(テニス元年)4
説明を終えたカトリーヌ明石少佐が副官に目で合図した。
頷いた副官が俺の前に綺麗な小箱を置いた。
カトリーヌが言う。
「今回の褒賞です。
陞爵したばかりですので、今のところこれ以上の陞爵はありません。
その代わりにこれです」
俺は小箱を開けた。
宝石が並んでいた。
「これは」
「ダン様はお金持ちの様なので、お金ではなく宝石に致しました」
カトリーヌが珍しくサラリと嫌味を言った。
確かに俺はお金持ち。
ダンジョン限定で金貨が造れる。
金貨だけでなく金塊も、何時でも何度でも。
「それにしても綺麗な宝石ばかりですね」
「王家の宝物庫の逸品です。
今は必要でなくても、何れ大人になれば必要になるそうです」
伴侶を得れば必要になる、そう言いたいのだろう。
「分かりました。
ありがとうございます、と王妃様にお伝え下さい」
カトリーヌが躊躇いがちに口を開いた。
「ええと、それからですね。
あれはフィギアと言ったかしら」
防御の術式を施したイライザとチョンボの人形の事だろう。
今回の襲撃ではそれが起動し、イヴ様を守り切った。
「そうです、人形ともフィギアとも言います。
それが」
「王妃様も欲しいそうなのです。
ですからお願いしたいと」
俺の手の内は晒したくない。
で、言い訳。
「フィギアは僕が造ります。
でも術式は錬金術師が施します。
僕が信頼してるのは、流れの錬金術師です。
どこの誰かは知りませんが、それが国都に来ると僕に挨拶に来ます。
その折に頼んでみます」
「ええ、それでお願い」
疑っている様子はない。
グッジョブ、俺。
カトリーヌの用件が終わった。
解放された。
大講堂まで送ると言われたが、俺は固辞した。
「この中で襲われる事はありません。
その前に僕が襲われる理由がない。
だから心配しないで帰って下さい」
逆に彼女達を見送った。
とっ、それから空を見上げた。
久々に慣れ親しんだ魔波を感じ取った。
眷属の二人だ。
アリスとハッピー。
二人も俺に気付いた様子。
互いのエビスを収納し、アリスは妖精魔法で透明化、
ハッピーはタンジョンスライム魔法で透明化、それで飛行して来た。
俺は通路の露店でジュースを二つ買い、
校庭の木陰のベンチに腰を下ろした。
二人は直ぐに飛来した。
『おー、気が利くじゃない』
アリスは思った通りに右手のバナナンジュースに取り付いた。
ハッピーは左手のオレンチジュース。
『パー、喉が乾いた、いただく~う』
二人とも俺にカップを持たせたまま、ストローでチュウチュウ。
傍目があれば不気味だろう。
カップのジュースが音を立てて消えて行くのだから。
俺は呆れながら二人に尋ねた。
『マップを見ると北海道まで行ってるよね』
二人は俺の眷属なので、地図機能で行き先は把握できる。
それによると二人は関東から東北、北海道へと足を伸ばしていた。
目的はある程度だが推測していた。
仲間の妖精達との編隊飛行であろう。
そう、自称、エビス飛行隊。
アリスとハッピーが他人事の様に、ジイラール教団を襲撃し、
そのまま関東のイドリス北条伯爵を殺した、そう説明した。
ああ、事後報告か、
気儘だな。
でも、討伐軍から伯爵戦死の報はない。
エビス飛行隊の勝手な行動なので、その辺りは把握していないのだろう。
対して反乱軍は自らに不利な情報だから、敢えて公表する訳がない。
まあ、何れなんらかの形で表面化するだろう。
『ねえダン、何時も喧しい学校だけど、今日はやけに煩いわね』
『ピー、人も馬車も多いっぺ』
そこで俺は学校の状況を説明した。
『そう、面白い事をやってんのね』
『プー、見たい見たいっぺよ~』
物はついでなので伯爵に陞爵されたこと、
イヴ様や王妃様が襲撃された一件も説明した。
それを聞いた途端、二人が怒った。
『なんでそれを教えてくれなかったの。
イヴに何て事を』
『ペー、イヴの敵はペンペンにしてやるよ』
二人ともイヴ様とは話した事すらない。
それでも透明化した状態で身近に見ていた。
だから我が事の様に怒った。
俺はそんな二人に注意した。
『カトリーヌ達の仕事だから二人は手出ししないこと、いいね』
『分かったわよ。
でも手緩いと思ったら別よ』
『ポー、緩かったらギタギタにしてやんよ』
俺は二人を宥めながら大講堂に向かった。
おやっ、入り口が黒山の人だかり。
並んでいた生徒やその父兄の行列に、
割り込もうとする者達がいるので混雑していた。
それを学校が手配した臨時職員が注意して廻っているのだが、
見たところ余り効き目はなさそうだ。
困っていた臨時職員の一人が俺に気付いた。
喜色、次の瞬間、口にした。
「ダンタルニャン佐藤伯爵様だ。
みんな邪魔です、道を譲りなさい」
若いけど要領の良い奴だ。
俺の存在を出汁に、同僚達に指示して、
割り込もうとしていた連中を強引に引き剥がしにかかった。
俺は譲られた道を歩きながら若い奴を鑑定した。
「名前、トランス・アリ。
種別、人間。
年齢、二十三才。
性別、雄。
住所、国都在住。
職業、冒険者。
ランク、C。
HP、110。
MP、65。
スキル、盾士☆☆、演算☆☆、調剤☆☆」
虎で蟻なのか。
面白い。
名前もだが、スキルも珍しい組み合わせだ。
防御に計算、薬。
俺は通り過ぎる際に奴に声を掛けた。
「ありがとう。
トランス君、このあと暇になったら僕を尋ねてくれ」
返事は必要ない。
そのまま通り過ぎて大講堂に入った。
耳に飛び込んで来るのはラケットでボールを打つ音、
ボールがコートで弾ける音。
そして気合と歓声。
「ヨシッ」
「「「「「オオッー」」」」」
中も面白い様に白熱していた。
人人々が二面のコートに釘付け。
全ての視線がボールを追って右に左に。
特に目立っていたのは片方のコートにいるシェリル京極。
うちのクラスではないのに、当然の様な顔でプレイしていた。
熱中しているので俺には気付かない。
俺は講堂の隅に設けられた運営席に戻った。
担任のテリーが顔を向けて来た。
「どうだった」
「例の一件です」
広く周知されていないが、それでテリーには充分だった。
俺はシェリルに視線を向けて、テリーに尋ねた。
「あれは」
「卿と入れ違いに殴り込んで来たよ」
「自分達のクラスを放り出してですか」
「侯爵家のお嬢に言い返せる奴はいないよ」
「先生は」
「俺に何を求めているのか知らんが、
俺は弱きを挫き、強きに従うしがない教師だ」




