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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
351/373

(どうしてこうなった)1

 俺は執務室に入ると真っ先に、

関東の反乱に関する件の報告書に目を通した。

美濃地方の寄親伯爵代理・カール細川子爵から送られてきた物だ。

執事長・ダンカンが先に目を通して説明してくれたが、それは概要だけ。

こちらの報告書はそれをより詳細に記していた。

 今のカールは多忙なはず。

美濃地方の寄親伯爵代理、そして領都・岐阜の代官。

美濃地方全体を統括し、治める役儀。

文字にすると簡単だが、実務となるとそうではない。

地方の、所謂、三権の長なのだ。

加えて自身の、子爵としての領地もある。

妻もいる。

ありがとうカール、ちゃんと休養は取っているよね。


 カールは国軍出身だけに、的を得た報告書に仕上げていた。

俺は念の為、二度読みした。

そして一つの疑問に辿り着いた。

どうして籠城・・・、援軍が来る訳でもないのに。

悪足掻きか、それとも単に意地か。

 カールはその点に関しては、報告書では何も述べていない。

判明した事柄を時系列で正確に記しているだけ。

カールが自説を述べれば、それに俺が引き摺られる、

それを避けたのだろう。

ありがたいことだ。


 俺はダンカンに尋ねた。

「これを読んで思った事は」

 ダンカンが即答した。

「籠城の意味が分かりません」

「だよね、僕もそう思う。

籠城した三人の性格を知っていれば、それなりの解釈が出来ると思うが、

生憎、年代が違う上に、伝手もない。

だから、俺達の脳味噌をフル回転させるしかない」

 ダンカンは一考した上で述べた。

「私共にとって最悪の状況を考えましょう。

それは、一つ、援軍が加勢に来る。

二つ、長期籠城していると取り巻く状況に変化が生じる、ですかね」

 その二つの指摘はもっともだ。

まず援軍。

その可能性があるのは。

距離からすると東北代官所そのものか、その傘下の寄親伯爵になる。

しかし、東北代官所は旗幟を鮮明にした。

官軍への味方を宣し、兵糧を提供した。

となると、寄親伯爵の誰かが籠絡されたのか。

それは一人か、二人か、それとも三人。

人数はともかく、挙兵すれば東北代官所に潰されるは必定。

その様な状況での挙兵は現実的ではない。


 二つ目の、取り巻く状況が変化し、それが反乱軍に有利に働く。

それは、・・・。

考え得るのは西の反乱。

現状は五分であるらしいが、それは官軍が無理押ししないから。

戦線各所で地道にコツコツと前線を押し上げ、時に応じて下げ、

一進一退を繰り返していた。

地力の差があるので、反乱軍の疲弊を狙っているのだ。

その様な状況下で覆せるのだろうか。

さっぱり分からない。

だから俺はダンカンに丸投げした。

「この手の分析が出来る人材が欲しい。

急がなくても良いから、しっかりとした者を家臣として雇用してくれ」

「参謀ですね」

「贅沢かも知れないが、軍事だけでなく、

経済や農業などの知識がある者が欲しい。

幸い、当家はお金だけは余ってる。

足りないのは有能な専門家だ。

それぞれの専門家を複数名雇っても問題ないだろう」

 ダンカンが良い笑顔。

「はい、承知しました」


 当家はお金だけは余ってる。

大樹海を抱える木曽からの収入が桁違いに多いのだ。

これは、これまで曖昧だった官民のボーダーラインを、

明文化して定めた事が大きい。

お陰で官は、無駄が省け、支出が減った。

対して民は、法の範囲内であれば自由に商売が出来るようになった。

原材料が近場で狩れる大樹海の魔物なので、

目端の利く者達の流入が増え、新たな商会や工房が設立された。

 明文化はカールが主導した。

税収が跳ね上がった事で、明文化の意義が立証された。

そのカールは現在、美濃地方の寄親伯爵代理、領都・岐阜の代官兼任。

頼むぞカール、俺が成人するまで。

たぶん、十四か、十五、十六の何れかで成人する見込みだから。


 お金に関してだが、俺個人の資産も大きく膨れ上がった。

一つは、ポーション工房とテニス工房を営むアルファ商会。

もう一つは岐阜にて貸しホールとレストランを営むオメガ会館。

この二つからの上がりも桁違いなのだ。

東西三か所で反乱が勃発しても、遠隔地との判断なのか、

この山城を中心とした畿内経済圏は無風の様で、

殊に富裕層が俺の店に行列を成すのだ。

ありがたい、ありがたい。


 俺の仕事量は、ダンカンとカールの肩代わりもあり、意外と少ない。

ほとんどは確認作業と署名。

でもそれらしく、立ち上がって肩を回した。

「これからアルファ商会に顔を出す。

ダンカン、手配宜しく」

 急に行きたくなった。

なのにダンカンは嫌な顔一つしない。

「承知しました。

馬車と警護の手配をします」

 そのダンカンを、俺のメイド・ジューンが呼び止めた。

「執事長、ちょっと待って。

馬車は天気が良いからカブリオレにしましょう」

 初期からの使用人同士なので遠慮がない。

ダンカンは俺にも聞かずに了承した。

「スチュワートは馬に乗せましょう」


 現在、ダンカンの下に平の執事が二人付いていた。

コリンとスチュアート。

コリンはダンカンの補佐。

残ったスチュアートが俺の従者。

馬車がカブリオレとなると、馭者は当然スチュアートなのだが、

今回の様にメイドが出しゃばって来る。

特にジューンが。

 バーバラが侍女長、ドリスがメイド長に昇格した事により、

ジューンは遠慮がなくなった。

俺を弟の様に扱う。

それを周りも許す。

まあ、仕方のないことだが。


 お茶で一服してから玄関に下りるとカブリオレが待っていた。

ところが馭者席にジューンの姿がない。

不審顔の俺に見送の一人、バーバラが言う。

「申し訳ございません。

ジューンがちょっと遅れています。

女性だから着替えに時間がかかるのかも知れませんわね」

「着替え・・・」

「ええ、着替えです」

 そこへ息せき切ってジューンが駆け込んで来た。

メイド服から乗馬服に着替えていた。

ジューンが頭を下げた。

「遅れて申し訳ございません」

「それは良い。それよりその乗馬服は」

「馭者服が地味なので、皆の意見の結果、乗馬服になりました。

似合いませんか」

 皆の意見なのか。

それはそれは。

似合ってるから良いか。

バーバラが俺に手を差し出した。

「さあ、お乗りくださいませ」

 エスコートされた。

ジューンを見遣ると、彼女はあたふたとした足取りで馭者席に収まった。

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