(旅立ちと魔物の群の大移動)16
俺達四人は冒険者あるある話に花を咲かせた。
色んな冒険者パーティが逸話を残していたので、
話題には事欠かなかった。
たわいない話で寒風を凌いでいると、行列も二倍ほどになっていた。
ギルドの扉が内側から開けられた。
「お待たせしました。
これから受付を開始します。
番号札を渡しますので、中に入って順番をお待ちして下さい」
女性職員が声を張り上げて、みんなを招き入れた。
温かい空気と漂う珈琲の香り。
中は魔道具の暖房機で温められ、併設のカフェが営業していた。
行列の後方にいた何組かが、
誘い合わせたかのようにカフェに吸い込まれて行く。
全てのカウンターで登録できる態勢になっていたので、
させど待たされなかった。
サクサクと行列が消化されていく。
直ぐに順番がきた。
キャロルとシンシアは右のカウンター。
俺とカールは左隣のカウンター。
カウンターの女性職員の笑顔と【真偽の魔水晶】が迎えてくれた。
「ようこそ冒険者ギルドに。入会手続きですね」
手渡された手続き用紙に必要事項を書き込むと、
「カードをお作りしますか」と尋ねられた。
入会すると冒険者カードにするか、認識票に新たに刻印するか、
二者択一になっていた。
「冒険者は荒っぽい仕事が多いのでカードだとよく失う。
首から下げる認識票は落とすこともない」とカールから聞かされていた。
俺は認識票にした。
認識票を外して手続き用紙と一緒にカウンターに差し出した。
職員は手続き用紙を改め、書き漏らしがないことを確かめると、
認識票を魔水晶に翳した。
発光は青。
同伴者のカールの認識票も青。
「新しい認識票は一月五日にお渡しします。
それまでは旧来の物を使っていて下さい。
一月五日に交換しますから、なくさないで下さいね」認識票を返し、
「新人講習も当日です。必ず来て下さいね」念を押された。
カウンターで合計1000ドロンを支払った。
入会金に新人講習会料金、新人冒険者セット、新しい認識票の料金。
果たしてそれが高いのか安いのか。
平民の平均日給に近いということだけは分かった。
カールは手慣れていた。
キャロル達が手続きが終わるのを待って、
「寒いから温かい物でも飲んで行きませんか」と誘った。
同伴者のシンシアは家庭教師という立場なので目を白黒させたが、
キャロルが嬉しそうなのを見て、苦笑して頷いた。
「ちょっとだけなら」
カールは俺を捨て置いて、二人を店内に案内した。
まさかとは思うが、俺を忘れてナンパなのだろうか。
それとも、ただ単に気が良いだけなのだろうか。
俺は疑問を抱えながら渋々三人の後ろに付いて行った。
四人掛けに座りながらカールが俺を振り向く。
何故か俺に軽くウインク。
もしかして・・・、俺にナンパ指南なのか。
国都の中央に王宮があり、その回りには役所が建ち並んでいた。
そしてこの区画は外壁と同じ高さの壁で市街地からは隔てられていた。
堀はないが許可のない者はまず立ち入る事ができない。
王宮区画に通う官吏は、たとえ年末年始と言えど途絶えることがない。
忙しいのは昼間だけではない。
夜間でも残業している部署があれば、窓口を開けている役所もある。
この夜、深夜。外壁の東門。
火急の伝令が飛び込んで来た。
騎兵が五騎。
すでに跳ね橋が上げてあるので、
鐘楼に向けて光魔法で合図をし、下ろさせた。
暫く待つと、門の片側が少し開けられて門衛二人が駆けて来た。
一人は魔道具の携行灯、一人は槍。
門の向こうでは多くの人影がこちらを監視していた。
万一に備えているのだろう。
門衛が携行灯で五騎を照らして誰何した。
「何者だ」
「岐阜地方駐屯地の者です。
これを国軍本部へ届けに参りました」
先頭の騎兵が報告書の入った竹筒を手渡した。
門衛は竹筒を確認した。
確かに岐阜地方駐屯地の封印がしてある。
剥がされた形跡はない。
「異常はないですね。
岐阜からということは、例の魔物の大移動の件ですか。
それで、どうなっています」竹筒を戻しながら尋ねた。
「詳しくは、これに」竹筒を指し示す。
口は固い。
しかし言葉にはしないが、口元を緩めて表情で現す。
「そうですか。
・・・。
先触れを出しておきますので、一息ついてから向かって下さい」
五騎は【真偽の魔水晶】で身元確認を済ませると、
用意された珈琲を飲んで一息入れた。
ある程度休み、時間を推し量ると、頃合い良しと騎乗した。
先触れのお陰で王宮区画の門も問題なく入れた。
門内には騎兵一騎が待っていて、国軍本部まで先導すると言う。




