(西部戦線は異状ばかり)6
アリスの拳発言に一人が反論した。
『人間の争いには関わらない、それがポリシーだったよね』
ハッピーも同意した。
『ピー、ピーピッピー、そうだそうだ』
アリスは平然と言い返した。
『それはそれ、これはこれ。
コップの中の争いは、勝手にやってろって話になるけど、
国外からの勢力となると、ちょっと違うのよ』
『ほうほう、どんなに』
『んー、許しもなく入って来るな、かな』
別の妖精が提案した。
『取り敢えず、探ってみようか』
キャメルソン傭兵団を探る事になった。
選ばれた妖精三人が機体後尾のカーゴドアから飛び出し、
機体を自分が持つ収納庫に格納した。
そして自らを妖精魔法で透明化し、降下した。
夕刻前だが、傭兵団は既に業務を終え、
てんでに自由時間を過ごしていた。
特に多いのは、魔物・キャメルソンの手当てをしている者達。
その光景は手酷い敗戦を物語っていた。
それでも士気は低くないようで、随所で笑顔が見られた。
勝利を疑っていないのだろう。
誰一人、妖精の侵入に気付かない。
その中を三人は悠々と行く。
目指すは情報の集まる所、指揮所の書類棚。
もし傭兵団が何処かの先兵であるとするなら、
何らかの手掛かりとなる書類が存在するはず。
あれば、アリスの言の如く、拳で解決する。
何も無ければ彼等は考えなしの傭兵団。
遥々、キャメルソンと戦う為に来たのだが、価値が半減、
相手する気が失せるというもの。
下に向かった一人が急いで戻って来た。
『アリス、手掛かりを探す手間が省けたわ。
指揮所に団長が一人で居たから、結界を張って捕獲したの。
尋問を任せて良いかしら』
アリスに尋問、・・・。
手間を省く以前に問題だろう。
結界もだが、団長は多忙な仕事、用事のある誰かが探しに来ないか。
『イエスって、言えんわ。
騒ぎになるんじゃないの』
『だからパパっとやって』
『私が尋問するのよね』
『そうよ、性格的にアリスかなあ』
その意味する所が分からない。
アリスはハッピーを思い出した。
アリスは里では村長に次ぐ術者。
けれど今回必要なのは術式。
だとするとハッピーだろう。
『ハッピー、アンタ、術式が刻めたわね』
唐突な質問にハッピーが面食らった。
『ペーペッペ~、・・・、できるけど』
『だったら付いて来なさい』
アリスはハッピーを伴った。
二人して機体を格納し、透明化、仲間に案内に従った。
向かった指揮所は騒がしかった。
「団長の姿がないだと」
「「「はい、見つかりません」」」
「とにかく全階の部屋を探せ」
「「「はい」」」
部下達が団長を探していた。
ところがスキルが下位なので、結界の存在には気付かない。
【神隠し、忌避】が付与されてるので尚更だ。
結界そのものが秘匿され、接近すら許されない。
そんな中、アリス達は結界に迎え入れられた。
一階と二階の境目に結界の入り口があった。
施された術式と相俟って、これでは余計に見つからない。
その中に一人の人間が囚われていた。
荒々しい空気を纏った大柄な体躯。
人を人とも思わぬ尊大な顔。
団長の地位にあるのが納得できた。
そんな彼が脱出しようと足掻いていた。
「出せー、出さねえと殺すぞ」
結界を破ろうと殴る蹴る。
しかし、どれも果たせない。
終いには結界に掴み掛る始末。
掴める訳がないのだが、・・・。
表情が次第に焦りの色に変じて行く。
アリスがハッピーに尋ねた。
『奴に【隷属】の術式を施せるか』
この場合は魔道具ではなく、身体に刻み付ける物だ。
『ポー、任せて任せてプー』
魔道具だろうが身体に刻み付けるだろうが、
施す術式はレベル・ランクによって効果が違う。
高位の者ほどそれは深く、持続する。
アリスは村長に次ぐ術者だが、経験が不足していた。
そう、術式に関しては、とても不足していた。
比べてハッピーはダンジョンスライムとして術式の経験に富んでいた。
この場では最適だろう。
任されたハッピーの行動は早かった。
団長の衣服を切り刻む。
上半身を露わにした。
刀傷、槍傷、攻撃魔法傷が多い。
それでも筋肉は失っていない。
戦士としての証の体躯、実に美しい。
「ギャー」
背中に術式を施された団長が悲鳴を上げて倒れた。
術式を施された事のないアリスでも分かった。
その痛みが。
身体に施されたくないな、これ。
ハッピーが尋問の準備に入った。
団長に矢継ぎ早の質問。
『パー、君の名前は』
『ピー、君の年齢は』
『プー、君の仕事は』
『ペー、傭兵団の本拠地は』
『ポー、この地には何故』
アリス達は団長に鑑定を掛け、ステータスを見た。
それで答え合わせ。
通り一辺倒の答えを得た。
が、それに納得していない。
探す、探す。
あっ、見つけた、見つけた。
団長のステータスに綻びを見つけた。
微かな文字の重なり、書き換えの痕跡。
これは偽装の証。
「名前、ルイス・ブラウン。
種別、人間。
年齢、四十七才。
性別、雄。
住所、コラーソン王国、王都在住。
職業、王国第三騎士団長。
ランク、B。
HP、145。
MP、110。
スキル、槍士☆☆☆☆、剣士☆☆☆、風魔法☆☆☆」
本当のステータスを読んだ。
思いがけぬ答え。
彼は砂漠の向こうの国の騎士団長だった。




