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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
349/373

(西部戦線は異状ばかり)11

 アリスは迷った。

すると別の妖精が言う。

『攻撃魔法だと瓦礫の山は築けるけど、殲滅の確認が出来ないわ。

瓦礫と瓦礫の隙間や、地下で生き残る可能性があるでしょう』

 確かにそうだ。

地下室や下水道等に逃れれば生き残れる可能性が高い。

アリスは王宮を見下ろした。

逃げる騎士団を追ってライトニングタイガーが王宮区画侵入を果たした。

これにその家族が続いた。

アリスは決断した。

『王都全体を大樹海にするわ。

だから皆で公園や庭園の木々や草を急成長させるわよ。

ついでに個人宅の小さな庭や、窓際の鉢植えもね』

 妖精魔法で植生を急成長させる。

水堀と外壁、そして急成長させた植生があれば火災から王都は守れる。

大樹海大樹海、おお愉快。

ハッピーが大喜び。

『パー、任せて任せて。

食虫植物を増やしてやっぺー』


 アリスはやる気満々のハッピーに別の指示をした。

『ハッピーには跳ね橋を頼みたいの。

あれが壊れると困るのよ』

 ハッピーが応じた。

『ピー、そうか、地竜だッペー』

『そう、そうよ。

体重のある連中がそろそろご到着よ。

だから跳ね橋がどこまで耐えられるか分からないの。

水の流れを狭めても構わないから徹底して強化して。

百年とは言わないわ。

千年でも万年でも持つ様にして』

『プップー、無茶苦茶な注文だっぺー。

ほんでも任せて、任せて、やっぺーよ』


 植生の急成長と聞いて妖精達は大喜び。

破壊より物作り。

これは妖精やダンジョンスライムにとっては習い性のようなもの。

即座に散開し、競う様に公園や庭園を見つけては降下して行く。

 仲間達の様子をアリスは指を咥えて見ているだけ。

それは指揮官としては当然のこと。

状況の推移を見て必要とあらば適時に修正の指示を出す。

それが指揮官の役割。

アリスとしても理解していた、が、深く長い溜息。


 ドスドスと地響き。

恐れていた地竜の群れが来た。

ワイバーンの種から枝分かれした魔物だ。

翼がないだけで、攻撃力はワイバーンにも匹敵する。

早い話、大型トラック。

 それが跳ね橋の耐久性を考慮せず、火災から王都に逃れようと、

必死こいて跳ね橋を渡った。

その様子を、アリスは妖精魔法で鑑定した。

一頭目異状なし、二頭目異常なし、三頭目も異状なし。

結果、群れ十二頭が渡り終えた。

跳ね橋の耐久性に変化なし。

どこから来たのか、ハッピーがアリスの背後に回り込んでいた。

『ペッペー、大丈夫だっぺー』

『そのようね、感謝するわ。

ついでにもう一つ、頼まれてくれる』

『ポー、ぽっぽー』

『外郭に人間のエリアが必要だと思うの。

魔物が入れないエリアがね』


 ハッピーは暫く考えた。

けれど理解出来ない様子。

それはアリスが肝心の事を言わないのだから仕方がない。

『パー、分かんない』

 アリスは説明した。

『大樹海に育つまでの間、魔物達の食糧が不足すると思うの。

獣達も逃げ込んで来たけど、それでも初期は確実に不足よ。

そこで人間よ。

エリアで美味しい生餌として育って欲しいの。

どうかしらね』

 ハッピーが小躍りした。

『パー、アリス、頭良い。

やるやる、生餌のエリア作るっぺー』

 飛ぼうとするハッピーにアリスは注意した。

『作るのは外郭だけよ。

内郭には作らなくて良いからね。

エリアに貴い血とか青い血は必要ないからね』

『ピー、分かった、でもどうしてだっぺー』

『人間は青い血は持たないの。

青い血は水棲の生き物に多いの。

タコやイカがそうね。

それを食べると魔物でもお腹を壊すわ。

だから赤い血限定』


 アリスは王都の周辺を見回った。

間近に火災が迫っているので、避難民も魔物達も必死。

喰い争うのではなく、逃げ足を競う様にして駆けた。

我先に、我先に、我先に・・・。

足の遅い家族や仲間に背を向け、躊躇い一つなく駆けて行く。

送れたもの、疲れて倒れたもの、

それらが赤い炎に飲み込まれて行く。

 

 アリスは再び王都に入った。

全体を見回した。

仲間達が得意分野に集中した成果が見えた。

至る所で緑が増えていた。

公園や庭園の樹木や芝生が野生の様に伸びていた。

個人宅の生垣もそう。

縦に横に育っていた。

蔦に覆われた家屋も散見された。

一挙に十年ほどの成長ではなかろうか。

 あっ、池の鯉が跳ねた。

バッシャーン。

亀が迷惑そうに池の縁から顔を出した。

・・・、鯉も亀も成長が著しい。

2メートルに3メートル。

えっ、まあ、1メートルの蜻蛉や蝶は可愛いもの、目を瞑ろう。

んっ、・・・蜻蛉や蝶も食用になる感じがした。

羽根が目立つが、太い部分もあるのだ。

ここはこのままでは魔境になるのではなかろうか。


 アリスが呆れていると仲間達が次々に集まって来た。

『どうよどうよ、アリス。

私の傑作を見てくれた』

『いやいや、私の方こそ傑作よ』

『なら私のは芸術だわね』

 姦しい仲間達だ。

褒めるべきか否か、とっ、下で樹木が走り出した。

アリスは思わず尋ねた。

『誰よ、トレントを造ったのは』

 一人が手を上げた。

『拙かったかしら』

『驚いたのよ、よく造れたわね』

『へっへっへー、でしょう』


 最後にハッピーが来た。

『プー、エリアを作り上げたっぺー』

『魔物は侵入できないのね』

『ペー、当然だっぺー』

 ハッピーが皆をエリア上空に案内した。

王都外郭の四分の一近くが新たな土壁で囲われていた。

魔物の数が少ない所を選んだ様で、ハッピーにしては慧眼だ。

その少ない魔物の討伐に人種は躍起になっていた。

頑張ってくれ、そうアリスは願った。

妖精の一人がアリスに尋ねた。

『次は国軍の殲滅ね』

『そうなのよね、・・・。

でも、もういいかな』

『どうしたの』

 別の妖精が言う。

『国軍は、本国との連絡が途絶えれば、戻って来るしかない訳でしょう。

つまり、殲滅する意味がなくなった、そう言いたいのでしょう』

『『『そうか、そうよね』』』

 アリスも同意した。

『なのよね、次はどうしよう。

どこへ行こうかしらね』

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