(幼年学校)5
門を抜けた俺達は人波に合流した。
人波は入学式が行われる大講堂に向かっていた。
途中の辻や枝道に職員が立ち、
「こちらです」
「急ぐと危ないですよ」
「大講堂は逃げませんから、ゆっくりお進み下さい」と誘導していた。
前回も思ったが、子供の学校にしては敷地が広すぎる。
幼年学校以前に別の用途は・・・。
そういう考えは大人の思考・・・。
自省しながら、芝地や林、池を迂回して目的地に向かう。
ようやく大講堂の屋根が見えてきた。
やはり入り口まで行列が続いていた。
手前で付き添いと別れる事になった。
五列、その一つに並んだ。
進んだ先に【真偽の魔水晶】を乗せたデスクがあった。
合格通知書を手渡し、魔水晶に手を翳して本人確認を行った。
終えて初めて、「貴男は一年十組よ」とクラスが伝えられた。
各年度の合格者は最大二百人。
レベルに達していない者が多い年もあるとかで、
無理して二百人合格させる事はないそうだ
今年の合格者は百八十人。各クラスの人員は十八人。
大講堂の真ん中が新入生の席になっていて、
その左右は付き添いの平民や貴族の為の自由席。
後方の二階席は王族や貴族の為の貴賓席と決められていた。
みんな着席したばかりなのでザワザワしていた。
俺は十組なので最後方にいた。
移動している途中で気が付いた。
みんな小さい。
合格者は十才から十三才と聞いていた。
前世なら小学児童の年齢。
この位の身長が当たり前で、俺が育ち過ぎなのかも知れない。
何しろ一番背が高いので、みんなを見下ろせた。
視線が痛い。
何故か、みんなの視線を集めていた。
身長ゆえか。
たぶん、違う。
白色発光して合格した生徒と知れ渡っているのだろう。
俺に声が掛けられた。
「ダンタルニャン、おはよう」
キャロル、マーリン、モニカの三人が俺の回りに着席した。
彼女達は枠が狭い一芸試験に挑み、合格していた。
「同じクラスで良かった。
これから毎日、顔を合わせられるわね」素直なキャロル。
彼女には裏も表もない。あるのは天然だけ。
俺は肩を竦めた。
この状況を喜んで・・・いいのか。
何しろ彼女達とパーティを組んだことにより自由な時間が削られる。
自己鍛錬する時間も限られる。
タイム・イズ・マネー。
でも顔には出さない。
「これから宜しく」大人な態度。
ところが、「ダン、気を付けるのよ」と心配げなモニカ。
「そうよ、みんなダンを狙っているわ」同意するマーリン。
「何を言ってるんだ」理解出来ない。
俺は二人を交互に見遣った。
するとモニカが残念そうな表情をした。
「あのねえダン、白色発光で合格した人は貴族の卵なの。
分かってるの。
今は平民でも将来はお貴族様。
それを見逃す女の子がいると思うの」
「まだ僕達、十才だよ」
「女の子は小さな頃から白馬の王子様願望があるの。
そんな女の子にとってダンは白馬の王子様なの。
分かってるの・・・、分かってないようね」
マーリンがモニカに言う。
「男の子は女の子に比べて成長が遅いって聞いた事があるわ」
ようやくキャロルも察したらしい。
「私達でダンを守れば良いのよね」
「そうよ、大事なパーティの仲間を毒牙から守るのよ」
会場の正面に演壇があった。
右の扉が開いて大人達がゾロゾロと姿を現した。
演壇の背後に、こちら向きに横一列に並んだ。
代表するかのように痩せた男が登壇した。
「教頭のダンカン大久保です。
これより入学式を執り行うことを宣言します」
姓持ちだから貴族の教頭。
彼が新入生全員に入学許可を与えて降壇した。
代わって登壇したのが校長先生。
「ここの校長を拝命しているヘクター佐々木と申します」
ゆっくり全体を見回して、「みなさん、入学御目出度う」と。
数枚の紙を取り出し、新入生の名前を一人ひとり読み上げた。
全く抑揚がない。
最後の一人が俺。
読み上げる前に大きく一息入れた。
「ダンタルニャン。・・・。みなさんを喜んで受け入れます」
満足そうに降壇した。
次は来賓祝辞。
予想外の名前が読み上げられた。
「ベティ王妃様がお出でになりました。
・・・。
王妃様のお成りです。皆様方、ご起立願います」
会場全体が混迷、怒号に悲鳴。
二階席までが騒然とした。
学校内部でも極秘扱いであったらしい。
演壇後方に並んでいた者達はあたふた・・・。
どうしたら良いのか分からず、身の置き場に困っていた。
そこに警護の近衛兵達が勢い良く入場して来た。
彼等が演壇付近の者達を排除し、警護の態勢を整えた。




