(旅立ちと魔物の群の大移動)6
個室の一つが俺に割り当てられた。
裏庭側の角部屋だ。
前世で言うと六畳間に近い広さで、ベッドと机が置かれていた。
机にバックパックを置き、剣帯の左に下げている短剣とナイフ、
右に下げている弓筒と矢筒を外した。
カールの部屋は俺の向かい、表通り側の角部屋。
見せてもらったが、俺の部屋と同じ広さで殺風景、物が少ない。
壁にも飾り物が一つもない。
「何もないね」俺が呆れると、
「これがある」とカールがバックパックを机に置き、
剣帯に下げている物を外し、
腰のウエストポーチから何やら取り出した。
古びた布の塊・・・。
それを広げて肩に、右から左へ袈裟掛けした。
ショルダーバッグ、いや袈裟掛けのズタ袋・・・。
草臥れたズタ袋。
「草臥れているけど、現役のマジックバッグだ」得意気に言う。
物を亜空間に収納する為のマジックアイテムだ。
中から品物を次々に取り出した。
「これは下のみんなへのお土産。
・・・。
これは武器。
・・・。
これは防具。
・・・。
そしてポーション」
机だけでは足りずに床にも所狭しと並べた。
バッグの中から取り出すと言うより、
中に手をいれ、その手を出した瞬間に品物を掴んでいた。
重い物や大きな物の場合は両手をバックに入れていた。
俺の虚空が持つ収納スペースはちょっと違っていた。
収納したい物に手に触れて念じれば、それだけで取り込めた。
取り出す際は必要とする物を思い浮かべ、
掌か足元の何れかを選択すれば、そこに現れる設定になっていた。
その収納スペースは性能も違っていた。
重量は無制限、スペース数は222と決められていた。
多いか少ないかで言えば、たぶん多い。
一つのスペースにどれだけ入るか試してないが、かなり入るだろう。
俺はカールに尋ねた。
「もしかしてウエストポーチもマジックバッグですか」
「そうだよ、よく分かったな。
容量の小さなウエストポーチだけど、
そこにこれを幾つか入れると結構な量が収納できるんだ」
ウエストポーチにズタ袋が残っているのだろう。
カールは得意気な表情で、
そのウエストポーチから使い古されたズタ袋を二つ取り出した。
模様の違うズタ袋が床に並べられた。
「マジックバッグが高価だから、
外側を安物の布にして、目立たぬようにしているのですか」
「その通り。
本来のマジックバッグは魔物の革だから目立って困る。
狙う輩もいるからな。
そこで外側を布にしてもらった。
肩に掛けるベルト部分も革ではなく布だ」
外側は安っぽい布で内側は革張り、リバーシブル仕立て。
カールが最初のズタ袋を俺に押し付けた。
「これはダンの物だ」
意味がわからない。
外見は草臥れたズタ袋だが、中身は高価なマジックバッグ。
おいそれと受け取れる品物ではない。
唖然としているとカールが説明した。
「これはケイトにブレット、デニスの三人からの贈り物だ。
三人からダンへのプレゼントの相談を受けたんで、これを売った」
尚更、受け取れない。
子供三人が小遣いを出し合ったとしても、とても買える品物ではない。
「遠慮するな。
三人の気持ちを察してやれ」
三人には嫌われた、と思っていた。
キャラバンの終盤からだが、明らかに三人は俺と距離を置いていた。
前のように話し掛けられる事も一切なかった。
特にケイト。
小さな頃からの守り役だっただけに落ち込んだ。
「ダンがCクラスの魔物の首を軽々と斬り落とすのを目の当たりにして、
とても驚いたそうだ。
そりゃー、三人とも子供だから驚くだろう。
・・・。
パイアはEクラスの魔物だったから、まだ納得できたが、
ヒヒラカーンとなるとな、大人一人では倒せない魔物だ。
それを自分達と同じ子供が倒したんだ。
驚き畏れて、どう接していいのか分からなってしまった。
そういう訳だ。
三人は子供なんだ。理解してやれ」
俺は目頭が熱くなってきた。
精神年齢は大人だとばかり思っていたが、ただの鈍感だった。
「嫌われたとばかり思ってた」涙がこぼれた。
片手で涙を拭い、もう一方でズタ袋を受け取った。
「ズタ袋は真っさらにした。
内側の革に触れて魔力を通せばダンの物だ。
ダン以外の者は出し入れが出来なくなる」
俺は内側の革に触れた。
「でも三人の小遣いじゃ」言いかけるとカールに怒られた。
「ぐだぐだ言うな。
余計な気遣いしないで黙って受け取れ。
子供が遠慮するのは百年早い。
・・・。
三人への礼状だけは忘れるな。いいな。」
俺は指先に魔力を捉えた。
おそらくここに術式が施されているのだろう。
指先からEPをちょっと流した。
確かな手応え、所有者として登録された。
それだけではなかった。
予備の物も入れておけ、ということで短剣、短槍、短弓、矢、革の防具、
そしてポーションまで渡された。




