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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
359/373

(どうしてこうなった)9

     ☆


 イヴ様はまだ四才だが、多忙を極めていた。

帝王学までは進んでいないが、その前の情操教育が課されていた。

読み聞かせで知的好奇心を刺激し、人との関わりを学ばせる。

自然との触れ合いの中で命を自覚される。

音楽や絵画を通して芸術に触れさせる。

神社や教会、史跡等を訪れる。

加えて読み書き、足し算引き算。

でも多いのは昼寝。

発育に一番時間が取られていた。

 比べて俺は暇だ。

まず授業がない。

伯爵としての執務も免除された。

商会長としての務めもない。

王妃様案件の公休だ。

自由だ、自由だ。

暇がこんなに詰まらないとは思わなかった。


 そんな俺にイヴ様の昼寝あとの時間が割り当てられた。

何かして喜ばせろと。

何でも良いそうだ。

遊びでも。

そういう指示が一番困るのだが、文句は言わない。

大人として・・・、色々と考えた末、起きて来たイヴ様に尋ねた。

「今日はどうします」

「ギター、今日もギターにして」


 初日からずっと、昼寝の後はギターをリクエストされた。

まあ、予想通りではあるある。

一階に小さなホールがある。

そこへ移動した。

メイド達により設営済みだ。

俺はホールの真ん中の椅子に腰を落とし、ギターのチューニング。

 たった一人のお客様、イヴ様は俺の真ん前のテーブル。

そのイヴ様、ケーキスタンドを見てニコニコ。

「お茶ほしい」

 心得てるメイドが用意していたジュースを淹れて、差し出した。

イヴ様、満足の笑み。

ジュースを飲み、銀のスプーンでケーキの一角を削られた。


 ホールにはたった一人のお客様だが、イヴ様の側仕え達で暑苦しい。

こんな世話する人員が必要なのだろうか。

交替で勤務しても問題ない筈なのに。

まあ、余計なお世話か。

連日のリクエストで種切れだ。

そこでうろ覚えだが、両親が大好きだった曲を選んだ。

 バート・バラックの、『雨に濡れた夜』『遥かなる雲』『サンホセへの橋』。

ボサノバ感をたっぷり出して、異訳で歌った。

父さん、母さん、異訳でごめんなさい。

でも受けたみたい。

イヴ様も側仕え達も大きく拍手してくれた。

あれっ、もしかしてギターマンとしてやってける、・・・のかな。


 ギターを収納した俺の手をイヴ様が掴んだ。

「ニャ~ン、お庭」

 女性騎士三名の先導で、別館から出た。

行く先は近くの庭園。

すでに先乗りの女性騎士五名が待ち構えていた。

その一人がエリス野田中尉に報告した。

「報告します。

庭師以外は退出して貰いました」

「庭師は退出させられなかったの」

「仕事のスケジュールが詰まっていて無理だそうです」

「そう、で何名」

「北側に三名、西側に三名、六名で樹木を切り揃えています」

「仕方ないわね」


 庭園の中の花壇に向かった。

ここでイヴ様の魔法の訓練が行われる。

訓練と言っても本格的でも、小難しくもない。

初歩の初歩。

イヴ様のスキルが土魔法なので、それに応じたもの。

魔力操作は終えたので、このところは魔力を馴染ませた土での人形作り。

教えるのは女性騎士の土魔法使い。

 俺は手持ち無沙汰。

それでもイヴ様から離れられない。

訓練中のイヴ様が時折、俺を探すからだ。

忠臣としては、常に視界の内にいるように心掛けた。


 視線はイヴ様に向けたまま同時に探知を起動した。

身近にいる者達を識別した。

俺以外にイヴ様、エリス野田中尉、その指揮下の女性騎士二十名、

側仕えの次女八名、メイド十名。

範囲を広げた。

庭園内にいる存在は庭師が六名のみ。

他に存在なし。


「ニャ~ン」

 イヴ様の声。

俺の魔波に気付いたらしい。

油断がならない女児だ。

俺は片手を上げ、それから恭しく頭を下げた。

「なかなか上手いですね、イヴ様」

「うっふふ、ありがとうね」

 イヴ様が俺の方へ向けて土を捏ね繰り回し、

魔力を馴染ませて粘土化してみせた。

その足下には粘土の山が築かれた。

大したものだ。

教え上手と飲み込みの早い者のコラボ、そう評すべきだろう。


 イヴ様が人形作りに着手なされた。

モデルはイライザとチョンボだ。

俺が作ったフィギアが手本なのだろう。

それを組み合わせ、一体化させ、より可愛い仕様になった。

 褒めようとした瞬間、周辺の空気が変わった。

俺は探知を再起動した。

庭園の周辺に近衛兵が群れ成し現れた。

しかし、一兵も庭園内に踏み込まない。

外周に沿って包囲した。

きちんとした指揮下にあるようだ。


 俺は別館の様子を探った。

こちらも既に手を打たれていた。

エリス配下の男性騎士二十名が同僚である近衛部隊に拘束されていた。


 庭園包囲の近衛部隊の一角が割れた。

その中を王宮からの十五名が堂々と通行した。

俺は鑑定を重ね掛けした。

先頭にはボルビン佐々木侯爵。

管領として亡き国王陛下を支えた人。

忠臣と呼ぶに相応しい人。

彼の人がどうして。


 ボルビンの一行が庭園に入って来た。

こちらへ真っ直ぐに。

とっ、庭師六名が動いた。

ボルビンの一行に加わった。

はっ、こちらから二名が走り出るではないか。

メイドが。

その二名もボルビン一行に加わるつもりのようだ。

 まさか・・・。

俺はメイド二名の手荷物を視た。

あれは・・・。

イライザとチョンボのフィギアではないか。

防御の術式を施した逸品だ。

あらゆる攻撃を無効にする術式。

魔法、物理、毒、麻痺、呪い等々。

考え付く限りの攻撃を想定して施した。

イヴ様に危害が加えられる、そう認識すると勝手に術式が起動し、

防御陣が張られ、治癒が成される。


 予想せぬ裏切りにエリスが固まった。

気持ちは分かる。

俺はエリスに代わり、皆に指示した。

「全員ここに集まれ。

イヴ様を守り抜く」

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