(旅立ちと魔物の群の大移動)18
東門の冒険者ギルドの傍には人集りができていた。
新人講習を受けに来た子供達であった。
行き交う人の邪魔にならぬようにギルド側に寄り、
幾つかのグループに分かれ、ワイワイガヤガヤと雑談に興じていた。
様子から同じ町内の友人知人で群れていると見て取れた。
たぶん余所者は俺一人だろう。
しようがない。
ここは東門に近い町内の子供達のテリトリー、ホームだ。
アウェー感が半端ないが、俺が入れる余地はない。
疎外感。
最後尾と覚しきところに黙って並ぼうとしたら、
前の方から声が掛けられた。
「ダン、こっちよ」
手を振っているのはリス、じゃなかった、キャロル。
愛くるしい笑顔で、「こっちこっち」と俺を呼び寄せた。
何故か、嬉しかった。
思わず駆けてしまった。
彼女の仲間らしい女児二人が俺を繁々と見回す。
二人ともキャロルよりも大きい。
太いのと頑丈そうなのがいた。
その二人も俺を見上げた。
俺は遠慮気味に尋ねた。
「行列みたいになってるけど・・・、俺も入って良いのかな」
「良いのよ。ダンの順番は私が取って置いたから遠慮しないで」
キャロルが俺を二人に紹介した。
「これがダンタルニャンよ。
背が高いので成人にも見えるけど、私達と同じ十才」
ここに居る子供達の中では俺が一番背が高い。
二番目は離れた所にいて、俺の目の高さくらい。
「ダンと呼んで下さい」俺は二人に愛想笑いを振りまいた。
「私はマーリン」太い子。
「私はモニカ」頑丈そうな子。
俺は男児にしては精神年齢が高いと自負していた。
ある種の優越感、・・・。
でも女児達は見た目通りにしか扱ってくれない。
何のかのと遠慮ない物言い。
「ねえダン、ダンってば。
尾張は知ってるけど、戸倉村、聞かないわね。名産はないのかしら。
たとえば桃とか、梨とか、蜜柑」
「ダンダン。
村長の家に生まれたと言うけど、結局は私達と同じ平民でしょう」
「冒険者になって一攫千金を狙うんだよね」
玩具か、弟分扱い。
そうこうしているうちに、ギルドの女性職員が俺達に声を掛けてきた。
「お待たせ、入って良いわよ。
二階に上がって左の会議室よ」
会議室の入り口では【真偽の魔水晶】が出迎え、一人ひとり確認した。
確認を終えた俺は認識票を新しいのと交換し、
大きな袋に入れられた新人冒険者セットを受け取ると、
キャロル達に手を引かれるようにして長テーブル席に腰を下ろした。
講師は見知った顔。
「東門の冒険者ギルドにようこそ。
優しい職員のバリーです」自分で言い切った。
国都に入った初日に面識を得たバリーだった。
カールの友人で、大柄な身体に厳つい顔、一見すると悪党。
ところが子供達とは顔馴染みらしい。
あちこちから好意の笑いが漏れた。
「新人冒険者セットの説明に入ります。
袋から中身を取り出して並べて」
竹籠、薄い本、折り畳まれた一枚の地図、園芸用スコップ、園芸用鋏。
それらをテーブルに並べた。
「本を開いて。
国都周辺で採れる薬草の絵です。
薬草と言っても色々です。
草だけではありません。
木もあれば川草、果樹、それに虫、川魚も含まれています。
それらを含めて薬草、と言います。
この本には国都周辺で採れる薬草の絵と、
その薬草の必要とされる部位が描かれています。
薬草でもそれぞれです。
花が必要な薬草もあれば、実が必要な薬草、葉が必要な薬草、
茎が必要な薬草、球根が必要な薬草と色々あります。
その辺りを正確に覚えること。
・・・。
採れた部位を洗う必要はありません。
塵や土塊を軽く落として、竹籠に入れてから、
その日のうちにギルドのカウンターに提出して下さい。
新鮮なのが一番です。
部位の状態によって買い取り値段が上下するので、
その辺りはよく注意して。
・・・。
次に地図を広げて。
薬草の自生する箇所が描かれています。
採る際の注意です。
まず森や雑木林には立ち入らないこと。
魔物に遭遇する確率が高いからね。
君たちのランクでは魔物相手だと、まず死にます、分かるよね。
父さん、母さん、兄姉が泣くよ、友達も。
冒険者だけど、無駄死にするのは冒険者とは言いません。
確実に生還するのが冒険者です。
次に採り尽くさないこと。
採り尽くしたら、次の年から採れなくなり薬師や商人達が困ります。
採取を専門にしている冒険者達も迷惑します。
だから絶対に採り尽くさない。
目安として、必ず三株は残すこと、これはギルドからのお願いです」
人は見掛けに寄らぬもの。
バリーは顔に似合わぬ丁寧な説明をしたばかりではない。
最後に笑みを浮かべて一礼をした。




