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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(どうしてこうなった)7

 俺は別館へ戻る道すがらエリスの姿を求めた。

けれど見つけられない。

どこへ。

答えは別館の玄関前にあった。

エリスは大勢の中にいた。

イヴ様とその側仕えの集団と共にいた。

エリスは当然の様にイヴ様と手を繋いでいた。

イヴ様の声。

「ニャ~ン」

 猫か。

イヴ様がエリスの手を振り解き、こちらへ駆け寄って来た。

俺はルーティンを守った。

両膝を付き、両腕を伸ばした。

そこへイヴ様が満面の笑みで飛び込んで来られた。

俺は素早く抱き留め、腰を上げて、高い高い。

そしてイヴ様をクルリと反転させて、肩車。

イヴ様の笑い声が止まらない。

周囲を囲む面々も生暖かい目で俺達を見守ってくれた。


 気が進まないが、イヴ様から情報収集する事にした。

「昨夜は王妃様とご一緒だったのですか」

「ううん、お母様はおしごとでおでかけ」

「カトリーヌ殿は」

「お母様とごいっしょ。

お仕事がいそがしいから、にゃんと遊んでまってなさいって」


 おそらく出立は昨夕。

時刻から推測するに、泊まりは郊外の近衛軍駐屯地。

馬の放牧場として活用されてる為に敷地は広い。

王妃様が普通の女性騎兵に扮していれば目立たない。

それが密かな入場となれば尚更だ。

そこで一泊し、夜明けと共に因幡を目指したのではなかろうか。


 王妃専用車の車列の周囲を近衛の騎馬隊で固め、

前後に国軍の騎馬隊を配すると聞いた。

遭遇戦を想定した行軍隊列とも聞いた。

そちらに耳目を集めて、その実は別の部隊の中に本人がいる訳だ。

先遣隊とか、偵察隊と称して因幡へ先行するのだろう。

近衛の部隊であればどんな関所もフリーで抜けられる。

誰何しようだなんて奴はいない。

立ちはだかる者は斬り捨て御免なんだから。


 俺は感心すると同時に、王妃様とその周辺に違和感を抱いた。

慎重なのは良い事だが、何やら深く拘泥している様にも感じ取れた。

原因は・・・。

王妃様の実父の死亡・・・。

この時期に都合良く亡くなった。

そこに発している訳か。

 企んだ奴がいるとして、その立場になって考えてみた。

企みというものは複雑ではいけない。

関係する者が多くなり、手違いが発生し易い。

よって、露見する確率が高くなる傾向にある。

 その点、単純なのは成功確率が高い。

この様に王妃様とイヴ様を切り離し、イヴ様を押さえて人質とし、

それを盾に王妃様を政から隠居させる。

これだと協力者が少なくて済む。

手早く成功させれば、政の遅滞も招かない。


 エリスを観察するに、その笑顔から不審なものは感じ取れない。

心から俺とイヴ様を生暖かい目で見守っている、そうとしか思えない。

だがだ、信念から生まれる行動はそもそも悪意でも、邪心でもない。

それは宗教的な行為に近いもの。

ひたすら信じて突き進む傾向にある。

その様な異心を掴むのは不可能だろう。

エリスだけでなく、この場に居る者達を疑うのは止めた。

疑心暗鬼に陥っては俺の目を曇らせるだけ。

だったら臨機応変に対応しよう。

気転を利かせよう。

一休み~、一休み~、一休さんだ。


     ☆


 ベティ足利とカトリーヌ明石中佐のは因幡へ向かっていた。

国都から山陰道を通って鳥取へ向かう途次にあったのだが、

地勢から難所が多く、難渋を極めた。

馬足を緩めながらベティが思わず漏らした。

「街道の整備はどうなってるの」

 カトリーヌが事も無げに応じた。

「この地を治める寄親伯爵の手落ちかと」

「・・・ひいては私の責か。

しかし何だな、街道がこの有様では尼子勢は山陰道伝いには、

都に攻め寄せられぬな」

 王兄、カーティスは石見地方の寄親伯爵家の庇護下に逃げ込み、

官軍に対し激しく抵抗していた。

寄親伯爵家、尼子の娘を正室にしていた縁を活かし、同士と語らい、

今日までその健在振りを大いに発揮していた。

 ベティが向かう因幡も石見も共に山陰道沿いに位置していた。

出立前にベティは、距離的に近いので危ぶんでいたのだが、

そんなベティに、地理に聡い近衛参謀が自信満々に言い放った。

「カーティス様が都へ上るとしたなら、尼子家は山陽道を勧めるでしょう」


 近衛参謀が行程を組んでくれた。

馬の難所を記し、休憩個所と宿泊箇所を指定した。

「先を急かれる気持ちは重々承知しております。

ですが、お命を最も優先して下さい。

お身に全てが掛かっております」

 それに守ってベティ一行は西へ向かっていた。

三日目、昼過ぎ。

激しい突風が吹いた。

前後から悲鳴が上がった、

崖道の下は荒れ狂う海、

ベティは前後を見遣った。

隊列が突風で乱されていた。

思わずベティは叫んだ。

「隊列には構わずに馬を鎮めなさい。

鎮めるのが先よ。

鎮めれば崖から落ちる心配はないわ」


 一人の脱落者も出さずに崖道を抜けた。

カトリーヌが馬を寄せて来た。

「全員落ち着きました。

流石は王妃様」

「褒められても困るわ。

私の出自は子爵家よ。

それもこの山陰道沿いの貧乏子爵家。

小さな頃から馬にも海風にも慣れてるわ」


 因幡に無事に入った。

「何も動きはなかったわね」

 カトリーヌが困惑の表情。

「もしかすると」

「そうよね」


 囮の、王妃専用車の車列は道路が整備された山陽道を向かわせた。

姫路から姫街道に入って鳥取へ着到する行程を組ませた。

他方の国軍駐屯地から随所に部隊を配備させたので、

比較的にゆるい行軍ではなかったのかな、とは思った。

しかし、山陰道では襲撃がなかった。

となると、囮が心配になってきた。


 ベティは実家は鳥取の領都から少し離れた海沿いの街にあった。

海浜通りの道を進んだ。

久し振りに嗅ぐ潮風と潮騒に浸っているとカトリーヌに現世に戻された。

「ベティ様、先触れの者達が戻りました」

 数が増えていた。

よく目を凝らすと、早朝に送り出した先触れだけでなく、

前々日に送り出した者達もいた。

彼彼女等は先触れではなく、密かに実家に送り出した者達だ。

鑑定スキル持ち、薬師スキル持ち、諜報の専門家、取り調べの専門家、

そしてそれらの者達を支援する騎士十名。

「実父の死因を調べ直してちょうだい」

 無理難題を押し付けたと思う。

だけど、今日ほど権力を有り難く思った事はない。

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