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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(戸倉村)5

 その年は最後まで忙しかった。

最後の最後に国都より戸籍調査の一団が現れたからだ。

彼らは七年前の調査の台帳を元に、一軒ごとに確認を行った。

死亡した者、生まれた者。新たな婚姻関係。

新規に立ち上げられた家の有無。

各家の生業、実際に生産する物等々。

徴税の為ではない。

国には貴族領地への課税権はない。平時には、だが。

これは非常時に国が強権を発動するに際して、

貴族領地から、どのくらいの兵力を動員できるのか、

どのくらいの兵糧を調達できるのか、と試算する為であった。

 子供の俺には無関係の話、と思っていたら、そうではなかった。

面白い連中が一行の中にいたのだ。

国軍魔導師、領軍魔導師と名乗る者達がいた。

彼等は乳児から七歳児までの体内の魔素量を調べる、という。

魔法使いの素質があるのか、どうか、見極めるのだそうだ。


 この世界の人間は体内に魔素と呼ばれる物を持って生まれた。

魔法が使えるかどうかは、その量に左右された。

ただ、魔素が多くても才能が開花せぬ者も大勢いた。

制御することが難しく、一朝一夕に出来るものではなかった。

手始めの段階から脱落する者も多かった。

開花したものの制御に失敗し、暴走して廃人になる者もいた。

こういう経緯から国が育成に関与するようになった。

 対象者が全て戸倉村塾の庭先に集められた。

神社の宮司が国軍魔導師と領軍魔導師を案内して来た。

彼等の従者達もいるので、その数は十数人。

実際に判定するのは宮司を含めた三人であった。

 本来であれば、この様な仕事は鑑定スキル持ちの仕事なのだが、

人数が少ない為に地方にまで回せる余裕がなく、

高位の魔法使い・魔導師に頼らざるを得ぬ状況なのだそうだ。

 対象者の名前が読み上げられ、三人の前に呼び出された。

呼び出した者の身体に三人が揃って掌を当てた。

直に後頭部、背中、腹部の三箇所に掌を当てた。

 俺も調べられた。

残念な事に三人は揃って首を横にした。

俺自身もガッカリした。

が、同時に、丹田の力を感知されなくて安心もした。

たぶん、例えれば、魔法の力と丹田の力は周波数が違う・・・。

あるいは、もしかして、俺の念力の方が上位互換・・・。

答えは分からないが、まあ・・・、いいか。


 選ばれたのは二人。

この村では十何年かぶりだ、と皆が口を揃えた。

二人は十歳になるまで宮司が村で面倒みるそうだ。

魔法を教える前段階として、魔法の発動に耐えられる身体にしつつ、

馬鹿では困るので常識と知識を詰め込むとか。

それで目出度く十歳になると国都の魔法学園への入学が命じられる。

当人だけでなく家族の事情も無視され、寮生活が義務づけられる。

厳しい教育が施されて卒業に至る分けだが、

その卒業の際にようやく当人の意向が優先される。

どこに就職するのか、しないのか。

大手の就職先は国・貴族・神社・教会の四つだが、

どこにしろと強制されることはなく、自由に選択ができた。

最低年俸は武士クラス、と決められているので未来は明るい。

 

 俺は八才になった。

魔法使いになれない俺は時間を自由に使えた。

子供なので誰に気兼ねすることなく遊べた。

他の村や町は子供に家業を手伝わせていたが、

戸倉村は十歳になるまでは子供の労働を禁じていた。

体力のない子供が怪我して身体を壊し、

将来の労働力が減少しては元も子もない、と憂慮したのだ。

 俺は何時ものように野山を駆けながら、

脳内モニターをオン、気配察知機能を起動させた。

嫌になるくらい人の気配があった。

村人があちらこちらで働いていた。

北の石切場にいれば、川沿いの牛馬の放牧地にもいた。

西の森には樵夫や薬草取りもいた。

 獣人達も増えた。

五家族だったのが今では新規雇用で十五家族に増えていた。

父が戸倉村から東の海へ道路を切り開き、漁村を立ち上げたので、

彼等を必要としたのだ。

彼等の仕事は漁業でも農業でもない。

村の周囲の巡回と警備。

盗賊もだが、それよりも害獣の駆除にあった。

熊や猪等に、たまに現れる魔物も狩っていた。

 俺にとって獣人達の勘働きが最大の脅威だ。

誰にも見られずに念力の鍛錬を行いたいから邪魔なのだ。

誰にも知られない、誰にも警戒されない、それが大事なのだ。

俺にとっての隠し球。念力。


 しかたがないので北の石切場の更に奥、山に駆け上った。

たまに魔物が出る、という山だ。

たまにだ。

 腰の短剣が重くて走る邪魔になった。

だからといって外すことは出来ない。

祖父が今年八歳になった俺に、

「危ない所ばかり駆け回っているそうじゃないか」と心配しながら、

与えてくれたものだ。

「短剣ならもう良いだろう」と使い方を教えてくれた。

 俺は短剣の目利きは出来ないが、祖父が経験から選んだ物だ。

良い物に違いない。有り難く受け取った。

 適地を見つけた。

中腹に広い空き地。

近くに人の気配はない。

 手始めは足下に落ちている木の葉。

砂嵐をイメージして、砂ではなく木の葉を目の前で巻き上げた。

直径は三メートルほど。高さは俺の倍。

それを左右に走らせ、最後は空中へ全力で飛ばした。

 次に同じく足下の親指大の小石。

チョイと浮かせたものの、膝あたりで力尽きた。

しようがないので摘み上げた。

掌に乗せ、弾丸をイメージ。

的は十メートル先の岩。

引き金を引き発射、のイメージ。

良い感触。

目にも留まらぬ速さで飛んで行った。

心地好い命中音。

岩の一部が弾け飛んだ。

 木の葉は触れなくてもコントロール出来るが、

小石のように多少なりとも重量がある物だと難しい。

今のように直に触れる必要があった。

 次も小石を摘み上げた。

的は二十メートル先の竹の幹。

一箇所に狙い定め、弾丸をイメージ。

引き金を引いて発射、のイメージ。

またまた良い感触。

「カーン」と命中した。

幹に弾き飛ばされたが、精度は高い。

問題点は突き破る威力。


 ザワザワ、胸騒ぎ。

気配察知機能が接近する物を捉えた。

識別機能を連動させた。

 黄色の点滅。魔物。二頭。

ゆっくり、慎重に接近して来た。

俺は足下の小石を幾つか拾い上げ、手近の岩場に移動した。

身を伏せて通り過ぎるのを待った。

 やがて二頭が姿を現した。

ブルドッグを更に凶暴にした顔で、目は赤く、体毛は黒一色。

二頭が二足歩行になり、こちらの方を睨み付けた。

嗅覚で俺を餌と判断したのだろう。

 俺は八歳の児童。

相手を覗き見ると、二足歩行時の体長は二メートルほど。

短剣を持っているが俺の腕力では通じそうにない。

絶体絶命、なのだが不思議と恐くはない。

逆に武者震い。

 俺は前世では大人。

身体は児童でも、前世の経験があった。

褒められたことではないが喧嘩は幾つも買った。

刃物沙汰にも幾度か遭遇した。

前世の祖父に鍛え上げられたお陰で負けたことはない。

 魔物が咆えた。

隠れている俺を威嚇した。

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[一言] 「それで目出度く十歳になると国都の魔法学園への入学が命じられる。当人だけでなく家族の事情も無視され、寮生活が義務づけられる。」 こちらにも寄らせていただきます。当人と家族の意向を無視したと…
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