表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
32/373

(三河大湿原)11

 魔法が発動しても永遠に続くものではない。

効果は一瞬のこと。

広域魔法の呪文を詠唱すると魔方陣が空に浮かび上がり、

存在を知らしめて魔法が発動する。

次の瞬間には空になった魔方陣が消え去る。

 被害は甚大だが、双方とも広域魔法を止める気配がなかった。

しかし魔導師といえど魔力には限りがある。

ことに広域魔法は一人につき最大三回と計算すれば、

いずれ力尽きるのは明白。

将官達は自陣の被害を甘受し、次の算段にかかっていた。

残存兵力による総力戦に移行すべく隊列を整えていた。


 ところが様相に変化。

空に浮かび上がる広域魔法の紋様に魅せられたのか、

魔導師に届かぬ下位の魔法使い達が我も我もと広域魔法に挑んだ。

未熟な者達によって発動された広域魔法。

完全とは言えぬ魔方陣が空に浮かび上がって行く。

大半は所々が欠けた未熟な魔方陣。

風に流されるようにして消え去る運命なのだが、

運が悪いことに数が多すぎた。

不完全同士が重なり、入り混じり、変色するかのように、

魔方陣そのものが別の紋様に変じて行く。

三つ、四つ、五つと重なり、未知の多重構造の体をなして行く。


 何の悪戯か、未知の紋様の魔方陣が完成した。

これまで誰も見た事のない巨大で立体的な魔方陣。

呪文の文字、数字が色とりどりで、発光しながら回転を始めた。

そして、

それが、

発動した。

途端、

耳をつんざく轟音。

空気を揺らし、地を揺らし、あらゆる物を圧し、弾き飛ばした。

激烈な震動。

続いて四方八方に隙間なく光が放たれた。

次の瞬間には・・・、暗転。

昼間の陽の光が完全に遮断され、全てが闇に包まれた。

音がしない。

月も星もない闇に覆われた。

ただ、何かが動いていることだけは気配で分かった。

同時に生暖かい風が臭いを運んで来た。

・・・。

霧が晴れるように闇が消え去った。


 陽の光の下には、まったくの別世界が広がっていた。

今で言う三河大湿原。

見知らぬ鳥が、獣が群れをなし、鳴き咆えていた。

戦場であった筈が、戦死した兵士の遺体が全て消えていた。

町も村も川も、跡形すらなかった。

三河地方の一部であった、という痕跡すらも。


 隣接する地方の神社の宮司達が空の魔方陣を見ていた。

彼等は何れもが魔法使い。

なかには魔導師もいた。

彼等は空に浮かび上がる魔方陣で状況を推し量った。

特に最後の巨大で立体的な魔方陣は、はっきり見えた。

「彼等によると、教えられたこともない魔方陣だったそうだ。

時空と転移の二つを組み合わせたものが、

偶然組み上がったのではないかと言うことだ」


 父の言葉はそこで終わった。

なにか教訓的なことでも言うかと思いきや、口を開く気配がない。

ジッと待つが、何もない。

俺達を一瞥することもない。

ただ、三河大湿原を眩しそうに眺めているだけ。

 俺達は戸惑った。

父の態度もだが、三河大湿原の成り立ちに対してもだ。

村塾の座学で習ったのは、

源氏と平家の戦いの最中に大災害が起こって大湿原が生まれた、

と言うものだった。

有り体に言えば、事実と真実の違いだろうが今はそこではない。

父の真意が見えてこない。

俺達の口から答えを求めているのではなさそうだ。

それぞれで考えろ、ということか。


 思案に暮れているとカールが現れた。

「出立の用意が整いました」父に報告した。

 父はいつもの顔で俺達を見回した。

「さあ村に戻るぞ」

 俺は父を気遣った。

「ジャニス様はワニ狩りの予定だそうです。

手伝わなくていいのですか」

 すると父は俺の耳に口を寄せた。

「織田家には跡継ぎの男子が四人いる。

国都の正室が二人。

領都の側室に一人。

それに面倒臭いのが、もう一人。

今どこかと親しくするのは下策だ」ニコリと笑う。

 父はカールと二人してジャニスのテントに赴き、出立の挨拶をした。

ジャニスに邪心はないようで、

気軽にエイミーとともにテントの外まで見送りに出てくれた。

ところがハロルド佐久間は違った。

飛んで来て、ワニ狩りの手伝いを強制しようとした。

それでも父が首を縦にしないので、

「伯爵様のご寵愛がどこにあるか、ご存じか」と口にした。

 父が何か言う前に、ジャニスが遮った。

「アンソニー殿、また会いましょう」と出立を促した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ