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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
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(どうしてこうなった)3

 俺は書類の確認を終えた。

帳簿等には問題はない。

「トランス、仕事は完璧だよ。

ここの仕事量だと暇だろう。

もう少し増やしてみようか」

 するとルースに阻まれた。

「駄目ですよ。

それはオメガ会館の事でしょう。

ダン様、それには賛成できません。

それに、ここもこれから増々忙しくなります。

トランスは手放しませんよ」

 オメガ商会は俺が岐阜に、個人的に設立した商会だ。

あちらとの人材交流を考えてのトランスなのだが、時期尚早だったかな。

俺は苦笑いで収め、珈琲に手を伸ばした。

うっ、苦い。

大人の味が増々か。

でも飲み込む。

誰かの失笑が漏れ聞こえた。

敢えて追及はしない。


 俺は会計関係以外の書類から、それを取り上げた。

「忙しくなるのは、これかな」

「ええ、それです」

 テニスの次に流行らすのはバドミントン、と考えていた。

テニスに類似しているので、用具開発からすると安易に進められるのだ。

それを下請け工房の親父たちに大まかに伝えたの一ヶ月前。

なのにどういう訳か、それなりのタイムスケジュールが組み上がっていた。

まあ、テニスでの成功体験が大きいのかも知れないが、

それにしても早過ぎないか。

商売への熱意か、ただ単にお金儲けへの執着か。


 利益が出るのは嬉しいが、それに伴う弊害も噴出する。

多いのは特に外からのもの。

その中でも一番避けたいのはお貴族様絡み。

俺はクレーム処理の書類を指で指し示した。

「ねえルース、よそ様からの手出しは減ってるかい」

 これにはルースが顔を顰めた。

「表だっての行動は減りましたが、それでも色々と仕掛けて来ています」

「例えば」

「工房の技術を盗もうとする方々が一向に減りません」

「職人に直接的な被害は」

「伯爵様がオーナーという事が知られて来たので、

そちらは無くなりました。

この所の問題はコピー商品ですね。

後追い参入の商会の製品が脆いのです。

一ㇳ月と持ちません。

その尻拭いがこちらに来ます。

どうしてくれる、そちらで買ったんだ、何としても無償で修理しろ、

交換しろと。

それを宥めて説明するのが手間ですね」

「クレーム処理には誰が」

「相手によりけりです。

強面には元冒険者、理屈を申し立てる者には商人ギルドの元窓口嬢、

幸い利益が出ているので人材には事欠きません」


 うちの下請け工房には粗製濫造を禁じているので、

品質には自信があった。

二年や三年で壊れる物は製造していない。

その下請けへの原材料は全てうちから支給する形にしていた。

うちが関係各所から原材料を大量購入して保管、適時に支給する。

必要な時に必要な量を、である。

無駄を省くのは正しいが、それにも限度がある。

適正な余裕が必要なのだ。

所謂、ハンドルの遊びだ。

車を製造しているメーカーなら常識だ。

 下請けから製品を仕入れる際は、三方良し、とした。

売り手よし、買い手よし、世間よし。

皆が笑顔になれば嬉しい。


 トランスが挙手した。

「宜しいですか」

「いいよ」

「保管倉庫の拡張は如何でしょうか」

「目的は」

「事業拡大です。

取り敢えずは業務用の原材料の販売です」

「所謂、卸業で間違いないかな」

「そうです。

下地は出来ています。

原材料を入手する川上に伝手が出来ました。

これを活かさないのは勿体ないです」

 川中では下請け工房が機能している。

そして川下にはアルファ商会がある。

この短い期間にうちの商会だけでなく、

この元冒険者も一皮剥けたみたいだ。


 保管倉庫は国都の外に構えていた。

隣には当家の騎士団の宿舎と馬場があり、

警備の観点からも申し分ない立地だ。

さらには敷地を広げる余地も残っていた。

俺はトランスに指示した。

「トランス、目の付け所が良い。

稟議書を取締役会に提出してくれ」


 俺は飲み物をジュースに替えた。

えっ、おう、炭酸入りか。

飲み易い。

ついでに話題も変えた。

「ねえルース、ポーションも売れてるけど、先行きはどう」

 うちの取締役三人、ルース、シンシア、シビルは元々は国軍士官。

それが、ポーションショップ開設を目指して退官、転職した。

冒険者に。

なのに今は俺の誘いで商会取締役。

ポーション工房とショップを併設したのが効いたみたいだ。

「売り上げが平時に戻ると見込んで、減らしています」

 反乱特需の終わりか。

「元国軍士官として、近々反乱が収まるとの判断かい」

「そうです、特に関東は虫の息ですね」

「籠城したけど、あれは」

「知人の多くは、悪足掻きと貶しています。

ただ、一部は、西の反乱との連携を疑っています」


「その西の様子は」

「九州の反乱軍は旗色が悪いそうです」

 当初、反乱した島津伯爵軍が官軍を押していた。

それが、官軍の主体が三好侯爵派閥になってからから変わった。

押し合いへし合いから、遂には官軍が押し始めた。

「一時は官軍を破る勢いだっそうだね」

「ええ、ですがそこは流石、三好侯爵家ですね。

ここ最近は戦線を押し上げているそうです」


 駐車場で待機中の警護の兵が、商会のスタッフに案内されて、

この個室に入って来た。

「お屋敷から使いの者が来ました」

 俺に薄い封書を差し出した。

裏書きは執事長の手跡。

封を切り、中を読んだ。

「宮廷より先触れが参りました。

迎車を遣わすので、直ちに、密かに参内するように、との事です」

 ふむふむ、急ぎ且つ、内密の事が生じた訳か。

で、俺、・・・か。

相談でないのは確かだ。

手駒として動けだろう。

人使いが荒い。

前世なら労基に訴えてる案件だ。

まあ、文句言っても今更か。

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