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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(どうしてこうなった)18

 軽くジャンプすれば済むものを、アリスは猫を貫き通す。

俺の肩に乗る仕草も堂に入っていた。

『どうするんだよ』

「ふにゃ~ん」

 尻尾で俺の鼻を打った。

駄目だこりゃ。

この様子をうちの者達が生暖かい目で見守っているではないか。

ほんとに、こりゃ駄目だ。

お手上げだ。

好きにさせる事にした。

そのうちに飽きるだろう。


 アリスから念話が来た。

『イライザとチョンボが来てるわよ』

 言うや否や、俺の肩からポーンと飛んだ。

庭木の枝に飛び移り、枝から枝へ次々と、そして姿を消した。

探知を起動すれば見つけられるが、それは無粋というもの。

念話を飛ばした。

『程々にな』


 別館の目の前の庭園敷地内に一張りの大型軍幕が見えて来た。

厚い警護態勢の向こうから煩い声。

「グッチョー、グッチョー、グッチョー」

 チョンボだ。

当然、イライザも居るのだろう。

そしてイヴ様も。

笑い声が聞こえて来た。

「チョンボ、あんた煩いわよ」

「ふっふっふ、ちょんぼおこられた」

「ゲッチュ、ゲッチュ、ゲッチュ」

 案内の侍女が説明した。

「チョンボは室内が嫌いなようなので、ここに居てもらいます。

イライザ殿もチョンボと一緒なされるようです」


 軍幕内に入った。

チョンボとの久々の再会を喜んでいるイヴ様は俺に気付かない。

チョンボごときに・・・・。

嫉妬ではないが、負けた気がした。

それでも邪魔はしない。

片隅のソファーに腰を下ろすと、気付いたイライザが寄って来た。

「ごめんなさいね、イヴ様を取り上げたようで」

「なんか、言い方がむかつく」

 イライザが笑って俺に手紙を差し出した。

夫君のカールからだ。

実兄のポール細川子爵を案じていた。

「ポール殿は持ち直した。

命に別条はないそうだ。

執事のブライアンもそう、同じく回復待ちだ。

この一件が終えたら、屋敷でゆっくり休んでくれ。

長期の有給休暇だ。

実家にも顔を出したらどうだい。

美濃では忙しくしてるんだろう」

「ええ、忙しいですね。

どなたかの商会のせいですね」


 イヴ様とチョンボがこちらに歩み寄って来た。

「バルンバルンバルン」

 チョンボのくせして語彙を増やしていた。

生意気だ。

イヴ様はイヴ様、自由だ。

何時もの様に俺に飛び込んで来た。

俺に怠りはない。

腰を落として両膝を地に着け、両手で優しくキャッチ。

そのまま一気に立ち上がり、イヴ様を肩車した。

「お昼にしましょう」


 メイド達がチョンボの餌を搬入始めた。

イライザが俺に言う。

「私はチョンボの世話をしてる」

「ああ、チョンボに宜しく」

 無視して軍幕から出ようとすると、

チョンボが片方の羽根で俺の尻を叩いた。

「グワッチグワッチグワッチ」

 痛い。

子供に優しい魔物、プリーズ。

まあ、イヴ様が笑っているから良いか。


 お昼は別館で頂いた。

イヴ様は盛り合わせのお子様ランチ。

ハンバーグ、海老フライ、プチトマト、グリンピースの煎り卵。

スープとパン付き。

俺もそれに合わせて、ちょいと大盛。

ハンバーグに人参のグラッセと、ブロッコリーが添えられていた。

傍目には兄用としか見えない。

だが、俺は知っている。

イヴ様は人参とブロッコリーが嫌いなのだ。

だから俺に増量されている、・・・と。

 気の毒そうに俺を見るイヴ様に、見せ付けるようにして、

まず人参のグラッセ。

バターと砂糖の味がした。

次にブロッコリー。

茹で上がりのブロッコリーは、塩とマヨネーズ。

茹でてあるとは言え、味わう物ではない、たぶん。

一気に噛み砕いた。

はあ、今日も大人の階段を上ってしまった、なあ。


 俺はブロッコリーの一つを摘み、イヴ様を揶揄した。

「イヴ様はお子様ですから、これはまだ無理ですよね」

「ふーんだ、おこさまでいいもん」

 思い切り顔を逸らされた。


 楽しい食事を終えて軍幕に戻ると、

その手前で近衛の長官が目に入った。

庭木に縛り付けられたままの人。

いかんいかん、

変なのを見てしまった。

長時間の拘束と疲れで憔悴仕切っていたのだ。

このままだと自然死しないか。

見張っている近衛兵が俺に敬礼した。

「時折、ポーションをかけているので、まだまだ大丈夫です」

 俺の心配を見抜いたようだ。


 俺は足を進めた。

そして、軍幕の入り口を見て引き返したくなった。

高価そうな衣服の者達が屯していたのだ。

どう見てもお貴族様の供回りの者達に違いない。

中に居る主人に、遠慮するように言われたのだろう。

 一旦足を止めたが、気を取り直して再び進めた。

お昼のデザートだと思い直した。

連中は俺を見て、道を開けた。

どうやら俺を見知っている様子。


 入り口の近衛兵が俺に耳打ちした。

「モビエール毛利侯爵様がいらしてます」

 おお、評定衆の大物。

モビエールは毛利派閥を率いて、その権勢を誇っている人物だ。

長身痩躯で、鋭い眼光で相手を見据え、理屈攻めで説く、

始末に困る性格なのだが、それほど嫌われてはいない。

政敵である筈の三好侯爵とも酒を酌み交わす間柄。

俺とは、王妃様との関係で顔馴染み。

何度か話した事もある。

 いたいた。

待合のテーブルで珈琲を飲んでいる後ろ姿、彼だ。

執事らしいのが耳打ちした。

ゆるりと振り返った。

俺を見て、笑顔を浮かべ、そっと珈琲カップを置いた。

「待ち兼ねたぞ」

 圧迫すべく、わざとこの時間帯にしたのだろう。

喰えないな。

俺は表情を変えずに歩み寄った。

「お話はあちらのテーブルで」

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