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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
330/373

(テニス元年)22

 俺は何時ものメンバーと一緒に下校した。

屋敷に戻り、着替えてから冒険者活動をする予定でいた。

とっ、突然、横丁から出て来た馬車の車列に前を塞がれた。

計五輌、貴族の紋章が入っていた。

何れも違う紋章。

俺は自慢ではないが、全ての紋章を知っている訳ではない。

知るつもりも、暇もない。

 停車すると馬車から男達が降りて来た。

各車輌より二名、計十名。

騎士風の装いで、全員の剣帯には長剣。

抜きはしないが、片手を柄頭に添えていた。

そんな彼等の視線が俺を捉えた。

目色から目的が俺だと分かった。

理由は知らないが、俺だ。


 俺の周りにはパーティのメンバーのみ。

一人は成人しているが、他の四人は女児。

成人していたボニーは守役なので武装していたが、

生憎、俺や女児達は学校帰りなので武器は所持していない。

でも、怖いとは思わない。

魔物討伐の経験が豊富なので、それなりに戦えた。

女児達がだ。


 俺は即座に身体強化した。

「殺すなよ」

 誰何よりも、後の先。

メンバーに注意して、先頭の男の懐に飛び込んだ。

剣を抜く暇を与えない。

諸手突き。

 身長差があるので、イメージは、右拳で相手の胸元を山突き、

左掌底で相手の股間を圧し潰す。

身体強化したので威力だけでなく速さもあった。

相手は対処できない。

胸元を砕き、股間の一物をグチャッ。

相手はその場にドッと崩れた。


 俺は相手の咽喉を潰し、長剣を奪った。

その長剣で二人目の右足に斬り付けた。

グッド。

深手を負わせた。

ついでに足払い。

慌てて剣を抜く仕草の三人目、その手首を斬り落とした。

これまた足払い。


 俺は余裕で後ろを振り返った。

キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニーの五人は、

短い魔法杖を取り出し、構えていた。

五人は探知魔法を活用していたら、もう一つ生えて来た。

それぞれ違うスキルだが、それを敢えてここで使うとは、恐るべし。

 真っ先にキャロルが水魔法、ウォーターボール・水玉を放った。

遅れ時とマーリンが土魔法、アースボール・土玉を放った。

モニカは火魔法、ファイアボール・火玉を放った。

シェリルは風魔法、ウィンドボール・風玉を放った。

ボニーは光魔法、ライトボール・光玉を放った。

 少ないMPで、ちょろっとの攻撃魔法なのだが、

それを正確に命中させるのだからご立派。

威力がちょろっとでも、当たった箇所は顔面。

無事に済む訳がない。

当てられた五名は悲鳴を上げて、その場で膝から崩れた。


 残りは二名。

動きかけた俺を五つの影が抜き去った。

「伯爵様、我等にお任せを」

 うちの陰供だ。

何れも長剣を抜いていた。

俺は慌てて声を掛けた。

「殺すな。

尋問せねばならない」

「「了解」」

 即座に二名を無力化。

それぞれの手足を斬り落として路上に転がした。

陰供の組頭が俺を見返した。

指示待ち。

俺は即断。

「馬車の中の連中を捕えろ。

貴族でも容赦するな。

殺さなければ問題ない」


 陰供五名に躊躇いの色はない。

「「了解」」

 先頭の馬車から制圧して行く。

まず馭者を問答無用で叩き落した。

続いてドアを開けて中に突入。

執事らしき者を蹴り落とす。

更には貴族らしき者をも蹴り落とす。


 抵抗を試みる者もいた。

「下賤の者が何をする」

「貴族用の馬車だぞ」

「子爵様がお乗りだぞ」

「男爵様だと承知の上か」

「後で処罰するぞ」

 それでもうちの者達は怯まない。

問答にも応じない。 

黙って作業を熟して行く。

全員を路上に転がしてから俺を見た。

次の指示待ちだ。

俺は応じた。

誉めてやろう。

「皆、良くやってくれた。

後は見張りを頼む」


 路上には面白い装いの者達が転がっていた。

まず、長剣持ちの、騎士風の男達が十名。

彼等は全員が負傷していた。

無傷の者は一人もいない。

 そして、どこから見ても馭者が五名。

彼等は無駄な抵抗も口答えもしない。

ジッとしていた。

状況が分かっていて感心、感心。 

 執事らしき者達は大いに口答え。

責める、喚く、怒鳴る、これが本心からかどうかは知らない。

たぶん、主人の目の前だからだろうとは思うが、・・・。

ご苦労様、本当にご苦労様。

 肝心の貴族五名は戸惑いの色。

状況がよく飲み込めていないのだろう。 

そんな中、一名だけが、ようようの事で口を開いた。

それもお怒り語調。

「何のつもりだ」


 俺は相手をジッと見た。

「それはこちらの台詞だ。

何のつもりで俺を襲おうとした」

 相手の目が泳いだ。

「襲ったなどと。

談合しようとしただけだ」

 それに残り四名が、慌てた様に同意の仕草。

首を二度三度、縦にし、是認した。

俺は周りを見回した。

ここは公道。

行き交う者が多い。

街の者や、買い物客、遠来の客。

中には同じ学校の生徒も紛れていた。

見知りの貴族の送迎馬車も足止めを喰らっていた。

明日には、彼等からの無責任な見物談が流れるのだろう。

なんてこったい。


 俺は貴族五名から舐められていると実感した。

本気で談合しようとすれば、面会の問い合わせから始めるのがマナー。

なのに、此奴等は長剣の柄頭に手を添えた者達を先に送り出して来た。

ああっ、先の貴族二家と商家三家の件と似た様な状況だ。

俺がお子様伯爵だからか、・・・。


 俺の後ろに仲間達が集まった。

代表してか、シェリルが囁いた。

「ダン、優しい気持ちも大切だけど、相手によりけりね」

 ボニーが付け加えた。

「ここは毅然としましょう。

目の前の馬鹿共に付ける薬は、拳しかありません」

 その言葉に女児達が頷いた。 

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