(幼年学校)7
校舎は敷地の中央にあった。
二階建てが五棟、整然と並んでいた。
学年ごとに分かれており、手前にあるのが一年の校舎。
その校舎を間近にして鑑定スキルが仕事をした。
「建築には土魔法がふんだんに使われています。
術式を施し、同時に魔卵を埋め込んで、
そこに魔素を溜めるようにしています。
経年劣化の疑いがありますが、
大きな地震がなければ問題ないでしょう」と脳内モニターに文字。
一年十組の教室は二階の左端、左側の階段から上がった。
生徒の席は四列。
廊下側から四、四、五、五で十八。
それぞれの机の上に名札が置かれ、
教科書の山と橙色のローブが一緒に載せられていた。
俺の席は教壇から見て左、窓際の最後尾。
みんなが席に着いたのを見計らったかのように担任が現れた。
大柄な獣人が教壇に立った。
グッと生徒達を睨み渡した。
「はい、こちらに注目」
入学式でそれぞれのクラスの担任が紹介されたが、
王妃登場が強烈だったので、名前は覚えてはいない。
それを見越してか、まず自己紹介をした。
「担任のテリーだ。
知っているように、ここは一芸試験で合格した者が集められている。
約一名、白色発光合格した者もいるが、まあとにかくだな、
これから一年、よろしくな。
・・・。
机の上の教科書は、教室後方の個人ロッカーに入れて置くこと。
勉強が好きという者は持って帰っても構わない。
ローブは制服なので学校の門を出入りする際は必ず着用すること。
そのローブには特別な機能がある。
それを着用していると、街中を歩いていても、
不埒な者に絡まれることがない。
・・・。
分かったら、さっさと教科書をロッカーに入れる」
幼年学校の生徒は橙色のローブ。
魔法学園の生徒は紫色のローブ。
そういう風に着用するローブの色が決められていた。
児童だがそれでも身分は国立の生徒、
そんな子等に昼の日中、街中で絡む酔狂な者はいないだろう。
生憎、教科書を持ち帰るという者はいなかった。
一芸合格だから教科書を軽んじているとは思いたくないが・・・。
けど、いるかもしれない。
全員が席に戻ると、テリーが言う。
「さっそく自己紹介タイムだ。
最低でも名前と出身地は言ってくれよ。
ついでに目標なんて語ってくれれば俺も指導がし易い。
それでは廊下側から初めてくれ」
和気藹々と自己紹介タイムが進んで行く。
これが一芸合格の特徴なのか、みんな衒いがない。
目標と言うか、目標を当然のように語った。
貴族だ、騎士だ、王宮勤めだと。
最後の俺になった。
途端、みんなの視線が俺に集中した。
それはテリーも含めてだった。
白色発光合格者に興味津々と言ったところか。
俺はゆっくり立ち上がり、みんなを見回した。
児童相手に、びびってはいられない。
「名前はダンタルニャン。
長いので、ダンと呼んで下さい。
出身は尾張地方の村です。
ここを卒業したら、冒険者になり世界を回ります」
何故か、微妙な空気が流れた。
そんな空気を破ったのはテリーだった。
「ダンでよかったな。
ダンよ、これまでの白色発光者は王宮に勤め、
貴族にまで登り詰めている。
お前はその道を歩かないのか」
「王宮なんて考えたこともありません。
小さな頃の、今も小さいですが、
小さな頃の夢は、世界を見て回ることです。
その為の勉強をする為にこの学校を受験しました」
女の子に質問された。
「貴族になるつもりはないの」
「貴族・・・。
不便な生活でしょう。
上に気遣いながら下も見なければならない。
ついでに横にも目配り。
気苦労が多いわりに報われないと思いませんか。
そんな生活は嫌です。
気が弱い僕なら五年ほどで禿げちゃいます」
禿げが一部に受けた。
クスクスと苦笑が漏れた。
テリーが言う。
「しかしダンよ、学校はお前に期待しているんだ。
特別なカリキュラムも組まれる」
「カリキュラム・・・ですか。さっそく辞退させて下さい」
「にべも無いな。
学校が組んだカリキュラムは嫌か」
「ん・・・。
正直に言って、時間の無駄です」
「そこまで言うか。
まあ、そこんところは学校の上の方に伝えておこう」
「感謝します」
「気にするな、担任の仕事だ。
そうそう、何に興味がある。
よかったら学校の上の方に談判するぞ」
「世界の情勢と、最新版の世界地図ですね」
「それなら王立図書館に行けばいい。
幼年学校のローブを着用していれば手続きなしで入れる。
他に希望は・・・」
「ダンジョンに潜りたいんですが・・・」
テリーの眉間に皺が寄った。
「それは無理だな。
成人してない者の入場は禁止されてる。
・・・。
ランクアップが目的か」
「はい、卒業したら旅に出たいので、
その前に生徒のうちに経験を積みたいんです」




