(西部戦線は異状ばかり)8
この数の竜巻では正面突破は不可能。
下手すれば巻き込まれる。
エビスが壊れる事はないだろうが、搭乗している自分達が目を回す。
何日かは立ち直れないだろう。
アリスは決断した。
『退避よ、各個に【転移】を選択、方向は左斜め前方、宜しく』
それぞれが返事をし、行動に移した。
アリスは全員の退避を確認、最後に【転移】した。
取り敢えずは、それぞれの判断による【転移】なので、
距離は一定ではない。
でも、一応は視界の範囲内で収まっていた。
再び編隊を組んだ。
アリスが言う。
『転移の術式を施してくれたダンタルニャンに感謝ね。
草葉の陰の彼に賛辞を送るわ』
ハッピーが笑った。
『パー、まだ死んでねえっぺー』
『それはそれとして、コースを戻すわよ』
竜巻が九州方向へ向かうのを尻目に、
エビス飛行隊は本来のコースに戻った。
途中までは竜巻の痕跡が見えた。
砂漠が大きく深く抉られていたので、それと分かった。
しかしその痕跡も、二日か三日もすると砂に呑まれ消えているのだろう。
途次で竜巻の痕跡とは別れた。
オアシス都市国家を二つ、小さなオアシスを一つ過ぎた。
そして見つけた。
兵装ではないが、異様に長いキャラバン。
魔物・キャメルソンが牽く幌馬車が百輌余。
鑑定で、コラーソン王国軍と分かった。
キャラバンに扮しているとはいえ、余りにもあからさまな行動だが、
通過するオアシス国家には通告済みなのだろう。
ハッピーがアリスに尋ねた。
『ピー、潰すッペー』
『そうね』
すると妖精の一人が言う。
『待って、数が少ないわ。
これで九州に攻め込むのは無理よ。
一片の土地も得られないと思う。
だぶん・・・、これは偵察かな。
潰すのは何時でも出来るから先を急ぎましょう。
まずは派遣された兵力を探るのよ』
オアシスとオアシスを繋ぐシルクロードにそれらを見つけた。
こちらは兵装で、長い長い隊列を組んでいた。
五千、五千、五千、五千、五千。
渋滞せぬ様に気を配り、間隔を空けていた。
彼等は基本、城郭都市には入らず、水や糧食の提供を受けるのみで、
郊外にて野営した。
『いるわね』
『長い砂漠をご苦労様ね』
『どうする、潰す』
『まだまだよ、まだ数が少ないわ』
実際、これで終わりではなかった。
念の為に先へ飛ぶと、日にちを空けて隊列は続いていた。
五千、五千、五千、五千、五千と。
結局、隊列はコラーソン王国の国境まで続いていた。
最後尾を鑑定で確認した。
『プー、十五万だっぺ』
これなら確実に九州の一角を切り取れ、状況次第だが、
その橋頭保を長く維持できるだろう。
アリスが言う。
『それじゃ・・・、まず王都を滅ぼすわね』
『ペーーーー』
『ここまで来たんだもの、ついででしょう』
妖精の幾人かが驚きの声を上げた。
『『『ひえー、なんじゃそれー』』』
アリスが仲間達を見回した。
『問題があるのかしら』
『『『市民は武装してないのよ』』』
すると妖精の一人が笑った。
『何を言ってんの、アンタたち。
軍は国のただの手足よ。
理非善悪は考えず、命令に従うのみの大馬鹿集団よ。
その手足をもいでも、国力があれば何度でも再生できるの。
兵士を産み、武器を造り、兵站を満たす。
それが国という生き物よ』
話し合いの末、王都を滅ぼす事になった。
アリスが全員に再度確認した。
『国土が広いから国を滅ぼすのには時間が掛かるわ。
それは面倒臭い。
だから国そのものは滅ぼさない。
代わりに、王都を灰燼に帰す。
・・・。
まず、周囲を火の海にして魔物のスタンピードを引き起こす。
それを見届けてから王都を攻撃する。
いいわね、みんな』
コラーソン王国の最東端は砂漠に面しているが、
西へ進むにつれて緑地帯が広がっていた。
初めての地なので、ナビに王都の位置は表示されないが、
飛行隊は街道の上を余裕で飛んでいた。
王都へ続く道だと信じて疑わない。
全ての道は王都へ通ず。
幾つもの町や村を過ぎ、夜を徹して飛行した。
日の出前、連山の向こうに見つけた。
これまでとは違う大きな街。
遠目に鑑定した。
王都。
平地にて、深くて広い水堀と高い外壁に囲われていた。
アリスは飛行隊をより高々度に導き、王都を見下ろした。
平野のど真ん中にあり、近くの川の水を引き込んでいた。
外堀、外壁、街区、内堀、内壁、貴族街、王宮。
籠城されれば手古摺りそうな構えの城郭だ。
人口は五十万を数えても不思議ではない。
平野の周囲は山々と深い森が連なっていた。
魔物が巣くっていると断言できた。
アリスが指示した。
『さあ、やるわよ。
火で魔物を平野に追いやるのよ』
途端、飛行隊がばらけた。
それぞれが手前勝手に、王都の真上から全方位に散開した。
残ったのはアリスとハッピーのみ。
東の高山の真上でホバリングした妖精が、妖精魔法を起動した。
山頂をロックオン。
単純だが巨大な火玉・ファイアボールを放った。
大爆発。
山頂全体を深く抉り、火山爆発の様な噴煙噴石を飛ばした。
昇り始めた朝陽が、その様子を露わにした。
運が悪いのは、裾野の村の早起きした者達。
度肝を抜かれ、恐れおののいた。
妖精は矢継ぎ早にファイアボールを高山の至る所に放った。
その度に上がる爆音。
迷惑したのは夜なべを終え、これから巣に戻ろうとした魔物達もだろう。
否、迷惑どころではないか。
一瞬、身を固くし、死を覚悟した。
しかし、野生の勘。
次の瞬間には何の考えもなしに足を動かした。
現場から逃れようと必死になった。
闇雲に逃走した。




