表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
336/373

(テニス元年)28

 俺の警告が受け入れられた。

室内で本棚を動かす作業が開始された。

ドアが開けられるのに時は要しない。

ドアが少し開けられ、その隙間からこの家の執事長が顔を覗かせた。

「これは何の真似ですか」

 怒っている色だが、仕事柄なのか、言葉は荒げない。

ダンカンが俺の前に出て対応した。

「こちらの伯爵に当家の伯爵様が召喚されたので、

この様な仕儀と相成りました。

出された召喚状の事はご存知ですよね」

 執事長が不思議そうな表情を浮かべ、ダンカンを見返した。

「召喚・・・、何の事ですかな」

「貴方に似た執事が、その召喚状を当家に届けに参りましたのですが」

 途端、執事長が後ろを振り向いた。

「ベレット、お前か」

 室内から答える声。

「父上、その召喚状は私が届けました」

「私は聞いていないぞ」

「伯爵様のご指示でした。

取り急ぎと申されましたので、その日のうちに届けました」


 執事長の顔色は見えないが、肩が落ちた様子から、落胆と窺えた。

それでも仕事への矜持からか、ゆっくりとこちらを振り返った。

「申し訳ございません。

伯爵と申されましたが、どちらの伯爵様ですか」

「貴方は事の経緯をご存知ない様子、お気の毒様です」

 ダンカンは身体を脇に寄せて、俺を紹介した。

「こちらが当家のダンタルニャン佐藤伯爵です。

学校へ通われるお歳ですが、美濃地方を任されております。

同格の寄親伯爵です。

その同格の伯爵への召喚状、実に許し難い。

よって、この様な仕儀と相成った次第です。

既に関係方面には通達済みです。

少々の騒ぎは理解して貰えると思っています」


 思案する執事長。

俺は率いて来た警護の兵士五名に命じた。

「当初の指示通りだ。

突入して敵戦力を削げ」

 待ち構えていた五名はウィリアムが特に選んだ者達、

聞き返しも二の足もない。

即座に行動を開始した。

執事長を押し退けて突入。

それからは早い。

まず、伯爵の護衛二名を問答無用で斬り捨てた。

続いて執事長を含めた三名の喉元に剣先を突き付け、拘束。

最後に伯爵を取り押さえ、【奴隷の首輪】を装着した。


 伯爵や執事達が抗議の声を上げる中、俺は室内に入った。

立派なソファーがあった。

早速、そこに腰を下ろした。

ダンカンはと見ると、伯爵の執務机に手を付けた。

卓上の書類を漁る。

それでも飽き足りないのか、引き出しの書類まで目を通す始末。

どうやら彼は仕事中毒らしい。

お気の毒様。

俺は後ろに控えたジューンに尋ねた。

「どう」

「どうと聞かれましても。

殿方は大変ですねとしか、・・・」


 目の前に引き出された伯爵は、盛大に抗議の声を上げた。

その姿は、【奴隷の首輪】を装着されているので実に滑稽、うこっけい。

俺は【奴隷の首輪】の主人役である兵士に命じた。

「犯罪者として躾てくれ」

 兵士がニヤリ。

この奴隷の首輪は、絞まるタイプ。

命令に従わぬとジワジワと絞まり、絶息寸前にまで追い込む仕様。

手違いで死んだら、それも仕様がない。

お気の毒様。


 【奴隷の首輪】の扱いに慣れた兵士を起用した。

「返事は二つだけ。

はい、いいえ、それ以外は認めない。

分かったか、分かったら返事しろ」

 伯爵は自分が置かれた状況が分からないらしい。

目を白黒させるだけで返事をしない。

すると首輪が反応した。

少し絞まった。

「うっ、これは」

「返事はどうした」

「くっ、はっはい」


 兵士が虚実硬軟を盛り込んだ質問を連発し、伯爵を追い込んで行く。

それを横目に、俺は屋敷の執事長を呼び寄せた。

「屋敷全体に触れ回れ、伯爵は無事だと。

騎士団が動かぬ限り、伯爵や家族の安全は保障する。

ただし、不審な動きをしたらその限りではない、そう伝えろ」

 執事長は即座に部屋から駆け出した。

まず三階に向かった。

伯爵の家族を説くのだろう。


「王妃様の悪口を言ってるそうだな」

「いいえ」

 これで何度目だろう。

首輪が限界まで絞まった。

「げっ、げえー」

 涎か嘔吐か判断が付かない。

お陰で口元喉元が悲惨な状況。

とても伯爵様が置かれる状況ではない。

それでも追い込みを続けさせた。

「義勇兵旅団の発起人の一人なんだろう」

「もう許して下さい」

 余計な発言で首輪が絞まった。

「明日は雨だな」

「許して下さい」

 涙を流しながら首輪を両手で掴んだ。

首輪が絞まるのを阻止しようと図るのは、これで何度目だろう。

一度も成功してないのに。

「やっ、止めぐぇっ」

 また吐いた。

胃は空になっていないようだ。

もう少し行けるかな。


 兵士が要所要所で、こちらが知りたい情報を吐かせた。

それである程度の目安は付いた。

この伯爵は、ただ単に横柄な奴。

こちらを目下の新参者と看做して難癖を付けた、それだけのこと。

何て人騒がせな。


 伯爵邸本館を占拠し、護衛二名を殺した。

傍目には、伯爵本人を甚振ったと映るだろう。

この落としどころが難しい。

んー、強気で押し通すか。


 カーテン越しに外を見ると、これが大騒ぎ。

玄関前で、敵騎士団と当家の兵が睨みあっているのだ。

近隣の屋敷が気付かぬ訳がない、

貴族を含めた野次馬が周囲に群れていた。


 奉行所や国軍も駆け付けていた。

野次馬を規制し、屋敷を包囲していた。

幸い、事前に関係各所に通告済みなので、

彼等が力押しで入って来る事態は避けられていた。

今の所はだ。

先は分からない。


 下から駆け上がって来る足音。

当家の兵士だ。

「近衛軍のカトリーヌ明石少佐が面会を求められております」

 近衛軍も出動して来た。

カトリーヌ殿なら信頼が置ける。

「奉行所や国軍は」

「包囲するのみで、目立った動きはありません」

「分かった。

少佐を通してくれ。

それとだ、国軍と奉行所の責任者が希望するなら、一緒に通してくれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ