表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
52/373

(旅立ちと魔物の群の大移動)17

 ブルーノは目を覚ました。

右隣から伝わる人肌が温かい。

ベティが心地好い寝息を立てているので身動ぎは最小限にした。

ゆっくり、ゆっくり首を左に回した。

壁時計の方向を見た。

灯りとは反対方向なので、確とは分からない。

たぶん、深夜の二時辺りではなかろうか。

 ブルーノは足利国の現国王、二十一代目のブルーノ足利であった。

年齢は年が明けたので二十八才。

隣で寝息を立てているのが王妃のベティ。

こちらは二十二才。

二人は後宮の最深部にいた。

 ブルーノは人の気配に気づいた。

それも複数、足音を消し、こちらに近付いて来た。

後宮は女人のみで運営されていた。

当然、内外の見廻りの人員も全てが女。

選び抜かれた女武者が四六時中、隊を組んで巡廻していた。

彼女等の目を掻い潜ってこちらに接近するのは難しい、というか、

まず絶対に無理。

万が一、暗殺者の接近を許しても最後の関門がある。

この部屋の前に立つ不寝番、二人。

屈指の女武者が最深部を守っていた。


 何事も起こらずに部屋の外で足音が止んだ。

不寝番の二人と静かな言葉の遣り取り。

深夜を考慮して荒げた声は上がらない。

 暫くして小さなノック。

コンコン、コンコン。

不寝番の二人は国王を起こす事態が出来したと判断したのだろう。

 ブルーノが身を起こすより早く、ベティが声を上げた。

「どうしたのです」寝ぼけ顔でブルーノを見上げた。

「何か起きたらしい」

 ベティがベッドから滑り落ちるかのように床に降り立った。

薄明かりに全裸が映えた。

若さゆえか弛みは一切無い。

彼女は暖房機の傍のコートスタンドよりガウンを取った。

それを羽織ると、「私が」とブルーノを手で制し、ドアの方へ歩み寄る。

外へ、「開けなさい」と指示をした。

 ドアが小さく開けられ一人が顔を覗かせた。

後宮の当直の長がいた。

「夜分、申し訳ありません。

国軍本部より火急の書類が届けられました」

 差し出された封筒一通を受け取るとベティは尋ねた。

「その使いの者は如何しました」

「表に待たせております。

国軍の少将です」

「直ぐに支度します」

 ベティは急ぎ封筒をブルーノに手渡し、

魔力で暖房機を全開にし、部屋の灯りを次々に点けていく。

ブルーノはベッドの上で上半身を起こしたまま、

受け取った封筒から書類を抜き出した。

読み進めていく。


 ベティがブルーノの上半身にガウンを掛けながら尋ねた。

「なにやら吉報のようですわね」

 表情が緩んでいたらしい。

読み終えた報告書をベティに手渡した。

「私が読んでも構わないのですか」

「これは構わない。みんなにも朝一番で知らせることだ」

 ブルーノはベッドから下りると、クローゼットへ向かった。

着替えていると時折、ベティの声が聞こえてきた。

「まあ」

「ほんとに」

「凄いわね」

 報告書を読みながら一人で感心していた。

そしてブルーノが部屋を出て行こうとすると、

「国軍本部へ向かうのですか」と尋ねてきた。

「岐阜からの伝令が五騎到着しているそうだ。

現地の様子を直に生の声で聞こうと思ってな」

「それなら私も一緒して宜しいですか」甘えてきた。

「んっ、問題ないだろう」

「ですわね。ちょっと待って下さいね」クローゼットに駆け込む。

 部屋の外にいた当直の長が共の二人を連れ、

王妃の手伝いに走り寄った。


 一月五日になり、俺は一人で冒険者ギルドに向かった。

新人講習を受けるためだ。

カールはいない。

実家に顔を出すと言っていた。

 ギルドの方から事前に、

「当日は同伴者の方の付き添いは無用です。

当日はギルドも平常業務をしており、

混雑回避の為にご協力をお願い致します」と釘を刺されていた。 

それもあってカールは実家に里帰りすることにしたのだ。

 街中を行き交う人々の表情が明るい。

岐阜からの吉報のせいだろう。

過去、魔物の大移動を阻止した例は記録にない。

小移動ならあるかも知れないが、大移動に限ってはない。

その大移動を岐阜城郭で阻止したのみならず、掃討に打って出、

元の木曽谷大樹海へ追撃している、というのだ。

 そこかしこから岐阜の斉藤伯爵を褒め称える声が聞こえた。

賞賛一色で、功績で侯爵に陞爵 されるだろうとも。

 俺が気になったのは関連して名が上げられたレオン織田男爵。

彼がゴーレムを多数生み出して魔物を撃退したと聞いた。

多数のゴーレムを一人で生み出したのみならず魔物退治。

生憎、そこまで人の魔力は多くない。

現場で直に見ていないから判断しかねるが、導き出される答えは、

土魔法が使える魔法使い達を複数雇用しているのではないか、

ということだ。

それはそれで恐い。

男爵は何を目論んで・・・。

軍用ゴーレム・・・。

彼が尾張の織田伯爵の家系でなければ、どうでもいいのだが、

尾張には俺が育った村がある。

家族だけでなく友人知人も住んでいる。

気にならない訳がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ