表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
33/373

(三河大湿原)12

 ジャニスやエイミー達に見送られて、

戸倉村のキャラバン隊は帰路についた。

その際に俺はジャニスと視線が絡まった。

言葉は交わさないが思わず背中が強張ってしまった。

精神年齢は俺の方が高いはずなのに、このプレッシャー。

距離を空けて、ようやく開放された気分になったのか、

口から溜め息が漏れていた、

父に笑われた。

「ジャニス様に惚れてしまったか」

「何を言うんですか」

「綺麗だし、可愛いし、惚れるのも無理はない」

「相手は領主のお嬢さまです。失礼ですよ」

 馭者席の隣で父が姿勢を正した。

「子供は細かいことは気にするな。

好きなものは好き。嫌いな物は嫌い。それで良いんだ。

ただし、食い物の好き嫌いだけは駄目だがな」


 村に戻るだけだが父は一行を急がせない。

度々、横道を見つけると、そこへキャラバンを進めた。

どこも途中で藪で行き止まりになっていたが、その度に父は説明した。

「昔はこの先にも村があった」

 旧東海道沿いは村や町で賑わっていたそうだが、

今はその面影もない。

人が住んでいたと覚しき人家跡は散見できるのだが、

多くは藪に覆われていた。

「今は誰も住んでいませんね。

街道が途絶えたのを機に、みんな引っ越したのですか」

「いや、みんな喰い殺されてしまった。

三河大湿原に現れたのはミカワワニやミカワサイだけじゃない。

狼に似た獣の群れもいたそうだ。

其奴等が群で街道沿いの村や町を襲った。

それで多くの者が喰い殺された」

「えー、それでは生き残ったのは戸倉村だけですか」

「違う。

その頃に戸倉村はなかった。

・・・。

大湿原に接する一帯から村や町が次々に消えたので、

慌てた尾張の領主が新たな開拓者を募集した。

それに応じたのが我が佐藤家だ」


 藤氏王朝の崩壊に佐藤家も巻き込まれた。

源氏や平家を相手取って最前線で戦い、

多くの郎党を失って領地の維持ができなくなった。

近畿の播磨地方を治めていたのだが、

寄親の凋落を知ると寄子の貴族達が反乱を起こした。

隣接する地方の貴族達も加わって攻め寄せて来た。

多勢に無勢。

佐藤家は播磨の領地を見切って一族郎党で流浪することを選んだ。

そこに三河大湿原の出現による混乱。

幸い尾張の領主が快く受け入れてくれた。

 郎党の数は減らしたが佐藤一族は弓馬の家。

戦場暮らしには慣れていて狼なんぞには臆しなかった。

領主は喜んで佐藤家に三河大湿原までの一帯を与えてくれた。

その領主一家は今はない。

平家に肩入れし過ぎて、足利王朝が成立する過程で自滅したのだ。


 父から説明を受けていると、俺の脳内で警報音。

癒しのオルゴール。

脳内モニターに文字が走った。

「小型の魔物八匹と大型の一頭を発見。急接近中」

 茶色の点滅、九つ。

動きが速い。

こちらを狙っているのだろう。

鑑定スキル。

「一頭はヒヒラカーン。Cクラスの魔物。

八匹はモモンキー。Dクラスの魔物」

 両者とも猿の種から枝分かれした魔物だ。

特徴はヒヒラカーンがブレスを吐くこと。

モモンキーは長い手で棍棒を振り回すこと。

ともに俊敏で、知能があり、相手するには煩わしい相手だ。

今回はヒヒラカーンが群を率いているので余計に厄介だ。


 俺はみんなに分かるように来る方向を指し示した。

「魔物の群が来るよ」

 獣人が応じた。

「確かに魔物の群です」

 大人達は一人も慌てない。

手早くキャラバンの前に盾を並べて配置についた。

 俺は昨夜、虚空から取り出して置いた短弓を手にした。

隣にケイトが来た。

「今回も先に気付かれたわね。

でも弓では負けないわ」

 魔物の群が音も立てずに木立から飛び出して来た。

普通であれば群の急襲は成功していただろう。

生憎、俺がいた。

いやいや、探知スキルや鑑定スキルのお陰なんだが。

事前に対応できた。

 ヒヒラカーンが左に回り込もうとしているのが分かった。

側面からブレス攻撃するつもりなんだろう。

正面から来るモモンキーはみんなに任せ、

俺はヒヒラカーン迎撃に専念した。


 父が命令した。

「弓、放て」 

 隣でケイトの短弓が鳴った。

大人の弓役達も一斉に矢を射た。

矢を抜けて突進して来るモモンキーを盾役の者が押し留めた。

モモンキーが執拗に棍棒を振り回した。

盾を殴りつけ、駄目なら根性で跳び越えようとした。

それを槍役が許す訳がない。

容赦なく、はたき落とした。

 カールが声を上げた。

「この調子だ。けっして盾から前には出るな」

 ケイトが俺の様子に気付いた。

「どうしたの」手を止めて俺を振り向いた。

 ヒヒラカーンが側面に姿を現し、仁王立ちになった。

口を大きく開け、息を吸い込む。

ブレス攻撃の前段階。

それを俺は待っていた。

狙うは大きく開けた口内。

EPから2を付加して立て続けに矢を射た。

 矢が光の速さでヒヒラカーンの口に吸い込まれて行く。

合わせて三本。

唇を裂き、歯を砕き、口の奥に突き刺さった。

ブレスは来ない。

 俺は誘惑に駆られた。

短弓を足下に置いて腰の短剣を抜いた。

EPから2を付加して短距離選手をイメージしてダッシュ。

一気に距離を詰め、兎をイメージして跳躍。

ピョーン。

腕力にEPから2を付加した。

2メートル近い高さのヒヒラカーンの首に斬り付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「言葉は交わさないが思わず背中が強張ってしまった。精神年齢は俺の方が高いはずなのに、このプレッシャー」 長生きはして老衰で亡くなったようですが、50歳も下の者と結婚するなど、精神年齢は培わ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ