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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
326/373

(テニス元年)18

 しでかして頭を抱えた。

ここまでやるつもりはなかった。

調子に乗ったとはいえ、これはない。

でももう止められない。

 

 水の巨大な塊が空気を切り裂いて落下した。

魔力を馴染ませたので、早々には崩れない。

それが本館の屋根を直撃した。

この世のものとは思えない衝撃音。

屋根が真っ二つに割れた。

ついでに床も真っ二つにした。

ようやく水塊が崩れ、周辺に飛び散った。


 ああー、やっちまった。

反省、反省。

俺は逃げる事にした。

転移で自邸に戻った。

着替えてベッドに入った。

「明日は良い日でありますように」

 そう願って目を閉じた。


「昨夜、日付が変わる頃でしょうか、ラファエル松永侯爵家が、

局所的な大災害に見舞われました」

 モーニングブリーフィングで、執事のダンカンがそう言う。

俺は惚けた。

「はあ、局所的な大災害ってなに」

「雷鳴と共に滝の様な雨が降って、

お屋敷の一部を破損させたそうです」

「破損・・・、想像が付かないんだけど」

「それは私もです。

当家の門衛が早朝、奉行所の夜回りよりそれを仕入れました。

そこで上番長が、手の空いた者を現地に走らせたそうです。

・・・。

見て来た者が、遠目にですが、

侯爵家の本館の上層階が壊れているのを確認しました。

侯爵様ご本人については分かっていませんが、

神社や教会からの治癒魔法使いが多数、出入りしています。

勿論、派閥の三好家や、他の家々からもです。

様子から、かなりの被害が出ている模様です」


 運ばれて来たモーニングプレートに手を伸ばした。

ニラ入りのスクランブルエッグをスプーンで一口。

ん、幸せな朝だ。

「引き続き情報収集に務めて。

特に侯爵本人の安否だね。

評定衆の一人だから、政策への影響が大きい」

「承知しました」

 南瓜スープも美味しい。

「あ、それとペミョン・デサリ金融はどうなった」

 宮廷の定めた法定金利上限を上回る金利で、

多数の貴族に秘密裏に貸し出していた一件だ。

「奉行所が手入れを行い、証拠保全の名目で、

会社そのものを差し押さえました。

同時に商会長を含む複数人の身柄をも確保しました。

これで事態の解明が進むと思います」

 カリカリのベーコン。

おー、良い具合にカリカリだ。


 当家に仇なす者が二日連続して窮地に陥った。

当家の関係者はこれを偶然と考えるか否か。

当家には裏で働く部隊が存在しない。

だから答えは一つ、偶然と考えるしかない、だよね。

念の為に、そう誘導してもオーケイベイビ~♪。

 サンチョとクラークの存在があったか。

二人は俺の正体は知らない。

知っているのは、この二件を含む計五件の情報を入手したこと。

そこから俺に辿り着けるか否か。

否だろうな。

二人は裏社会が長い。

好奇心は猫を殺す、それを自覚していると思う。


 ちょっと間隔を空けるか。

三日連続しての深夜労働は子供の身体に悪い。

お肌にも悪い。

それに、調べに当たる奉行所の面々には、もっと悪い。


 執務室から自室に戻ると、それまでジッとしていたアリスが問うて来た。

『何やら面白い事をしてるみたいね』

『パー、パぁっとやっちゃろ』

 二人して久し振りに顔を出したらコレだ。

この件には噛ませたくない。

噛ませたら、確実に大荒れになる。

『どうしたんだ、暇なのか』

『皆が腕を上げたから、何かないかなと思ったのよ』

『ピー、暴れたいっペ』

『ドラゴンだけは止めてくれよ』

 神龍も邪龍も見極めが付かないアリスなら、

ドラゴン種を一目見た瞬間に挑む未来が思い描ける。

早い話、アリスは負けてから相手の力を理解するタイプ。

だから、声を大にして、念押しした。

『ぜっ・た・い・や・め・ろ・よ』

『わっ、わ分かってるわよ』

『ポー、ボクが見てるっペよ』

 アリスがハッピーに蹴りを入れた。

ハッピーが悲鳴を上げて天井に頭をぶつけてた。

それを無視して、俺は提案した。

『東の反乱の次は、西でどうだい。

あちらには二つの反乱があって面白いと思うよ』

『そうか、西か』

『プー、西だ西だっぺ』

『砂漠の向こうからキャメンソルの傭兵団を雇ったって話だよ』


 駱駝の種から枝分かれした魔物・キャメンソル。

俺は顔が綻ぶのが禁じ得なかった。

偶然だとはいえ、これも昨夜のアピス同様に唾を吐く、

所謂、唾かける魔物なのだ。

臭い唾を・・・。

アリスが俺の表情に気付いたらしい。

『何か変な事を考えていない』

『いやいや、キャメンソルを見た事がないから、姿を想像してたんだ』

 そう、想像してた。

小さな妖精の体力だと唾の威力に対処できない。

バリアーを張っても、最悪、それごと弾き飛ばされる。

そしてバリアーを解くと、付着した唾を全身に浴びる。

ああ、悶絶する姿が・・・。


 ハッピーが俺を繁々と見てから言う。

『ペー、邪悪邪悪、マスター邪悪』

 アリスが思い出した様に言う。

『ダン、ダンジョンスライム達がエビスの製造に成功したからね』

『ポー、吉報吉報だっちゃ』

 ダンジョンスライムは、そもそもはダンジョンマスターの配下。

つまり、俺の配下。

彼等がダンジョン内にて製造から召喚、清掃まで担っているので、

彼等無くしてダンジョンの考えられない。

 エビスは、アリス達の愛機のこと。

魔物・コールビーを模した飛行体だ。

これまでは俺にしか造れなかったが、

それがダンジョンスライムにも可能になった。

実に素敵なお知らせだ。

これで俺が強請られる事はない、たぶん。


 アリスが、喜ぶ俺に言う。

『偶にはダンジョンに顔を見せなさい。

スライム達に顔を忘れられるわよ』

 お前は、おかんか。

『アリスがダンマスの次席だから、それで事足りるんじゃないの』

『本当、アンタは馬鹿ね。

スライム達はアンタが好きなのよ』

 そこまでストレートに言われると頷くしかない。

『分かった、今晩行くよ』

『山城だけじゃなく木曽もよ』

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