(旅立ちと魔物の群の大移動)11
途中で逸れるかと思いきや違った。
こちらに真っ直ぐ下りて来る。
速度に緩急はあるが足は止めない。
迷いがない。
下って来るに従ってその数が増して行く。
何故か、途中で出会った魔物が群に加わったのだ。
結局は大型五頭、中型七頭、小型十八匹。
とんでもない脅威に晒された。
が、逃げる選択肢はない。
孤児院の子供達を伴っているので逃げ切れない。
司祭目当ての若い者達の警護があって無理だろう。
この距離からして逃げ切れるのは、おそらくは俺とカール。
俺はカールに簡単に告げた。
「魔物の群が現れた」
「こちらに向かって来てるんだな」カールが俺をジッと見た。
俺は正直に頷いた。
カールは肩を竦めて、みんなを見回した。
「荷馬車を中心にして防御陣を組むぞ」
荷馬車二両を横倒しにして、その左右に盾を並べて行く。
若い者達を盾役、槍役にそれぞれ割り振るが、
それでも槍役が足りない。
危急の際と言うことで、孤児院の子供達の中から、
腕力のありそうな者を選んで槍役に抜擢した。
子供達を真ん中にして、サムとイライザの兄妹を後方の守りに配置。
現有戦力を最大限に活用したと言っても間違いないだろう。
俺は横倒しされた荷馬車の上に立った。
微妙なバランスを必要としたが軽いので問題はない。
冬風を額に受けながら、魔物の正体を知るためズームアップ。
残念なことに木々が邪魔して姿を確認できない。
カールが火魔法を使える若い者を呼び、
「巡回している国軍の騎兵隊の注意を引きたい」として、
30メートルほどの高さにファイアボールが打ち上げさせた。
火弾が三発、派手に爆発した。
効果のほどは知らないが、何もしないよりは良い。
山裾の林に魔物が一部が姿を現した。
「ガゼローン。Eクラスの魔物です」脳内モニター。
狐の種から枝分かれした魔物。
四つ足で体長はせいぜい1メートル。
小型だが群れなすと侮れない。
軽量を活かした脚力と牙を武器にして執拗なチームワークで、
相手を失血死に追い込む。
木々の間から彼等が前に飛び出して来た、十八匹。
一斉に咆えると、それを合図に左右に広がった。
林との距離はおよそ100メートル。
間にあるのは広い草地のみ。
凹凸はあるが見通しは良い。
ガゼローンが駆けて来た。
実に厄介、足が速い。
俺は複合弓を構えた。
複合弓も短弓の一種だが、張力が比べものにならない。
大人と子供、段違い。
俺にはEP付加があるので余裕で扱える。
有効射程は200メートル。
余裕。
EPから2を付加した。
カールに世渡りは目立たぬように、ほどほどにと注意されていたが、
この急場を凌ぐのに手加減は一切許されない。
正面から来るものは盾役や槍役に任せ、
俺は左右に広がった奴等に専念することにした。
探知スキルをフル稼働。
先行しているのは左側、六匹。
ズームアップして確実に胴体部分を狙った。
射た矢が光の速さで飛んで行く。
三連射。
外さない。
悲鳴を上げて三匹が転がった。
続けて三連射。
左の掃除を終えたので右を狙う。
こちらは五匹。
三連射、最後の一本も射た。
矢筒を替える間に残った二匹が先行するかと思いきや、違った。
怯えながら正面の仲間達に合流した。
残り八匹。
それらが集団になって向かって来た。
カールの合図で司祭が光魔法を放った。
ライトスピア、光槍が次々に飛んで行く。
八本。
Eクラス如きに躱せるものではない。
「光魔法、ライトスピアです」脳内モニター。
ライトスピアがガゼローンに突き刺さって破裂した。
八匹は肉片となって飛散した。
「光魔法の分析が終わりました。EPで再現可能です」脳内モニター。
思わず鑑定スキルを褒めたくなった。
指示してないのに仕事をしてくれるなんて、素敵なスキル。
俺はついでに司祭をも鑑定することにした。
「名前、ニーナ。
種別、人間。
年齢、二十二才。
性別、雌。
住所、足利国山城地方国都住人。
職業、アドトラ教の山城教会司祭。
ランク、C。
HP、90。
MP、110。
スキル、光魔法☆☆、水魔法☆」
カールが俺に問う。
「ダン、他にもいるのか」
「ガゼローンは全滅したけど、後続が来る」
林から中型七頭が姿を現した。
「ガゼミゼル。Dクラスの魔物です」脳内モニター。
ガゼローンの上位に当たる魔物だ。
二足歩行すると2メートルを越える。
武器はブレススノーストーム。
吹雪で相手を吹き飛ばす。
それだけではない。
大型まで姿を現した。五頭。
「ガゼラージュ。Cクラスの魔物です」脳内モニター。
こちらは、さらにその最上位の魔物。
二足歩行すると優に3メートルを越える。
武器は長い手足と尻尾。
長い手足を活かして絞め殺す。
尻尾で弾き飛ばす。
俺は探知スキルで周辺を調べた。
他にも黄色や茶色の点滅はあるが、こちらには来そうもない。
おそらくガゼラージュとかち合いたくないのだろう。