(旅立ちと魔物の群の大移動)19
講習が終わるとキャロルに誘われた。
「ねぇダン、お腹が空いたでしょう。
近くに美味しいお店があるの、行きましょう」
彼女だけでなく、マーリンとモニカも俺の返事を待つ。
俺が同行しても嫌ではなさそうな空気感。
女児にリードされて大丈夫か、俺。
でも拒否はしない。
国都で初めて出来た同い年の友達。
女児でも縁は大切にしたい。
飛びっ切りの笑顔で頷いた。
ギルドから少し歩いた。
一月だから外は寒い。
時折、寒風が俺達を襲う。
ところが俺達は子供、体温が高い、だからか割と平気。
背を丸めることもなく、四人で颯爽と歩いた。
途中から食欲をそそる匂いが漂って来た。
焼き肉に焼き鳥、焼き魚もか。
・・・これ、カレー。
胃が刺激された。
キャロルに尋ねられた。
「ダン、嫌いな食べ物は」
「嫌いなのは、まずい物」素っ気ない口調で答えたら、
「ダン、受けないわよ」苦笑いされた。
マーリンとモニカも同意の頷き。
国都の子供達の笑いのレベルは高いようだ。
以後、注意せねば。
広場に出た。
匂いの発生源を見つけた。
屋台。
左右に色んな屋台が軒を連ねていた。
焼き肉、焼き鳥、焼き魚は当然として、
焼きそば、焼きうどん、ラーメン、カレーの店まであった。
これでは屋台村、流石は国都。
昼時だからか、どの店も賑わっていた。
キャロルが言う。
「ダンはテーブルの確保、いいわね。
私達で食べ物を適当に見繕ってくるから、行儀良く待ってるのよ」
子供扱いなのか、君達と同い年なんだけど、でも言わない。
三人は軽く打ち合わせると、それぞれ、目当ての屋台に駆けて行く。
俺は辺りを見回した。
屋台村を取り囲むようにテーブル席が無数に用意されていた。
その半分以上が埋まっていた。
寒空の中、これだけの集客力、味の保証だ。
適当なテーブルを確保して待っていると、三人が食べ物を運んで来た。
まるで親鳥が巣に運ぶように・・・。
俺は雛か。
確かに鄙からは来たけど・・・。
キャロルは飲み物六人分。
マーリンは焼き肉、どう見ても七人分。
モニカは焼き鳥、こちらは八人分。
どうなんだろう。
量に、焼き肉と焼き鳥の油っぽい組み合わせ。
俺の疑問を笑い飛ばすように三人は食事を始めた。
「ダン、なに遠慮してしているの」キャロルに言われてしまった。
何の肉かは知らないが、焼き肉も焼き鳥も美味しい。
村の味付けとは一味も二味も違っていた。
これが都会の味。
醤油・大蒜は分かるが、他の香辛料が分からない。
分からなくても口と胃が分かる。
手が止まらない。
これが国都の食文化なんだろう。
一通り食べたところでキャロルが話し掛けてきた。
「ねえダン。幼年学校を受験するって言ってたわよね。
どう、合格しそう」
「たぶん」
「たぶんなの」
「そりゃー、合格したいよ。
でも学校の都合もあるしね」
「学校の都合・・・、平民だから」首を傾げた。
「そう、平民だから。
建前は王族も貴族も、平民も獣人も平等に扱うとか謳ってるけど、
実際はどうなんだろう。
ある程度、身分によって割り当てとかがあるんじゃないの」
三人は目を丸くし、互いに視線を交わした。
暫くしてからキャロルが身を乗り出して来た。
「そんな噂が田舎で流れているの」
「違うよ。
俺が疑っているだけ。
・・・。
大人って汚いだろう、だから」
「確かに大人は汚いわ。
口では綺麗事を言っても、当の本人がやることは違うものね。
・・・。
もし不合格だったら」
「他の学校を受ける。
親父はガッカリするだろうけど、目的は冒険者になることだから、
別に不合格でも困らないよ」
「すると不合格でも国都にいるのね」
「いるよ」
「だったらお願いがあるの。
聞く前に、いいよって言って」哀願されてしまった。
「先に返事するの」
「そう」
「それが国都の流行」
「そうよ」即答。
キャロルだけの考えではないらしい。
他の二人も息を呑むようにして俺の返事を待っていた。
ここで断るのは子供らしくない。
如何にも子供らしく、無邪気に流れに乗るべきだろう。
「いいよ、受ける」
三人の顔が弾けるような笑顔になった。
一斉に息を吐いて、「よかった」と顔を見合わせた。
俺は先を促した。
「で、何を受けたの、俺」
「パーティよ、冒険者ギルドのパーティ。
ようこそ私達のパーティへ」
気付いたらパーティを組まされていた。
「学校があるんだけど」
「大丈夫。
学校は五日ごとに休みがあるの。
休みはどこの学校も同じ日になってるから、
学校が違ってもパーティは組めるの」
「そうなんだ、ところで君達はどこの学校を受けるの」




