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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
317/373

(テニス元年)9

 山城から美濃は近い。

途中に近江を挟むのみ。

それでも途次に領地を拝領している貴族への挨拶は欠かせない。

格上の貴族が領地に居るのなら俺自ら寄って挨拶し、

格下の貴族なら執事長を挨拶に出向かせ、

代官が治めているのならなら只の執事を。

とにかく面倒臭いのだ。

 夜もそう。

本来の俺なら野営でも一向に構わないのだが、

貴族の作法がそれを許さない。

冗談で口にしたら皆にお説教された。

だから、夜はその地で一番の宿に泊まり、大金を湯水の様に流す。

 まあ、短い旅であったので我慢できた。

でなければ途中で発狂していた自信があった。


 美濃地方に入った。

すると国境でアドルフ宇佐美が騎士団と歩兵隊を率いて待っていた。

馬車の前で下馬すると、綺麗な所作で敬礼した。

「お待ちしてました」

 地位が人を作る、とは良く言ったものだ。

アドルフが別人に見えてしまった。

それとも、酒と食で贅肉が付いたのか。

真相は置いといて、折角だから俺は馬車から降りて二つの部隊を見た。

 騎士団は、軽装の五十騎と従士百名。

歩兵隊も軽装のみ、一個中隊二百五十名。

一見して問題なしと判断した。

きちんと整列していたからだ。

 部隊行動の第一は、整列した状態での縦横の間隔。

近付き過ぎない、離れ過ぎない。

そして、敵が入り込む隙間を生じない、ここが大事。

武器を構えて数で押して行くのが基本だから、これが初歩中の初歩。

これを最初から最後まで守り通せば、まず負けない。


「良く鍛えられているね」

「ありがとうございます。

でも残念ながら、直近の兵のみです」

「それは仕方ない。

うちは歴史が浅いからね。

「承知しています。

焦らずに、急いで全軍を仕上げます」

 それは悪手、拙いだろう。

「焦るな、焦るな、急ぐのもなし。

子供を育てるように、じっくり育てて欲しい」

「そう仰るのであれば」

「兵は死ぬ覚悟と、殺す覚悟を持った職業。

訓練は厳しくても良いけど、それだけでは駄目だよ。

空いた時間は楽しくやらせる。

人生を大いに謳歌させる。

緩めるのも大事」

 すると俺の後ろからウィリアム佐々木が口にした。

「いつ死んでも悔いのない様に、ですね」

 何代にも渡って只の村人だった筈が、先祖返りしてしまった。

根底に流れる血は争えないのだろう。


 古来より領都であった為、領主の屋敷は定められていた。

古い街並みの一角に、ドンと鎮座していた。

ただ、敷地が広いので建物自体は見えない。

見えるのは周囲を囲う外壁と、象徴の重厚な表門のみ。

古式ゆかしいとも、古臭いとも言えた。

 他人を寄せ付けぬ感じの表門を入ると、広大な庭園を走り抜け、

一行はその最奥へ招かれた。

そこにはカール夫妻を先頭にした使用人一同が待ち構えていた。


 屋敷のホールに皆を集めて、真っ先に着手したのは人事。

まずメイド長のバーバラを侍女長にした。

これまでは侍女職を置かなかったのだが、伯爵ともなるとそうも行かない。

必要に迫られた。

幸い適任者がいた。

「一からのスタートになる。

大変だけど、白紙委任で宜しくお願いしたい」

「はい、励みます。

人選も含めてお任せ下さい」

 次はメイドのドリスだ。

「バーバラの補佐を頼みたい。

後任のメイド長として助けてくれるかな」

「喜んでお引き受けします。

ただ、伯爵様のお世話も続けますわよ」

 ぶれない。

「了解」


 一晩明けて、真っ先に目的地に向かった。

寄親伯爵としてではなく、伯爵家としてでもなく、

個人として資金を提出し、建てさせた施設だ。

領都の北側にあった空地を買い取り、そこに建てさせた。

敷地を丸柱を連ねた外壁で囲わせた。

門構えも丸柱で組んだ。

門自体は木製だが、丸柱を彷彿させる造り。

 門自体が大きく広い。

開けさせた。

一気に視界が広がった。

大隊規模の隊列が横隊で入れる広さ。

中央には、大理石組みの、古風な大きな建物が一棟。

敷地内は芝生だが、各所に、これまた大理石の丸柱が無造作に、

捨て置かれる様に何柱も建てられていた。


 俺に付いて来た随行員が全員唸った。

「「「「「あっ、ああー」」」」」

 ダンカンの口から一言漏れた。

「神々しいですね」

 背後に峻険な山か、広大な緑の草原、もしくは大海原があれば、

そう思わずにはいられない。


 俺の来訪に合わせて出迎えの者達がいた。

この施設の関係者だ。

施工責任者が真っ先に前に進み出た。

彼は国都の錬金術師ギルドのギルドマスターにして、

高名な魔法使いでもあった。

「伯爵様、ここに関われた事に深く感謝いたします」

「仕事が気に入ったのかい」

「はい、面白と言っては失礼かも知れませんが、実に画期的でした」

「それは良かった。

しかし、国都のギルドを留守にさせて問題はなかったのかい」

「後進を育てる良い機会にもなりました。

そちらも含めての感謝です」

「それで儲けは出たのかい」

「もう充分に」

「それは良かった」

 魔水晶を大量に購入し、術式設計も依頼した。

大いに潤った筈だ。

これを大いに宣伝して欲しい。

ダンタルニャン佐藤伯爵は業者に損はさせないと。


 続けて神社の宮司と教会の司祭が連れ立って挨拶した。

共に岐阜の神社と教会の首座にある者だ。

「「伯爵様、今後ここに関われるとのこと、深く感謝します」」

「神社と教会の仕様は違うと思うけど、あれで良かったかい」

 心配したのは利害対立する教義ではなく、撞く鐘の音。

「「大変結構でした」」

「それは良かった。

安心して事に望めるよ」

 今回の胆の一つは宣伝。

その点も含めて、今回の件で大勢を巻き込んだ。

それも秘密厳守で。

難しいミッションになった、俺以外の皆は。

 宮司と司祭には、中央には漏らすなとも頼んだ。

宗教組織上、難しいのは分かっていた。

それを二人は快く了承してくれた。

「「我等二人で検討しました。

結論は、互いの信奉する神には背いてはいない。

後ろから謗りを受けるでしょうが、甘んじて受ける、

そういう答えに達しました」」との、連署の手紙を事前に受け取っていた。

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