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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
339/373

(西部戦線は異状ばかり)1

 俺はカトリーヌの顔を二度見した。

彼女が言外に言わんとする事は分かった。

ぼったくり。

たが、敢えて尋ねない。

じゃがね、じゃがじゃが。

藪を突っついて蛇を出したくない。


「伯爵様、当官は兼任の仕事が増えて忙しくなります。

そこで、伯爵様専用の連絡役を置きます」

 カトリーヌが意外な事を言う。

俺専用の連絡役、・・・なのか。

彼女の背後から副官が前に進み出た。

「エリス野田中尉です」

 疑問顔の俺にカトリーヌが言葉を継ぎ足した。

「調整局の局長兼任を申し渡されたの。

だから急ぎの用がある時はこの野田中尉にね」

 近衛軍調整局は、近衛と国軍、宮廷、三者の調整を担う役職。

アルバート中川中将がその局長だったのだが、

テックス小早川侯爵の一件に加担したのが露見し、

密かに逮捕隔離された。

対外的には病気療養という名目で休職。

実際には【奴隷の首輪】を装着の上、近衛軍内で尋問を受けていた。

おそらく、自白の内容を確認、余罪を調べた後に病死させられるだろう。


 局長が中将だから、カトリーヌも直ぐに中将とは言わないまでも、

何れは中将に昇進か。 

しかし、部外者が大勢いる場所なので、この場で話題にすべきではない。

カトリーヌから視線を外し、エリスに視線を向けた。

顔馴染みだが、改めて挨拶した。

「野田中尉、宜しくお願いします」


     ☆


 アリスとハッピーのエビス飛行隊は西へ向かった。

ただ、真っ直ぐにではない。

途中、寄り道をした。

まず、縁のある妖精の里に立ち寄った。

石鎚大樹海の中にそれはあった。

アリスの里と、こちらの里の長同士が姉妹なので大歓迎された。

 次に鳥形山麓のダンジョンに立ち寄った。

ハッピーがダンジョンスライムなので、

こちらのダンマスが立ち入りを許可してくれた。

こちらは地上に展開された平地ダンジョンで、中々面白かった。

湿地帯と岩山半々のダンジョンで、様々な魔物が生息していた。

所謂、地域限定の魔物も見られた。

勿論、討伐して魔卵や有為な部位を切り取った。

 三つ目は足摺岬の先の先にある大海洋。

そこで海棲の魔物を探した。

エビスの機体の完全耐水を信頼しつつ、

妖精魔法のウォータシールドで機体を覆い、

万全を期して魔物に戦いを挑んだ。

当然、ここでも切り取りを忘れない。


 予定より随分遅くなったが、大海洋からでもそれは見えた。

噴煙を吐く桜島。

山容は関東の富士山に似ていた。

故に西の富士山と呼ばれていた。

そこが寄親伯爵の島津家が治める地だ。

薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島。

王弟の前公爵・バーナード今川が匿われている地でもあった。

 エビス飛行隊の目的はバーナード今川ではない。

砂漠を渡って来たキャメンソルの傭兵団だ。

駱駝の種から枝分かれした魔物・キャメンソルの討伐をせんと、

遥々国都より飛んで来た訳だ。

キャメンソル、別名、唾かける魔物。

それも臭い唾を。


 アリス達は高々度より桜島を眺めた。

それは錦江湾の真ん中にあり、薩摩半島と陸続きであった。

御岳が五つ、綺麗に並んでいた。

真ん中に一際高い中岳、それを囲む様に北岳、東岳、南岳、西岳。

その五岳は今も営業中、噴煙を上げながら、時折、小爆発を起こし、

噴石を飛ばしていた。

『危ない』

 妖精の一人が南岳のくしゃみの予兆を先取りした。

ハッピーが指示した。

『ウィンドシールド展開』

 現在のエビス飛行隊は新隊員が増えて十五機。

うち新顔の妖精は四人。

妖精搭乗の十四機が妖精魔法を起動した。

これまでの訓練の成果か、互いの邪魔はせず、

熟れた順次でウィンドシールドを周囲に張り巡らして行く。


 エビス自体は小さい。

魔物・コールビーを模し、ちょっとだけ大きくしただけ。

大雑把に言えば、大き目のラグビーボール。

頭部、胸部、腹部を合わせて全長が70センチ。

胴回りは50センチ。

これに羽根と足が付いていた。

 材質は竜の鱗とミスリルを混ぜたセラミック。

二対四枚羽根、三対六本足。

頭部にコクピット、後尾にカーゴドア。

動力源は二つ、ワイバーンのキングとクイーンの魔卵を錬金で精錬し、

仕上げた魔水晶。


 エビスの口の両端の牙から妖精魔法が放たれた。

妖精十四人が連携してウィンドシールド層で飛行隊全体を包む。

当然、これにハッピーは参加しない。

ダンジョンスライム魔法が阻害因子になる懸念を考慮した。

飛行隊長・アリスが口にした。

『来るわ、衝撃に備えて』

 

 噴火音の大津波がシールド十四層を揺らした。

機体が揺れた。

『『『キャー』』』

 ほんの少し遅れて噴石が当たった。

速度があるだけに厄介だ、

人の頭ほどの物が一つ、二つ、三つ。

 シールド一枚目が壊れた。

二枚目も壊れた。

三枚目も壊れた。

大海洋の深海でもこんな事はなかった。

大きな魚体の突撃には耐えたのだ。


 それでも妖精達は編隊を崩さない。

誰一人として諦めない。

アリスが檄を飛ばした。

『これくらいで私達は負けない。

最後まで踏ん張るわよ』

 冷静な妖精が指示した。

『壊れた者は内側に新たに張り直すのよ。

絶対に諦めちゃ駄目、自信を持ちなさい』 

 遅れて来た噴煙がシールドを包んだ。

アリスが言う。

『ハッピー、火山の兆候を鑑定して』

『高過ぎて鑑定は無理だよ。

でも、様子から、そろそろ収まるみたいだよ』


 収まって来た。

アリスが言う。

『私とハッピーで下に向かう』

 妖精の一人が尋ねた。

『危ないわよ』

『下の大樹海を調べるだけよ』

 富士山の大樹海も調べた。

棲むのに適した環境ではなかったが、

それでも活火山に耐性のある魔物は存在した。

例えばドラゴン、フェニックスの類。

火山の一角に堅固な巣を構え、悠々と過ごしていた。

 妖精も少しは耐性があったが、好き好んで棲む環境ではなかった。

暑いのは平気でも、熱過ぎるのは、・・・。

そこへ向かうと言う。

ハッピーが拒否した。

『僕はやだよ。

僕はか弱いスライムなんだ。

焼肉への道連れは止めてよ』

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