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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(どうしてこうなった)17

 近衛の制服の一団が案内されて来た。

隣の侍従が俺に教えてくれた。

「元帥と副官、そして護衛の者達ですね」

 真ん中の恰幅の良い男の肩章襟章がそれを物語っていた。

元帥の鋭い視線がこちらに向けられた。

何かを探る様子。

それは俺で止まった。

どうやら俺を見知っている様子。

俺は知らないけど。

副官が前に出た。

肩章は少佐。

「君が佐藤伯爵だね。

聞かせてくれるか。

表で縛られているのは、うちの長官なんだろう」

「ええ、そうですね」

「あの様な仕置きの理由は」

「謹慎の沙汰を聞き入れてもらえず・・・。

結果、あのような処理に相成りました。

まあ、ダイエットにはなる筈です」

 元帥も長官同様に恰幅が良かった。

割腹ダイエットでもするか。

が、そこまでは口にしない。


 少佐は納得できぬ色。

ところが後ろの元帥は違った。

噴き出してしまった。

人目がなけれは腹を抱えて笑ったかも知れない。

一頻り笑ってから俺に尋ねた。

「儂も謹慎かな」

「ええ、そうですね。

誰が敵で、誰が味方か分からぬ状況です。

そこでお偉い方には静養して頂こう、そう考えています。

これはお互いの為です」

「確かに、それが最も手っ取り早い。

近衛はそれで良いかも知れんな。

ところで、国軍や奉行所はどうする」


 秘密裏に事を運ぶには、まず、全容を知る関係者を絞る。

情報統制を徹底して優先する。

今回の作戦区域は王宮区画と限られていた。

狭い範囲なので、近衛高官と一部関係者の抱き込みだけで済む。

費用対効果からすると、最低の費用で最大の効果を得られる。

コスパが良い。

成功すればだが・・・。

「国軍と奉行所は外郭が担当なので、管領は声掛けしていない筈です」

 試し見るような目色の元帥。

「ほう、自信たっぷりだな、もし違っていたら」

 俺は無表情で言い切った。

「ごめんなさい、そう謝ります」


 元帥は鼻で笑った。

「ふっ、子供だからそれで許されるか」

 元帥は俺の隣の侍従を見た。

そして彼に言う。

「分かった。

だが、謹慎は断る。

儂は王妃様の呼び出しがあるまでは有給休暇だ。

後は任せて良いか」

 侍従が深く頷いた。

「万事お任せを」


 元帥が一団を連れて引き揚げて行く。

それを侍従が見送りに出た。

俺にとっては、やれやれだ。

別の侍従が俺に囁いた。

「元帥だけあって巧妙ですな」

「えっ、そうなんだ・・・」

「ええ、そうですよ。

管領との間に密約があったのか、なかったのか、

当の管領が姿を消したので確かめようが有りません。

おそらく永遠に分からないでしょう。

それを元帥は逆手に取って戦術的撤退をしたんでしょうな」

 なるほど、王妃様の呼び出しを持つ姿勢をアピール。

呼び出しを受けたら、忠臣の顔をして御前に跪く 。

「ああ・・・、なるほど」

「ご心配なく。

こちらはその逆手を利用させて貰います。

元帥代理も含め、要所をこちらで固めます」


 俺は、大人の汚い作法を一つ学んだ。

ダンタルニャン、一つお利口になっちゃった・・・なっ。

それはそれとして、この後、国軍や奉行所の長官や元帥も現れた。

まるで近衛の元帥が無事に帰ったのを見たかのように・・・。

意外とそうなのかも知れない。

それが高官諸氏の処世術なのだろう。

批判するつもりはない。

王宮権力の仕組みを理解していれば、それも仕方ない。

 俺は彼等の相手をした。

そこで感嘆させられた。

彼等は子供の言葉を真摯に受け取り、唯々諾々と従うのからだ。

委細の説明を求めるものの、反論や拒否はない。

おそらく近衛元帥の周辺からレクチャーを受けたのだろう。

この状況から無難に抜け出すつもりらしい。

まあ、それで良いか。

俺も早く普通の日常に戻りたい。


 イヴ様付きの侍女が顔を出した。

「そろそろお昼ですよ」

 そんな時間か。

難儀な諸氏がこちらのテーブルに回されて来るので、

すっかり脳味噌が疲弊してしまった。

俺は背伸びしながら返事した。

「はい、参ります」

 背後に控えていたうちの者達も同様らしい。

大きく欠伸する者もいた。


「あっ・・・」

 メイド、ジューンの声が上がった。

庭木から飛び立った大きな鳥を見掛けてのこと。

濡れたような黒い羽根。

育ちの良い魔鴉。

健康優良児なのかな。

 魔鴉は俺を一瞥して、大空に駆け上がった。

それから魔波が感じ取れた。

うちの妖精の一人だ。


 アリスとハッピーの執拗な要求に負け、条件付きで許可した。

妖精魔法の透明化でも魔導師には見破られる公算大。

そこで、スキル【変身】を条件とした。

形ある物ならば見過ごすとの思惑からだ。

もし疑われたら、高々度へ逃れるだけのこと。

人であれば追っては来れない。

たぶん、間違ってない、よね。


 黒猫が前を横切った。

俺を横目で見て、「にゃ~ん」と。

笑われてる気がした。

魔波はハッピー。

王宮には普通に、野良猫や鴉が営巣していた。

それに魔猫や魔鴉が紛れていても不思議ではない。

危険性が皆無なので誰も気にしない。

警備の近衛も気にしない。

 とっ、お尻から背中にかけて軽く温い感触。

それは、ポテポテポテ。

何かが俺の身体を駆け上がって来た。

それが俺の肩で止まった。

「にゃ~ん」

 白い子猫。

紛れもなくアリスだ。

『何してんだよ』

「にゃ~ん」

『ほんとに何してんだよ』

「にゃにゃ~ん」

 猫である事を強調していた。

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