表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
316/373

(テニス元年)8

 順風満帆と言っても良いだろう。

商会をスタートさせ、陞爵パーティをも乗り切った。

俺の向かうところ敵なし。

ところが敵がいた。

『約束の報酬は』

『パー、ご褒美ご褒美っぺー』

 アリスとハッピーに詰め寄られた。

拒否できない。

深夜、山城ダンジョンに連行された。

『早く作りなさい』

『ピー、遊びたいっぺー』

 子供なのにも関わらず、深夜労働を強要された

妖精サイズのテニスセットを五セット作らされた。

そこをアリスの仲間の妖精達に見つかった。

これ幸い、彼女達にも玩具にされた。

あれ作れ、これ作れ、要求に次ぐ要求で姦しい。

仕方なので従った。

作ると言っても、全てが妖精サイズ。

これが面倒臭い。

目が疲れた。


 解放されたので屋敷に戻った。

そもそも、こちらの事情を知らないので、誰も俺を労わらない。

「お寝坊ですね」

 掛けられた言葉だけは優しい。

メイドのドリスとジューンだ。

問答無用で朝風呂に強制連行された。

伯爵の寝室の続き部屋にあるのだが、これが至れり尽くせりの豪華風呂。

子爵家にあった風呂とは桁違い。

浴槽も二つ。

お湯風呂と水風呂、加えてシャワーとサウナがあった。

 既にお風呂部屋全体が魔道具【魔冷暖房】で暖められていた。

二人が率先してメイド服を脱いだ。

水着を着用していた。

用意万端とはこのことか。

そして俺を振り向いた。

「脱がせましょうか」

 ドリスの悪い笑顔。

ジューンは脱がせる態勢。

俺は清く辞退した。

十一才の子供の朝の事情があるのだ。

二人はそれを察したのか、仲良くシャワーに向かった。

キャピキャピと浴び、軽く流すとお湯風呂に直行した。

それを見て俺も察した。

こいつら、自分達がお風呂に入りたかっただけじゃないのか。


 モーニングが執務室に運ばれて来た。

それを摂ってる横で執事長・ダンカンからのモーニングブリーフィング。

十日おきに届く美濃からの報告書内容の説明。

 大きくは二つ。

美濃地方全体の報告書と伯爵領の報告書。

所謂、領地からの定期連絡便。

代官・カールが送って来た物を、ダンカンが精査して説明してくれた。

詳しくは学校から戻って、目を通してサインする流れ。

事変とか災害でも無ければ、報告書自体は厚くはない。


 ああ、今朝もモーニングが美味しい。

厚いトースト、バターと苺ジャム。

ヨーグルトに蜂蜜。

ゆで卵、ミニサラダ。

飲み物は口を洗い流す苦い緑茶。

総料理長になったハミルトンの仕事振りは確かだ。


 ダンカンがモーニング一番の笑顔になった。

「岐阜の用意が整いました」

 岐阜は美濃地方の領都。

地方全体を統括する意味の領都であり、伯爵家の領都でもあった。

それは濃尾平野にあり、

金華山を中核とした城郭都市として知られていた。

長良川に接し、水利を活かした水運都市としても有名で、

その豊かな水量を外堀に巡らせていた。

 人口は20万余。

水堀の深さと幅が5メートル、外壁も5メートル。

正に難攻不落の一言。

東海道が三河大湿原で途絶えてからは、

中山道と新東海道双方に睨みを利かせていた。

あの魔物の大移動にも耐えた都市。

俺にとっては感慨深い街だ。

そこを代官・カールに委ねていた。

「それでカールとイライザには」

「気取られていません」


 モーニングの給仕をしていたメイド長・バーバラが顔を上げた。

「楽しみですわね」

 本来、使用人が口を差し挟む事柄ではない。

でも俺は彼女達には許していた。

子爵時代から側にいる者達には諫言を頼み、同時に、

身内だけの場では気安く接してくれとも頼んでいた。

「向こうのメイド達を締めてくれたんだろう」

 計画の一環で、古参のメイド三名を美濃の伯爵家屋敷に、

使用人教育として一ヶ月前に送り込んだ。

教育プログラムもその為の人選もバーバラに委ねていた。

「人聞きが悪いですわね。

正確には教育です。

佐藤伯爵家の一員となる躾でもあります。

最もそれが一番必要なのは伯爵様ですけどね」

 藪蛇だった。


 俺はダンカンとバーバラに日時も含めて委ねた。

「人生経験に乏しい僕では難しいと思う。

特に招待者に関してはね。

そこで二人に全権委任だ、頼むよ」

 こういう時に子供の立場は便利だ。

丸投げが許された。


 全てのお膳立てをダンカンとバーバラの二人が執り行った。

感謝感謝、大感謝。

名目は、岐阜に出来た新しい大型施設の視察。

落成式はカールが済ませてくれた。

 俺は学校に公務届けを提出して、車列の人になった。

身分が寄親伯爵なので、仰々しい車列にならざるを得なかった。

勿論、宮廷にも届け済み。

 屋敷から近い南門に車列で向かった。

伯爵家騎士団が先導した。

十五騎でうちの三騎が先触れ。

車列の先頭は俺の乗ったカブリオレ型の二人乗り馬車。

馭者に希望者が殺到したので、

とどのつまりは執事長・ダンカンで決まった。

そのダンカンが手綱を握り俺に言った。

「私で良かったのですかね」

「ダンカンの方が収まりが良いだろう。

それに日頃、仕事で頑張ってるんだ。

これが少しでも気休めになればね」

「でも、久し振りの馭者ですよ」

「街道は整備されてる。

前には騎士もいる。

何の問題もないだろう」


 後ろには箱馬車が十輛。

うちの五輛に使用人達とその荷物。

残り五輛にはお土産と騎士達の荷物と装備品。

この十輛の後ろに殿隊の二十騎。

それがお貴族様の特権と言うもので、フリーパスで南門を通過した。

途中、巨椋湖の手前で方向を転じた。

東に向かった。

中仙道に合流する為だ。

 本来なら東門から発つのだが、

南門から発った方が混雑が生じないとウィリアムから提案された。

今回はそれを飲んだ形。

そのウィリアム、今はウィリアム佐々木男爵、が馬を寄せて来た。

「伯爵様、雲行きが怪しいので速度を早めて宿に向かいます」

 子爵邸では小隊長だったのだが、

叙爵陞爵に合わせて屋敷詰めの騎士団の団長にも就任した。

実家に仕えた武家筋の血か、仕草も語調も堂に入っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ