(幼年学校)12
珍しく脳内モニターのアラームで目を覚ました。
疲れていたらしい。
身体がではなくて精神的に。
昨日の織田伯爵家の一件とクラス委員の一件、都合二件。
前世が大人だったので表面上は巧く対応出来たが、
心の奥底では子供心に痛手を負った。
心臓には毛が生えていなかった。
慌てて飛び起きて窓を開けた。
冷たい二月の風が部屋に押し寄せて来た。
冷気で目が完全に覚めた。
何時もだと朝日が昇る前後に目を覚ますのだが、
もう既に朝日は顔を見せていた。
今日は学校は休み、冒険者として働く日。
慌てて身支度を整えた。
約束の刻限には余裕があるが、朝食の時間を考えると、
ギリギリかもしれない。
手早く魔法を使った。
心身の疲労を取り除く光魔法、ライトリフレッシュ。
即座に朝日とは違う別の光が俺の全身を包む。
優しい光の感触。
この年齢で必要になるとは思わなかったが、
未だに残るモヤモヤ感を消すにはライトリフレッシュしかない。
ブラック企業の過労戦士を癒す・・・。
大晦日に分析した火魔法と光魔法を人目を引かぬように鍛錬し、
習得していた。
呪文は不要、水魔法同様にイメージするだけ。
次いでライトクリーン。
一瞬で入浴と洗濯をしてくれる便利なライトクリーン。
さっきと同じ様に光が全身を包む。
肌にヒタヒタと来た。
身体だけでなく着用している衣服も綺麗になった。
現在の魔法スキルは水、火、光の三つ。
ただし攻撃魔法としては未知数。
鍛錬する時間も場所もなかったからだ。
今は生活の為にのみ使用している。
飲み水、暖房、照明・・・。
寮を飛び出した。
食堂へ向かう者達から声が掛かった。
「ダンタルニャン、ギルドで仕事を請けるのか」
「当然。
稼いで稼いで、稼ぎまくるぜ」
「魔物も倒すのか」
「それは無理。
成人するまでは薬草採取の類だけだよ」
校門を出入りする際は幼年学校の橙色のローブを着用する、
と校則にあるので、それに従い今は橙色のローブ姿。
ちらほらと先を行く者達も橙色のローブ姿。
ただし一歩でも外に出れば、その限りではない。
俺は校門から離れるや、走りながら手早く脱いで、
ローブの下に袈裟懸けにしていた草臥れたズタ袋に収納した。
亜空間に収納するマジックアイテムのショルダーバッグだ。
実際には俺のスキル、虚空と関連付けしているので、
収納先は虚空の収納スペースになっていた。
収納スペースが本当の収納先で、マジックアイテムは見せ掛け。
入れた代わりに冒険者用のローブをズタ袋から取り出した。
汚れるのを前提にしたカーキ色のローブ。
それを着て東門の冒険者ギルドへ急いだ。
学校の近くにもギルドはある。
南門の冒険者ギルドだ。
でも一緒にパーティを組んだ三人の住まいは東門の方が近い。
それに俺を含めて、みんな東門で入会の手続きをした。
顔見知りのギルド職員もいる。
カールの友人のバリーとか。
東門の冒険者ギルドは大勢の冒険者が訪れ、掲示板前は混雑し、
受付カウンターには行列が出来ていた。
要領の良いのは前の晩に受注すると思われがちだが、実は違う。
早朝が正解。
深夜に国都のギルド間で情報が共有分析され、
翌早朝に最新の魔物情報や新規の依頼が掲示板で公開される。
それらを検討してから受注するのが最善なのだ。
俺は大人達の邪魔にならぬよう、併設のカフェに入った。
暖かい店内、漂う珈琲の香り。
子供なので胃が珈琲を受け付けないが、香りは大好物。
店内は八割ほどの入り。
ほとんどがモーニングしていた。
俺に声が掛けられた。
キャロル達が窓際の席から手を振っていた。
ギルドのカウンターの様子がよく見える席だ。
愛くるしいリスを思わせる小柄なキャロル。
丸っこい感じのマーリン。
頑丈そうなモニカ。
三人とも十才。
見た目は女児だが精神面は侮れない。
前世の同年代に比べて強かなのだ。
五才の頃から幼年学校の一芸試験を目指し、
町の道場に通って武芸を磨いてきたと言っていた。
得意なのはキャロル・弓、マーリン・剣、モニカ・槍。
その腕前はパーテイ編成の指導をしてくれたカールも認めるほど。
残念なのはパーテイの名前。
届けるのを三人に任せたら、「プリン・プリン」になっていた。
プリンス・プリンセスを略したそうなのだが・・・、どうなんだろう。
一応、リーダーは俺になっているが・・・、先行きが怪しい。
三対一で俺が押し切られる未来しか想像できない。
「おはよう」と挨拶し、モーニングを頼んだ。




