(テニス元年)24
執事長・ダンカンとウィリアム佐々木は、陰供の頭から説明を受けると、
表情を曇らせて俺の方に来た。
ダンカンが開口一番、「伯爵様、お覚悟ください」と言う。
ウィリアムも同意の頷き。
二人共に根深い問題を認識していた。
それは俺の甘さだ。
仕方がないな。
ここいらで言葉にするか。
俺は覚悟を伝えた。
「爵位持ち五名の身柄は当家が預かる。
国都だと雑音が入るから、美濃に移送して取り調べてくれ。
義勇兵旅団問題が本当に原因なのか、それとも何か裏があるのか。
きちんと調べさせる。
扱いは爵位持ちではなく、犯罪者としてだ」
ウィリアムが笑顔で提案した。
「今日のうちに移送しますか」
「それがいいな」
「取り調べで死んだ場合は」
「仕方ない、魔物の餌にしてくれ」
「魔物は死体は喰いませんよ」
「そうか、だったら実家に塩漬けで送り帰してくれ」
ダンカンに尋ねられた。
「他の者達は」
「せっかくだから奉行所に持ち帰ってもらおう」
「宜しいので」
「こういう場合、お土産を持たせるのが礼儀だろう」
「承知しました」
「五名の屋敷には」
「収め方というか、法令を知らない。
悪いが調べてくれるか、後処理はそれからだ」
「承知しました」
俺は後始末をダンカンとウィリアムに任せ、
パーティメンバーやバーバラ達を連れて屋敷に戻った。
勿論、徒歩だ。
馬車は捕えた五名の護送に残した。
俺はバーバラに尋ねた。
「屋敷の者達を心配させたかな」
「それはもう。
全員が屋敷から飛び出そうとしました。
それを抑えるのか大変で、大変で・・・。
ですが、伯爵様の責任ではございません。
あの者達が悪いのです」
「そうか、心配かけた皆に差し入れでもするか。
今回は特別だ。
バーバラ、女性陣にはスイーツを、男性陣には酒を、
充分に振舞ってくれないか」
「ふっふっふ、伯爵様らしいですね。
出入りの商家に相談いたします。
近くですので、私がこれから出向きます。
・・・。
ドリス、貴女は伯爵様とご一緒に屋敷に戻りなさい。
ジューン、貴女は私の供をなさい」
屋敷の者達が総出で出迎えてくれた。
一番年嵩の庭師長・モーリスが全員を代表した。
「伯爵様、ご無事でようございました」
「心配かけたね」
「いいえいいえ、ご無事でなによりです」
作られていた出迎えの列を一人が崩すと、後は押し寄せるだけ。
弾ける笑顔が俺を包んだ。
新興も新興、歴史の欠片もない伯爵家だが、
皆の表情から、俺に対する想いがヒシヒシと伝わって来た。
皆の後ろにはエズラとゼンディヤーもいた。
実家から預かり、居候の形で魔法学園に通わせている二人だ。
時刻柄、この騒ぎに居合わせたのだろう。
俺が目顔で微笑むと、二人が嬉しそうに頷き返した。
パーティの女児達の本日の仕事は、王女・イヴ様のお相手だ。
後宮に出向き、日課を終えたイヴ様の遊び相手を務める。
この屋敷には彼女達の為の部屋があった。
所謂、衣裳部屋。
後宮訪問用、冒険者活動用、その他に武具も置かせていた。
着替え終えた女児達が執務室に入って来た。
俺はシェリルに手紙を差し出した。
「これをカトリーヌ明石少佐に手渡してくれる」
「今日の件よね」
「うん、取り敢えず第一報だね。
詳しくは後ほど書類にして提出する事になると思う」
「了解、イヴ様の耳には入れないよ」
「お子様の耳には相応しくない話だから、入れない方が良いね」
執務室の窓から女児達が当家の馬車で後宮へ向かうのを見送った。
執事兼従者のスチュアートがドアを開けて入って来た。
「伯爵様、紅茶が入りました」
デスクに置いてくれた。
これからが忙しいのだ。
各所に手紙を送らなくてはならない。
今日の件は確実に噂になって大きく広がる。
それに乗じて、悪意に満ちた噂も流される。
元々、俺に嫉妬している人間は多い。
陰で、王妃様お気に入りのお子様伯爵と叩く、
そんな輩が見逃す訳がない。
加えて、一面識もない人間が面白がって脚色し、流す。
それらを一々訂正しては回れない。
出来る事は、自分の身近な者達に手紙で真実を伝えるだけ。
俺は手紙を送る相手を数えた。
先ずは公人として、美濃地方を預けているカール細川子爵。
次に美濃地方の騎士団長・アドルフ宇佐美男爵。
木曽領を預けているマリオ。
木曽にて活動中の傭兵団『赤鬼』団長・アーノルド倉木。
同じく冒険者クラン『ウォリアー』団長・ピーター渡辺。
これらに私人として、国都のアルファ商会、岐阜のオメガ会館、
この二つの取締役達それぞれに。
そして、尾張の実家宛て。
さらには貴族で唯一の理解者、ポール細川子爵。
意外と少なかった。
紅茶を飲み、お茶菓子を摘まんだ。
ああ、美味い。
でも手書きか、手が疲れそう。
それを読み取ったのか、スチュアートが言う。
「文官達らに手伝って貰いますか」
そういえば、執事長の下に幾人かの文官がいた。
主な仕事は伯爵家の公的な会計業務と、
伯爵個人の会計業務・・・だったな。
「字は・・・綺麗かな」
「書記スキル持ちが二名います」
「頼むか」
最初に戻って来たのは馬車と、それを守る陰供の者達だった。
おやっ・・・、捕えていた五名が・・・。
馬車で護送するとは聞いていた。
てっきり馬車に収容するものとばかり、・・・。
が、こんな形とは。
五名は馬車の後ろに、ロープで数珠つなぎ。
しかも、靴を脱がされていた。
そのせいで足は血塗れ、顔は汗というか、鼻水と涙。
全員が悲惨を通り過ぎた表情をしていた。
駐車場に馬車が止まると、五名がドッと倒れた。
衣服が破れているのは、転んだまま引き摺られたのか。
俺は玄関から駐車場へ歩いた。
馭者が俺に説明した。
「街中を引廻したので遅くなりました」
私的制裁で、市中引廻しの刑か。
「よく死ななかったね」
「はい、尋問があるので、殺さぬ様に気を付けました」
俺は五名を見下ろした。
すると、一人が俺に向けて唾を吐いた。
血混じりだ。
力がないのか、俺には届かない。
これに慌てたのが馭者。
「この野郎」
思い切り蹴り付けた。
俺は注意した。
「殺さない様に」




