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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(旅立ちと魔物の群の大移動)2

 俺は国都を囲む地形にも目を奪われた。

前世の京都と同じく盆地には違いないのだが、雰囲気が・・・。

途中の琵琶湖はそのままであったが、ここは・・・。

違和感の正体に気付いた。

国都を囲む山並みの植生が違っていた。

琵琶湖を過ぎてからも、そうであったが、人手が入っていないのだろう。

見知らぬ多くの大樹や高木の間を蔦葛が電線のように走っていて、

原生林のままとも言えた。

魔物が出没するので当然、前世のような寺社は山中に存在しない。

安全に通行できるのは騎兵隊が見廻りしている街道のみ、と言えた。

 その街道は行き交う人々で溢れていた。

国都に向かう者、出て来る者。

キャラバン、荷を背負った行商人、旅人。

収穫物を荷車に乗せた農民の一行。

貴族の箱馬車の一行。

そして見廻りの騎兵隊。

忙しなく言葉が飛び交う人波の中に俺達もいた。

向かうのは東門。

 途中から人波が緩くなった。

片側に行列が出来ていた。

門衛が入る者を調べていた。

貴族・平民関係なく行列を横目に、

顔パスで入って行くのは馴染みの者達らしい。

軽く挨拶して入って行く。

俺達は新規の入門なので下馬して行列の最後尾についた。

「毎日、同じ門を出入りしていれば門衛が顔を覚えてくれる。

冒険者になったら門衛と顔馴染みになるのも仕事のうちだ」とカール。

 頷く俺にカールが続けた。

「ここまで乗ってきた馬は冒険者ギルドに売り払う。

二頭を預けると飼い葉代やその他もろもろで結構な費用がかかる。

それよりは売り払って、必要になったら買う、その方が安上がりだ」

 

 カールから冒険者あるあるを聞くうちに順番が回って来た。

門衛が詰めているテントのテーブルに魔水晶が置かれていた。

魔素をふんだんに含む水晶で、

魔法ギルドが真偽を判断する機能に特化した術式を施したもの。

いわゆる【真偽の魔水晶】だ。

 俺は胸元からタグを取り出してテーブルに置いた。

俺のは平民と分かる銅板のタグ。

表には住まう地方の刻印、村の刻印。

裏には詳細な個人情報が刻まれていた。

 カールが首から外したのは貴族の銀板のタグ。

それを見せながら手短に説明した。

「俺は国都の冒険者ギルドに登録している。

今はこの子の村で事務を請け負っている。

来月この子が幼年学校を受験するので、引率して来た」


 一人がタグを取り上げて魔水晶の上に翳した。

術式により真偽の判断は発光する色によって示される。

タグ自体も魔法ギルドが特殊な術式を施した物なので、

魔水晶とは親和性が高く、偽物は簡単に見破れる。

発光が青なら本物、赤なら偽物。

当然、二つとも青。


 門衛の一人に、「合格すればいいな」と見送られ、

深い水堀に架けられた跳ね橋を渡った。

門を潜ると、ここまでとは違う別世界が広がっていた。

満遍なく敷き詰められた石畳の上を談笑しながら行き交う人々。

それに楽しげに歩く獣人がちらほら混じっている。

彼等彼女等の衣服のデザインが多彩、しかも色取りどりで眩しい。

村では見掛けなかったローブ姿の者も多い。

帽子、フードに化粧品の匂い。

 遠くから聞こえてくる歌声、楽器の音色、歓声と拍手。

ギターの音色に思わず足を止めた。

前世と遜色のない音色。

それらを打ち消すかのような時刻を告げる鐘の音。

偉容を誇る鐘楼だ。

高さもだがデザインが他の建物とは明らかに違っていた。

誰か一人の作意なのだろう。

国王か、あるいは設計者。

 見とれていると、「ダン」と呼ばれた。

カールだ。

村を出るときは、「ダンタルニャン様」だったのが、

道中で魔物との遭遇戦を繰り広げているうちに、

「ダン」に変わっていった。

戦いの最中に様付けでは指示しにくい、と言うところから始まった。

別に不快ではない。

どちらかと言うと呼び捨ての方が嬉しい。

村では村長の子供なので様付けは当然に思っていたが、

平民として村を出てからは様付けを不自然に感じていた。

平民の自覚が生まれた、と言うことなのだろう。

「あそこが冒険者ギルドだ」カールが先を指し示した。

 冒険者ギルドは門に近い表通りにあった。

煉瓦造りの三階建てで歴史が感じられた。

夕方近いからか出入りする者が多い。

みんな如何にも冒険者、と言った格好をしていた。

「冒険者は荒くれ者が多い上、朝早いから門の直ぐ近くにある。

早い話、鼻つまみ者は国都の奥には入るな、と言うことだな。

まあ、市場とか厩舎、色街も同じ扱いだ」


 カールはギルドの前に馬を繋ぎ、俺を連れて中に入った。

中は騒然とした空気。

「依頼達成のサインだ」

「俺達はこれ」

「支払いは後日になります」

「今日中に精算してくれんのか」と声が飛び交っていた。

 カールは正面の受付カウンターに向かった。

受付嬢の前には【真偽の魔水晶】が置かれていた。

「おや、お久しぶりですよね」笑顔。

 カールはタグを【真偽の魔水晶】に翳した。

「ギルドの依頼で地方で仕事をしている。

馬の買い取りを頼む。二頭だ。ギルドの前に繋いでおいた」

 受付嬢は発光の青を確認して後ろを振り返った。

カウンターの後ろには机が並べられ、職員達が事務仕事をしていた。

「馬二頭の買い取りをお願いします」

「おう」と一人が顔を上げた。

 大柄で厳つい顔の男は受付嬢に頷き、

それからカールを見て表情を変えた。

「おっ、カールじゃないか、生きていたか」

「生きてるから馬を売りに来た。

それよりバリー、お前に事務仕事が出来るのか。

計算は苦手だったろう。ギルドに迷惑かけてないか」

 バリーは笑い返した。

「はっはっは、久しぶりなのに酷い言われようだな。

ところで、その子は」

「この子が幼年学校を受験するんで引率して来た」

 俺を引き合わせた。


 バリーは入念に二頭を鑑定した。

「昔からの馴染みだろう。

そこも値段に入れてくれよ」とカールが後ろから注文した。

 バリーは、「馬鹿言うな。ギルドを潰すつもりか」カールを睨み、

「それにしても良い馬だな」俺に笑顔を向けた。

「ありがとうございます。そう聞けば村のみんなも喜びます」

 不意に、きな臭い地響き。

荒々しい馬蹄。

五騎が門から風のように駆け込んで来た。

慌てふためき悲鳴を上げて左右に割れる人波。

 国都での騎乗は通常、禁じられていた。

たとえ王族に連なる貴族でも例外ではない。

許されているのは上番中の国軍の騎兵隊か、近衛の騎士隊のみ。

 五騎の背中の旗指物を見てカールが言う。

「美濃の国軍の軍旗だ。おそらく伝令だろう」

「そうなると木曾の大樹海の一件か」とバリー。


 木曾の大樹海から現れた魔物の群が町を焼き払い、

大挙して美濃の領都に向かっている、と途中の宿場町で噂していた。

 俺はカールに尋ねた。

「もしかして、魔物の大移動の一件なの」

「たぶん」

「美濃の国軍で止められるものなの」

「地方に配備している国軍にその義務はない。

国軍の任務はその地方の監視なので兵数も多くはないんだ。

千人から二千人の規模だ。

地方の治安維持は領軍にあって、これに寄親の伯爵軍、

寄子の貴族を寄せ集めた連合軍が加わる。

寄り合い所帯で贔屓目に見ても一万か二万だな」

 俺は心配になった。

美濃が抜かれたら魔物の行き先は近江か尾張の何れかになる。

「それで勝てるものなの」

「結果は指揮官次第だ。

兵力を逐次投入するか、全兵力で迎え撃つか、どちらかだ。

全兵力を投入すれば魔物の群を殲滅出来るかも知れない。

が、味方の被害も大きい。

半分くらいは戦死覚悟になる。

そこをどう判断するか」

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