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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(どうしてこうなった)10

 俺の指示に全員が従った。

イヴ様を中心にして、円陣を敷いた。

侍女とメイドの十六名がイヴ様を囲み、

その外をエリス野田中尉とその配下の女性騎士二十名が受け持った。

イヴ様が俺を見上げられた。

「ニャ~ン、なにかあったの」

 俺は両膝を地に着けて、視線を合わせた。

「嫌な連中が来ました。

でも大丈夫。

皆でイヴ様を守ります」


 近衛軍の一隊にエリス中尉配下の男性騎士二十名が拘束された。

そしてこれまた別の近衛軍の一隊がこの庭園を包囲した。

こちら側だったメイド二名がボルビン佐々木侯爵側に身を投じた。

不可解な行動が続いた。

つまり俺達は後手後手、と言う訳だ。


 ボルビン佐々木侯爵の一行が手前で足を止めた。

メイド二名を迎え入れた。

そのメイド二名がイライザとチョンボのフィギアを差し出し、

得意顔で説明始めた。

ここまでは聞こえないが、ボルビンの表情が和らぐのが分かった。


 エリスが俺を呼ぶ。

「佐藤伯爵、どうする」

「どうするも何も、取り敢えず話し合いからだ」

 そこで俺は一つ思い出した。

「ねえエリス、僕の手紙を美濃へ送ってくれたかな」

 美濃のカール細川子爵宛てだ。

「行き成りね。

ええ、送りましたとも、それが」

「着いてる頃かな」

「軍事郵便だから、翌日には着いてるわよ」


 俺はエリスを連れて円陣から出た。

ボルビンの方へ歩み寄る。

それに呼応するように、ボルビンも一人を供に、歩みを進めて来た。

供は庭師の一人だ。

そして互いに、中間点らしき所で自然に足を止めた。

微妙な間合いだ。

俺はボルビンに尋ねた。

「何事ですか」

「君とは顔を合わせた事はあるが、深く話した事はなかったね」

「ええ、子供ですから」

「そうだったね」

 ボルビンが俺とエリスを交互に見比べた。


 俺はボルビンの供の庭師に不信感を覚えた。

強者の色ふんぷんなのだ。

もしかして庭師は表看板か。

鑑定した。

職業、庭師とあった。

そのステータスに違和感。

綿密に調べた。

何かある筈だ。

 見つけた。

生意気に左手中指に【偽装の指輪】をしていた。

なら容易い。

これでも俺は魔女魔法のスキル所持者、たばかるな。

鑑定の精度を上げた。

ステータス偽装を看破した。

職業、国王陛下の直属部隊司令官。

スキル、気配遮断、身体強化、体術、剣術、薬師。

なるほどな。


 ボルビンが俺とエリスに言う。

「どちらが上位になるんだね」

 決定権は誰にあるのか、そういう意味なのだろう。

俺は即座に応じた。

「子供ですが、僕が上位にあります。

それで、何が進行中なのか教えて頂けますか」

「そうか、でも気付いているだろう。

君は賢いようだしね。

まあいい。

我々が王宮を制圧した。

ここも包囲下にある。

君達は私の手の内だ。

ここからは誰も逃れられない」

「管領殿、貴方も反乱ですか」

 ボルビンは落ち着いていた。

「そこは見解の相違だな。

これは反乱ではない。

我々は政を正道に戻そうとしているだけだ」

「正道に」

「そうだ、正道に戻す。

王妃様は最近、評定衆と共に私利私欲に走っている。

最初は多少は、と目を瞑って来たが、このところそれが目に余る。

政敵の貴族や文武官を排除する目的で、

反乱軍討伐の最前線に投入する事例が相次いでおる。

もはや我慢の限界。

よって我々が立ち上がった」


 大人の政に嘴を挟む趣味はない。

僕は大事な事を尋ねた。

「このこと、ポール細川子爵は承知なされているのですか」

「彼には気の毒な事をした」

 俺はボルビンの一行の中に、ポール殿の同僚の顔を見つけた。

俺の視線にその男がたじろぎ、顔を逸らした。

俺はボルビンに視線を戻した。

「血を流したのですか」

「好きではないが必要とあればね」


 俺は王宮を急ぎ鑑定した。

ちょっと離れているのでエリアを広げた。

死者や負傷者、拘束された者達が散見された。

ポール殿は・・・。

ボルビンが邪魔をした。

「早速だが、イヴ様を引き渡して貰いたい。

大人しく引き渡してくれれば謝礼をするよ」

「意味が分かりません。

イヴ様は王妃様のお子様です。

貴方に何の権利が」


 包囲している自信からか、ボルビンが余裕を見せた。

「伯爵、今進行中なのは大人の世界の政だ。

君にはまだ早いかも知れん。

が、これを機会に覚えて置きなさい。

イヴ様は亡き国王様の唯一のお子様。

足利家の継承者である。

この継承者である意味は大きい。

王妃様がどうのこうのではなく、

足利家を支える者達で責任を持って保護せねばならんのだ。

よって、忠臣である我々がその任を負う。

血が流される前にこちらに引き渡しなさい」


 俺は子供だが、大事なものは分かる。

ポール細川子爵の血が流れた、としたら許せない。

貴族の先達であり、カールの実兄だ。

その血を流した元凶に屈する訳には行かない。

 イヴ様もそう。

あんな可愛いく賢い生き物を他に知らない。

今日まで自分の妹のように接して来たから、その価値は分かる。

それを渡せと、ふざけるな。

俺はボルビンを睨み付いた。


 ボルビンは自分達が優位に立ってると思っているようだ。

ニマニマと笑み。

「ほほう、立派立派。

子供の狭い世界の義侠心かな。

生憎、ここは大人の政の中心なのだよ。

・・・。

イヴ様の血が流れても構わないのかな」


 落ち着け、落ち着け俺。

怒りに身を任せるのは無謀。

無為無策で走れば、イヴ様まで巻き込む。

ここは冷静に、冷静に。

考えろ、考えろ。

 ボルビンの隣の男の表情が気になった。

謀を好む色。

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