(旅立ちと魔物の群の大移動)13
俺は長くは悩まない。
まず試すことにした。
先頭に向けて矢を三連射。
弓士スキルがあるので狙いは外さない。
一本目は胸元。
予想通り、刺さらない。
弾き飛ばされた。
二本目は顔。
腕の一振りで払い飛ばされた。
三本目は太腿。
これまた弾き飛ばされた。
五頭のガゼラージュが足を止めた。
互いに顔を見合わせて、何やら呻り声。
会話が成立しているように聞こえた。
俺は次に打つべき手を考えた。
唯一の手掛かりがあった。
その蜘蛛の糸に縋り付いた。
放った矢がガゼミゼルのブレススノーストームに突き刺さった瞬間、
ブレスを無効にして破裂した。
あれはどう考えてもEP付加の効果だろう。
だとすれば、EPの数値を上げて鉄を凌ぐしかない。
これまで一射につきEPから数値2を付加していた。
常時稼働させている探知スキルと鑑定スキルには、
それぞれ数値5を割り振っていた。
それからすると次からの一射のEP数値は3ではないだろうか。
駄目なら上げればいい。
EPには余裕があるし、回復も早いので問題はない。
二足歩行だったガゼラージュが四つ足に戻した。
俺を脅威ではないと判断したのか、速攻に転じ来た。
俺は矢をつがえた。
と、空気が変わった。
ガゼラージュの動きに変化。挙動不審になった。
脳内モニターに映った。
俺達の後方に新たな色の点滅。
緑色と茶色の点滅。
蹄の響きを伴い、一塊になって急接近して来た。
巡回中の騎兵隊しか考えられない。
俺は後方を振り返った。
騎兵隊が現れた。
二十数騎が押し寄せて来た。
俺達を左右から追い越してガゼラージュに向かって行く。
五頭が一斉に立ち上がって、仁王立ちで咆えて威嚇するが、
兵も馬も全く怯まない。
速度を維持して突っ込んで行く。
初手は弓騎兵、八騎。
隊列から抜け出し、回り込むようにして矢を射た。
俺が持つ複合弓と同型だが、
明らかに弓騎兵が持つ方が高性能。
国軍の装備品に違いない。
しかも、それから魔力を感じ取った。
脳内モニターに魔力発動中を現す青色点滅を表示。
魔法の術式が、複合弓に施されているのだろう。
それから放たれた矢が次々にガゼラージュに突き刺さった。
槍騎兵が入れ替わった。
七騎が五頭の背後に回り込んだ。
正面よりは槍を振り翳して挑んで行く。
躊躇いがない。
鉄の武器を弾き返すガゼラージュと戦い慣れているようで、
外皮の厚くない部位を狙って槍で突き刺し、抉る。
それを弓騎兵が遠間より援護する。
ガゼラージュは怒りの咆哮を上げて反撃するが、
騎兵隊の連携の前に為す術がない。
矢を射込まれ、槍で少しずつ削られて行く。
その頃になると、他の騎兵隊も加勢に現れた。
一声掛けて攻撃に加わった。
冒険者のパーティも三組現れるが、こちらは騎兵隊に遠慮して、
攻撃には加わらず他の魔物の出現に備えた。
俺の仕事は終わった。
空になった矢筒と複合弓をズタ袋に仕舞い、
荷車から下りてカールに歩み寄った。
「誰も怪我しなくて良かったね」
カールは呆れたような表情で俺を振り返った。
「だなー。
とにかくご苦労さん」
「ねぇ、カール、俺は目立ちたくないんだけど」
「分かってる。
子供達の中に混じって静かにしていろ。
後は俺に任せておけ」
多勢に無勢。
ガゼラージュ五頭は三人ほどに手傷を負わせただけで、
息の根を止められてしまった。
カールが騎兵隊の方へ歩いて行くと、隊長の一人が笑って迎えた。
「久しぶりですね」元の部下であった。
「そちらも出世してなによりだ」
互いの近況を伝え、簡単に話を纏めた。
ガゼラージュは騎兵隊が倒したので騎兵隊に所有権があると。
「大尉は相変わらず欲がありませんね。
普通なら少しはゴネルのですが」
「助けてもらったのは事実だし、ゴネルのは面倒なんだよ」
「ガゼラージュの外皮が高価で売れると言うこともありますけど、
荷馬車に積んで城郭内に運び込めば、
俺達がきちんと仕事しているのが丸分かりで助かります」
「昇進に結びつけば良いんだけどな」
その言葉にもう一人の隊長が大笑い。
さっそく駐屯地から荷馬車を呼んで来るそうだ。
カールは冒険者パーティ三組を呼び、そのリーダーと話しを纏めた。
残りのガゼローンとガゼミゼルの所有権はカール達にある。
けれど数が多いので解体と搬出に人手が足りない。
そこでパーティ三組に協力を依頼した。
全ての解体と搬出を受けてくれれば儲けは折半。
ガゼローンとガゼミゼルはガゼラージュには劣るが、
売れる部位は多い。
彼等にとって濡れ手に粟。
「喜んで」即答し、
「直ぐにギルドから荷馬車を調達して組ます」と数人が走り出した。
俺はイライザに背中を叩かれ、「さあ、仕事よ」と鍬を手渡された。
見ると他の子供達はすでにジャガイモ掘りを再開していた。