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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
322/373

(テニス元年)14

 俺は部屋の四隅の一角へ移動した。

ここなら背中を取られない。

はあ、漫画の読み過ぎだって・・・。

でも、そこは譲れない。

光学迷彩を解いて、サンチョに声を掛けた。

「は~い、サンチョ」

 全員の視線を集めた。

前もって幹部クラスの三名にも説明済みのようだ。

無駄が省けて結構、毛だらけ猫灰だらけ。


 サンチョが嬉しそうな顔をした。

「待ってましたよ」

 クラークは通常運転、サンチョに任せて自分は素知らぬ顔。

テーブルのグラスに手を伸ばした。

一方の、幹部クラス三名は俺を値踏みする目色。

感じが悪いが、無視して置こう。

 サンチョが話を進めた。

手元の書類を持って俺の方へ歩いて来た。

「これです」

 俺は受け取って一読した。

侯爵一人、伯爵一人、商会の商会長が二人、金貸しが一人。

それぞれの居住地、仕事上の拠点、口座、倉庫、家族、側近、

現在進行中の仕事内容等々からライバルの氏名まで、至れり尽くせり。

勿論、アルファ商会の件も含まれていた。

悪事ばかりが網羅されていた。


 俺はサンチョに金貨を詰めた小袋を手渡した。

「人材が集まった様だな」

 サンチョがニコニコと小袋を押し抱いた。

「お陰様で。

ところで、これとは別にお願いがあるのですが」

「表の連中かい」

「話が早くて助かります」

「あれが最近、伸して来た若造達かい」

「はい、あの連中の排除をお願い出来ませんか」

「それは簡単だが、お前達の面子がかかってる。

自分達で潰した方が今後の為になるんじゃないのか」

「それはそうなんですが、奉行所の目があります。

派手に動くと、ここに目が付けられます」

「クラークにバックアップを四名ほど付ければ、

内密に対処できそうだがな」

「そうなんですが、そこを何とかお願いします」

「残業になるが、特別サービスだ」


 話を終えた俺にクラークが尋ねた。

「そのお面は何だ」

「何だとは」

「笑いを取りたいのか」

 お多福仮面がお気に召さないらしい。

「アートを理解できないみたいだな。

偶には美術館巡りをお勧めするよ」

「けっ・・・」


 俺は屋根に転移した。

取り囲む連中を詳細に鑑定した。

若造ばかりではなかった。

軍門に下った大手ファミリーの三下もちらほら。

それでスラム生活の難しさが理解できた。

 手強そうなのはボスを含む六名のみ。

残りは粗暴さが売りの者ばかり。

それらはご立派な武器を手にしていた。

言い換えれば、彼等はそれに依存しているだけ。


 俺は闇魔法を起動した。

六名の右腕をロックオンした。

闇刃・ダークカッターを放った。

GoGo。

 闇魔法初心者が手初めて覚える攻撃魔法の一つ。

ただ使用者が俺。

破壊力は他とは比べ物にならない。

それでも余計な詮索しない筈だ。

被害者が、どうという事のない連中だから。

 

 攻撃魔法が予期せぬ角度から放たれた訳だが、

標的の一人にも魔法使いがいた。

スキルは風魔法中級。

だが、気付かぬ。

彼を含めて六名が右腕を失った。

 包囲した各所で騒ぎになった。

悲鳴と怒号が上がった。

そして攻撃した者を探し回る喧騒。


 奉行所の手先達も騒ぎに気付いた。

二手に別れた。

少数が捕り手方を呼びに走り、残りは近い現場に駆け付けた。

居合わせた連中を検挙し、犯罪現場の証拠保存を図った。

当然、被害者に目をくれる訳はない。

血止め一つせずに、現場にほったらかし。


 俺は重力魔法に風魔法を重ね掛けした。

推進力を得て飛行した。

目的地は近くに居住するペミョン・デサリ金融の商会長・ペミョン。

 サンチョの資料によると、奴は外郭東区画に屋敷を持っていた。

そこへ向かった。

深夜飛行になるが問題はない。

地図機能をオンし、脳内モニターの一つに国都マップを映した。

ナビ開始。


 夜烏に遭遇した。

正確には魔物なので魔鴉。

翼を広げると最長で2メートル。

小賢しいので弱者しか襲わない。

それが一羽、二羽、三羽、・・・計十三羽。

 群れなして来たが、俺に気付いた。

強者と即断したらしい。

直ぐに群れを左右に割り、俺を迂回した。

面倒事が嫌いらしい。

「「「ガガー、ガガー」」」

 抗議の声を上げて、飛び去った。


 ペミョン邸の上空に達した。

此奴も小賢しい質らしい。

屋敷の間口は狭いが、奥は深い。

これは彼だけではなかった。

近辺にはそんな屋敷が多かった。

さしずめ、この辺りの富裕層は、庶民として見られたいのだろう。

 何時までも深夜労働をしていられない。

育ち盛りなので早くベットに入りたいのだ。

なので仕事をテキパキと進めた。


 敷地内を複数の警備員が巡回していた。

片手には短槍、もう片手には携行灯。

木陰や建物の陰には、きちんと明かりを当てていた。

手順としては間違いではない。


 俺は鑑定でペミョンを見つけた。

早速、光学迷彩を施した。

恥ずかしがり屋なので、その必要があった。

それでもって、ペミョンの寝室に転移した。

大きなベットに夫婦で寝ていた。

 女房が巨大なお尻をはだけていた。

戦後の臭いがした。

一戦交えて疲れているのか、二人して高鼾。

まあ、そんな細かい事はどうでも良い。

早く済ませて帰ろう。


 部屋を見回し、鑑定した。

目的物は見つからない。

とっ、続き部屋があった。

契約魔法で鍵を開け、お邪魔した。

 絵画の類が壁全面に飾られていた。

何れも古今の逸品ばかり。

盗難防止の為か、保存の為か、窓がない。

あるのは高価な空調設備のみ。

銭金に目がない、は違っていた。

美術品にも目がなかった。


 鑑定で詳細に室内を調べた。

それは一枚の絵画の裏にあった。

隠し金庫。

 施された術式を解き、中身を取り出した。

全てが貸付の契約書であった。

借り手は貴族ばかり。

長引く反乱の影響が、貴族の懐を直撃しているのだろう。

彼等の足下を見て、宮廷の定めた金利を無視し、暴利を貪っていた。


 俺は借金漬けの貴族を助ける趣味はないが、

成り行きで全ての契約書を押収する事にした。

そしてそれを、帰り際、王宮の上空から撒き散らした。

ああ、眠い。

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