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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(幼年学校)4

 ブルーノが長考しているとベティが優しく言う。

「何を躊躇われているのですか。

もしかして管領殿が恐いのですか。

遠慮はいりませんよ。貴方様が主なんですから」

 管領職というものは本来は国王が未成年の場合に設けられ、

国王が成人に達するまで補佐するのを役目とした。

そんな臨時の職務であったのが、いつの頃からか定席となり、

評定衆と肩を並べる権威を得るようになっていた。

 現在、管領職にあるのはボルビン佐々木侯爵。

幼少期のブルーノの守り役であった関係から、

今以て全く頭が上がらない。

「和を以て貴しとなす、そう教えられた」

「それは昔の話しです。礼節があった頃のお伽噺です。

今はもう時代が違うのです。

上も下も隙あらばと付け狙う当今には相応しくありません」

「お前は強いな。

・・・。

お前の守り役の顔が見てみたい」

 ベティが鼻を鳴らした。

「ふっ、貧乏貴族の家の守り役ですよ。

嫡男ならまだしも、・・・。

メイドが兼任でしたわ」

「そうか、メイドか。羨ましい」心底からそう思っている様子。

「羨ましいのですか、驚きましたわ」

「ボルビン佐々木卿は堅苦しい。それに、むさ苦しい」

 ベティが口を大きく開けて笑う。

ひとしきり笑ったあと、ブルーノを正視した。

「今はボルビン様が貴方様を守ってくれています。

でも残念な事にボルビン様は高齢です。先が短いのです」

「うむ、それで・・・」

「内緒ですよ、良いですね」

「分かった」


 ベティは周囲を見回してから口を開いた。

「失礼な言い様ですけど、

今の貴方様の側近の方々は口は達者ですけど、

残念な方々ばかりです。

分かっていますよね」

「ああ、残念な者ばかりだ。

信用できる者は二人か、三人・・・」

「そこでバート斉藤伯爵の登用です。

かの者は未だ色に染まっておりませぬ。

呼び寄せては如何ですか」

「斉藤卿も高齢だった筈だが・・・」

「うっふ、将を射んと欲すれば先ず馬を射よですわ」

「将を・・・、もしかすると斉藤卿は馬扱いか。

それで将・・・、そうかゴーレムか」

「そうですわ。

話が早いですわね。

・・・。

土の魔法でゴーレムを操れる者自体は珍しくはありません。

でも、土のゴーレムだけでなく、岩のゴーレムもですよ。

今時、岩のゴーレムを操ると言う話しは聞いた事がありませんわ。

それも一体や二体ではなく、十体を超えたのですよ」

「レオン織田男爵か」

「そうです。

尾張のフレデリー織田伯爵家の長男に生まれましたけど、

諸事情から嫡男ではないそうです。

男爵位を買い与えられ、後継候補からも外されています。

それをどう見込んだのか、娘婿にしたのがバート斉藤卿です。

最愛の娘を嫁がせ、自分の息子達よりも可愛がっているそうです」

「斉藤卿を餌にして織田男爵を手繰り寄せろ、ということか」

 ベティが悪戯するように目を輝かせた。

「織田男爵は私達と同世代。

都合が良いではありませんか」

 ブルーノは頷きながら、空を見上げた。

「面識がない。

上手く飼い慣らせるかな」

「織田男爵が面倒臭い性格なら、間に取り次ぎ役を挟めば宜しいかと」


 二月になった。

二月一日。

今日は待ちに待った入学式。

俺はカールと一緒に幼年学校に向かった。

学校に近付くにつれ、人が多くなり混雑してきた。

その多くは同じ方向に向かっていた。

入学する子供より付き添いの方が多いようで、

あちこちから、取り止めのない会話が聞こえて来た。

「ハンカチ持ったの」

「持ってるよ」

「合格通知は」

「それはお母さんだろう」

 途中で箱馬車も合流して来た。

それも一両や二両ではない。

何両もが列を成していた。

貴族や商人とかの富裕層の子弟を乗せているのだろう。

強引に人波に割り込むのが、さも当然であるかのように、

速度を落とさずに突っ込んで行く。

その度に罵声が飛び交う。

「馬鹿野郎、危ねえじゃねえか」

「この野郎、轢き殺すつもりか」

「馬車に乗ってるからと言って偉そうにしてるんじゃないわよ」

 箱馬車は止まらない。

入学式当日にその門前で諍いを起こしては拙いとばかり、

罵声を無視して門を潜って行く。


 カールが俺に言う。

「門を入れば身分は問われない。

王族だろうが、貧民だろうが、同じ生徒だ」

「王族の子を殴っても問題にならないの」

「殴る前提か・・・。

ダンはそういう性格じゃないだろう」

「たとえばだよ。

馬車の走り方を見ていると、

それに似た子供に育っているんじゃないかと心配してるんだ」

 前世のペットの散歩を思いだした。

電柱に立ちションするペットがいるが、

それは飼い主の真似をしていると聞いた。

たぶん、そうなんだろう。

電柱の陰で立ちションする人間をよく見かけた。

スカートの裾をちょっと摘んで、立ちションするお婆さんもいた。

「馬車の走らせ方は馭者の性格だ。

・・・。

殴る殴らないは難しい問題だな。

王族や貴族の従者が別棟の控え室で待機している。

彼等がそれを聞いてどう思うか」

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