(旅立ちと魔物の群の大移動)12
絶望に陥った者達にかける言葉を俺は知らない。
たとえ知っていたとしても俺の言葉では説得力がない。
なにしろ俺は子供、言葉の重みに欠けていた。
ここは一つ、力を示すしかない。
俺は林から歩み出た魔物達に視線を向けた。
ガゼミゼルなら弓で対抗できる。
遠間でも充分に射抜ける。
ブレスの距離まで接近されたら、開けた口に矢を叩き込めばいい。
でもガゼラージュは分からない。
鑑定スキルによると難敵。
外皮が異常に厚くて頑健、普通の槍や剣だと簡単に弾き飛ばす。
普通の槍とか剣は鉄製のことだろう。
手元の矢の鏃も鉄。
なら簡単に弾かれるだろう。
困った俺は自分のスキルを調べ直した。
光学迷彩☆☆、探知☆、鑑定☆、水魔法☆弓士☆。
光学迷彩は逃走用。
探知と鑑定は戦闘を補助するもの。
水魔法は・・・、ちょっとだけ。
弓士。
光魔法は分析し終えたばかりで、手つかず。
過去ログに面白い物を見つけた。
騎兵隊の注意を引こうとファイアボールが打ち上げた際に、
脳内モニターに、
「火魔法の分析が終わりました。EPで再現可能です」
こっそりと仕事していた。
もっとも、こちらも分析し終えたばかりで手つかずだが・・・。
水に光・火。
二つか三つの組み合わせで・・・、残念、今は間に合わない。
声が聞こえた。
「ダン、ダンタルニャン、ねぇってば」イライザが俺に話し掛けていた。
「ああ、ごめん」
「顔色が悪いわよ」そう言うイライザも顔色が悪い。
「ちょっと考えごと」
イライザが声を潜めた。
「勝ち目はあるの」
「ガゼミゼルならなんとかなる。
けどガゼラージュになると、きついかな。
遠間からの矢が利かないようだから、
接近して来るのを待って射るしかない」
頼りは司祭の光魔法とカールの剣技。
そのカールの声が聞こえた。
怯える子供達をニーナと二人して宥めていた。
一人ひとりを抱き寄せて、耳元に何事か囁く。
その度に子供の表情が喜色に変わる。
それを見守っている若者達の空気は重い。
ニーナに同行しているカールへの嫉妬ではない。
先行きを危ぶんでいると丸分かり。
仲間同士の会話すらない。
深く沈んでいた。
バキバキと何かが折れる音。
そちらに目を向けた。
魔物達が来る林。
ガゼラージュの一頭が生木を、へし折った。
雄叫びを上げて生木を前に放り投げた。
それが合図になった。
ガゼミゼル七頭が一斉に駆け出した。
ガゼラージュを見ると、動く気配がない。
一頭が高みの見物とばかりに腰を落とすと、残りも真似た。
ガゼミゼルはカゼローンの上位種。
走法は同じ。
こちらを睨み据え、四つ足で全力疾走して来た。
下位種が全滅した理由を調べようともせずに力攻め。
途中、真ん中ほどのところで、それぞれが足を止めた。
横一列になって後ろ足で立ち上がる。
仁王立ち。
口を大きく開けた。
ブレスの前段階。
それを俺は待っていた。
目標をズームアップ、EPを2付加。
口を開けた順に立て続けに射て行く。
狙いは大きく開けられた口の奥。
弓士スキルがあるので狙いは外さない。
最後の七頭目が間に合わなかった。
ブレスが吐かれた。
ブレススノーストーム。
吐き出されたばかりのそれに矢が突き刺さった。
瞬間、大きく破裂した。
ブレスの白と血飛沫が入り混じり、周辺に舞う。
七頭目が悲鳴を上げながら前足で顔を押さえ、その場に蹲る。
俺はそれに追い撃ち。
残った矢二本を撃ち込んだ。
他の六頭も似たようになもの。
口の矢を抜こうと足掻いていた。
でも逆に激しい痛みに襲われ、余計ひどくなる有様。
俺は残った矢を矢筒から抜き、矢筒を取り替えた。
ガゼラージュに視線を転じた。
五頭は余裕があるのか、馬鹿なのか、ゆっくり腰を上げた。
馬鹿ではないらしい。
五頭全てが俺を睨み付けた。
脅威として俺を認識したらしい。
五頭が揃って足を踏み出した。
驚いたことに駆けない。
二足歩行で警戒しながら前進して来る。
もしかして俺の弓への対処なのか。
矢を払い除けるつもりでいるのか。
魔物も獣の種。
動体視力が優れていても不思議ではない。




