」と弁解した。
人の気配が切れたので俺達は木立の陰に入った。
それぞれが手早くローブを脱ぐ。
俺がローブの下に袈裟掛けしている草臥れたズタ袋は目立たないが、
キャロル達のマジックアイテムのズタ袋は目立つ。
真新しいのだ。高価な品とも分かる。
分不相応、新人冒険者には相応しくない。
稼ぎからすれば、ランク的にはDクラスから持てる装備品だ。
三人揃って裕福な商家の子なので致し方ないのだろうが、
とにかく悪目立ちする。
奪ってくれと言っているかのようだ。
俺達はマジックアイテムから装備する物を取り出した。
児童にとって金属の防具では動きにくいので、全て革製品であった。
帽子、手袋、胴当て、肘当て、膝当て、長靴。
剣帯には短剣、採取用のナイフ。
俺は虚空の使用に慣れてきた。
手にするイメージだけ。
左手にM字型の複合弓とイメージすれば、それが左手に。
右手に矢とイメージすれば、それは右手に。
タイムロスなく取り出せた。
装備を終えた俺達は行動を開始した。
勘働きに優れているからという理由付けで俺が斥候。
次は薬草探索が役目のキャロル。
三番手は盾役のマーリン。
最後尾は後方の安全確認が任務のモニカ、槍役。
これはカールが考えたパーティ編成でもあった。
冒険者パーティ「プリン・プリン」の初めてのお仕事が始まった。
薬草の採取。
Fクラスの冒険者にとって常時依頼のお気楽なお仕事。
これでポイントを稼げば、
通常は成人から一年の経験と実績ポイントが必要なのだが、
成人と同時にEクラスに昇格も出来た。
俺は探知スキルと鑑定スキルを連携させた。
脳内モニターに俯瞰した地図、鳥瞰図。
多数の茶色い点滅が示された。
方向から冒険者ギルトの放牧場の馬、と分かった。
緑色の点滅。
これは街道、脇街道、間道、枝道等を行き交っている者達。
怪しい点滅はなし。
風に乗って遠くで争っている声が聞こえて来た。
風の吹く方向から斜め前方の山中。
暇なのでそちらに探知スキルを伸ばして見た。
すると入り乱れる緑色と黄色の点滅があった。
冒険者パーティと魔物の群が戦っている様子。
青色の点滅。
一人が魔法を発動した。
黄色の点滅が一つ消えた。
間を置いて緑色の点滅が一つ動きを止めた。
そして消えた。
冒険者は基本、自己責任。
魔物との戦いに限らず、宝物探しも、護衛も・・・自己責任。
俺はみんなには黙っていることにした。
しばらく行くとキャロルが自生している薬草を見つけた。
五種類ほどが広範囲に広がっていた。
俺が警戒に立ち、他の三人が採取に専念した。
採取した物を竹籠に入れてズタ袋に収納。
これを何回か繰り返した。
思いの外、大量に薬草を採取した。
帰ろうかなとした時だった。
こちらに向かって来る黄色の点滅、群を発見した。
密かに接近して来た。
明らかに俺達を狙っていた。
奇襲。
脳内モニターに文字。
「Fクラスの魔物が接近中です。
ゴブリンの群です」
鬼の種から枝分かれした魔物で、単体だとFクラスの魔物。
身長も児童かと見間違えるほど低いが、腕力は大人並み。
硬い外皮と剛毛に覆われ、額の左右には鋭い角を持っていた。
単純なゴブリン語を使うが、長命なゴブリンは人の言葉も理解する。
人から奪った武器を器用に扱うので群れなすと侮れない。
群を率いる個体にもよるが、
群による狩りではD・Cクラスの力量を示すこともあるという。
ゴブリンの集落に雌はいない。
雌が全く産まれないのだ。
それで外部から雌を強奪拉致し、腹を借りて集落を維持した。
雑食だからでもないだろうが、雌の種にも拘らない。
人でも魔物でも、雌であれば構わなかった。
獣姦が習性で、毛色こそ違うが常に雄のみが産まれてきた。
これが原因でゴブリンは他の魔物にも忌み嫌われ、
発見され次第、襲撃される側に立たされていた。
常在戦場、ゴブリンを現すに相応しい言葉だ。
俺は緊張した。
傍には女児三人がいた。
俺が守るべき対象だ。




