(テニス元年)22
俺は何時ものメンバーと一緒に下校した。
屋敷に戻り、着替えてから冒険者活動をする予定でいた。
とっ、突然、横丁から出て来た馬車の車列に前を塞がれた。
計五輌、貴族の紋章が入っていた。
何れも違う紋章。
俺は自慢ではないが、全ての紋章を知っている訳ではない。
知るつもりも、暇もない。
停車すると馬車から男達が降りて来た。
各車輌より二名、計十名。
騎士風の装いで、全員の剣帯には長剣。
抜きはしないが、片手を柄頭に添えていた。
そんな彼等の視線が俺を捉えた。
目色から目的が俺だと分かった。
理由は知らないが、俺だ。
俺の周りにはパーティのメンバーのみ。
一人は成人しているが、他の四人は女児。
成人していたボニーは守役なので武装していたが、
生憎、俺や女児達は学校帰りなので武器は所持していない。
でも、怖いとは思わない。
魔物討伐の経験が豊富なので、それなりに戦えた。
女児達がだ。
俺は即座に身体強化した。
「殺すなよ」
誰何よりも、後の先。
メンバーに注意して、先頭の男の懐に飛び込んだ。
剣を抜く暇を与えない。
諸手突き。
身長差があるので、イメージは、右拳で相手の胸元を山突き、
左掌底で相手の股間を圧し潰す。
身体強化したので威力だけでなく速さもあった。
相手は対処できない。
胸元を砕き、股間の一物をグチャッ。
相手はその場にドッと崩れた。
俺は相手の咽喉を潰し、長剣を奪った。
その長剣で二人目の右足に斬り付けた。
グッド。
深手を負わせた。
ついでに足払い。
慌てて剣を抜く仕草の三人目、その手首を斬り落とした。
これまた足払い。
俺は余裕で後ろを振り返った。
キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニーの五人は、
短い魔法杖を取り出し、構えていた。
五人は探知魔法を活用していたら、もう一つ生えて来た。
それぞれ違うスキルだが、それを敢えてここで使うとは、恐るべし。
真っ先にキャロルが水魔法、ウォーターボール・水玉を放った。
遅れ時とマーリンが土魔法、アースボール・土玉を放った。
モニカは火魔法、ファイアボール・火玉を放った。
シェリルは風魔法、ウィンドボール・風玉を放った。
ボニーは光魔法、ライトボール・光玉を放った。
少ないMPで、ちょろっとの攻撃魔法なのだが、
それを正確に命中させるのだからご立派。
威力がちょろっとでも、当たった箇所は顔面。
無事に済む訳がない。
当てられた五名は悲鳴を上げて、その場で膝から崩れた。
残りは二名。
動きかけた俺を五つの影が抜き去った。
「伯爵様、我等にお任せを」
うちの陰供だ。
何れも長剣を抜いていた。
俺は慌てて声を掛けた。
「殺すな。
尋問せねばならない」
「「了解」」
即座に二名を無力化。
それぞれの手足を斬り落として路上に転がした。
陰供の組頭が俺を見返した。
指示待ち。
俺は即断。
「馬車の中の連中を捕えろ。
貴族でも容赦するな。
殺さなければ問題ない」
陰供五名に躊躇いの色はない。
「「了解」」
先頭の馬車から制圧して行く。
まず馭者を問答無用で叩き落した。
続いてドアを開けて中に突入。
執事らしき者を蹴り落とす。
更には貴族らしき者をも蹴り落とす。
抵抗を試みる者もいた。
「下賤の者が何をする」
「貴族用の馬車だぞ」
「子爵様がお乗りだぞ」
「男爵様だと承知の上か」
「後で処罰するぞ」
それでもうちの者達は怯まない。
問答にも応じない。
黙って作業を熟して行く。
全員を路上に転がしてから俺を見た。
次の指示待ちだ。
俺は応じた。
誉めてやろう。
「皆、良くやってくれた。
後は見張りを頼む」
路上には面白い装いの者達が転がっていた。
まず、長剣持ちの、騎士風の男達が十名。
彼等は全員が負傷していた。
無傷の者は一人もいない。
そして、どこから見ても馭者が五名。
彼等は無駄な抵抗も口答えもしない。
ジッとしていた。
状況が分かっていて感心、感心。
執事らしき者達は大いに口答え。
責める、喚く、怒鳴る、これが本心からかどうかは知らない。
たぶん、主人の目の前だからだろうとは思うが、・・・。
ご苦労様、本当にご苦労様。
肝心の貴族五名は戸惑いの色。
状況がよく飲み込めていないのだろう。
そんな中、一名だけが、ようようの事で口を開いた。
それもお怒り語調。
「何のつもりだ」
俺は相手をジッと見た。
「それはこちらの台詞だ。
何のつもりで俺を襲おうとした」
相手の目が泳いだ。
「襲ったなどと。
談合しようとしただけだ」
それに残り四名が、慌てた様に同意の仕草。
首を二度三度、縦にし、是認した。
俺は周りを見回した。
ここは公道。
行き交う者が多い。
街の者や、買い物客、遠来の客。
中には同じ学校の生徒も紛れていた。
見知りの貴族の送迎馬車も足止めを喰らっていた。
明日には、彼等からの無責任な見物談が流れるのだろう。
なんてこったい。
俺は貴族五名から舐められていると実感した。
本気で談合しようとすれば、面会の問い合わせから始めるのがマナー。
なのに、此奴等は長剣の柄頭に手を添えた者達を先に送り出して来た。
ああっ、先の貴族二家と商家三家の件と似た様な状況だ。
俺がお子様伯爵だからか、・・・。
俺の後ろに仲間達が集まった。
代表してか、シェリルが囁いた。
「ダン、優しい気持ちも大切だけど、相手によりけりね」
ボニーが付け加えた。
「ここは毅然としましょう。
目の前の馬鹿共に付ける薬は、拳しかありません」
その言葉に女児達が頷いた。




