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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
312/373

(テニス元年)4

 説明を終えたカトリーヌ明石少佐が副官に目で合図した。

頷いた副官が俺の前に綺麗な小箱を置いた。

カトリーヌが言う。

「今回の褒賞です。

陞爵したばかりですので、今のところこれ以上の陞爵はありません。

その代わりにこれです」

 俺は小箱を開けた。

宝石が並んでいた。

「これは」

「ダン様はお金持ちの様なので、お金ではなく宝石に致しました」

 カトリーヌが珍しくサラリと嫌味を言った。

確かに俺はお金持ち。

ダンジョン限定で金貨が造れる。

金貨だけでなく金塊も、何時でも何度でも。

「それにしても綺麗な宝石ばかりですね」

「王家の宝物庫の逸品です。

今は必要でなくても、何れ大人になれば必要になるそうです」

 伴侶を得れば必要になる、そう言いたいのだろう。

「分かりました。

ありがとうございます、と王妃様にお伝え下さい」


 カトリーヌが躊躇いがちに口を開いた。

「ええと、それからですね。

あれはフィギアと言ったかしら」

 防御の術式を施したイライザとチョンボの人形の事だろう。

今回の襲撃ではそれが起動し、イヴ様を守り切った。

「そうです、人形ともフィギアとも言います。

それが」

「王妃様も欲しいそうなのです。

ですからお願いしたいと」

 俺の手の内は晒したくない。

で、言い訳。

「フィギアは僕が造ります。

でも術式は錬金術師が施します。

僕が信頼してるのは、流れの錬金術師です。

どこの誰かは知りませんが、それが国都に来ると僕に挨拶に来ます。

その折に頼んでみます」

「ええ、それでお願い」

 疑っている様子はない。

グッジョブ、俺。


 カトリーヌの用件が終わった。

解放された。

大講堂まで送ると言われたが、俺は固辞した。

「この中で襲われる事はありません。

その前に僕が襲われる理由がない。

だから心配しないで帰って下さい」

 逆に彼女達を見送った。

とっ、それから空を見上げた。

久々に慣れ親しんだ魔波を感じ取った。

眷属の二人だ。

アリスとハッピー。

二人も俺に気付いた様子。

互いのエビスを収納し、アリスは妖精魔法で透明化、

ハッピーはタンジョンスライム魔法で透明化、それで飛行して来た。


 俺は通路の露店でジュースを二つ買い、

校庭の木陰のベンチに腰を下ろした。

二人は直ぐに飛来した。

『おー、気が利くじゃない』

 アリスは思った通りに右手のバナナンジュースに取り付いた。

ハッピーは左手のオレンチジュース。

『パー、喉が乾いた、いただく~う』

 二人とも俺にカップを持たせたまま、ストローでチュウチュウ。

傍目があれば不気味だろう。

カップのジュースが音を立てて消えて行くのだから。

俺は呆れながら二人に尋ねた。

『マップを見ると北海道まで行ってるよね』

 二人は俺の眷属なので、地図機能で行き先は把握できる。

それによると二人は関東から東北、北海道へと足を伸ばしていた。

目的はある程度だが推測していた。

仲間の妖精達との編隊飛行であろう。

そう、自称、エビス飛行隊。


 アリスとハッピーが他人事の様に、ジイラール教団を襲撃し、

そのまま関東のイドリス北条伯爵を殺した、そう説明した。

ああ、事後報告か、

気儘だな。

 でも、討伐軍から伯爵戦死の報はない。

エビス飛行隊の勝手な行動なので、その辺りは把握していないのだろう。

対して反乱軍は自らに不利な情報だから、敢えて公表する訳がない。

まあ、何れなんらかの形で表面化するだろう。


『ねえダン、何時も喧しい学校だけど、今日はやけに煩いわね』

『ピー、人も馬車も多いっぺ』

 そこで俺は学校の状況を説明した。

『そう、面白い事をやってんのね』

『プー、見たい見たいっぺよ~』

 物はついでなので伯爵に陞爵されたこと、

イヴ様や王妃様が襲撃された一件も説明した。

それを聞いた途端、二人が怒った。

『なんでそれを教えてくれなかったの。

イヴに何て事を』

『ペー、イヴの敵はペンペンにしてやるよ』

 二人ともイヴ様とは話した事すらない。

それでも透明化した状態で身近に見ていた。

だから我が事の様に怒った。

俺はそんな二人に注意した。

『カトリーヌ達の仕事だから二人は手出ししないこと、いいね』

『分かったわよ。

でも手緩いと思ったら別よ』

『ポー、緩かったらギタギタにしてやんよ』


 俺は二人を宥めながら大講堂に向かった。

おやっ、入り口が黒山の人だかり。

並んでいた生徒やその父兄の行列に、

割り込もうとする者達がいるので混雑していた。

それを学校が手配した臨時職員が注意して廻っているのだが、

見たところ余り効き目はなさそうだ。

 困っていた臨時職員の一人が俺に気付いた。

喜色、次の瞬間、口にした。

「ダンタルニャン佐藤伯爵様だ。

みんな邪魔です、道を譲りなさい」

 若いけど要領の良い奴だ。

俺の存在を出汁に、同僚達に指示して、

割り込もうとしていた連中を強引に引き剥がしにかかった。

俺は譲られた道を歩きながら若い奴を鑑定した。


「名前、トランス・アリ。

種別、人間。

年齢、二十三才。

性別、雄。

住所、国都在住。

職業、冒険者。

ランク、C。

HP、110。

MP、65。

スキル、盾士☆☆、演算☆☆、調剤☆☆」


 虎で蟻なのか。

面白い。

名前もだが、スキルも珍しい組み合わせだ。

防御に計算、薬。

俺は通り過ぎる際に奴に声を掛けた。

「ありがとう。

トランス君、このあと暇になったら僕を尋ねてくれ」


 返事は必要ない。

そのまま通り過ぎて大講堂に入った。

耳に飛び込んで来るのはラケットでボールを打つ音、

ボールがコートで弾ける音。

そして気合と歓声。

「ヨシッ」

「「「「「オオッー」」」」」

 中も面白い様に白熱していた。

人人々が二面のコートに釘付け。

全ての視線がボールを追って右に左に。


 特に目立っていたのは片方のコートにいるシェリル京極。

うちのクラスではないのに、当然の様な顔でプレイしていた。

熱中しているので俺には気付かない。

俺は講堂の隅に設けられた運営席に戻った。

担任のテリーが顔を向けて来た。

「どうだった」

「例の一件です」

 広く周知されていないが、それでテリーには充分だった。

俺はシェリルに視線を向けて、テリーに尋ねた。

「あれは」

「卿と入れ違いに殴り込んで来たよ」

「自分達のクラスを放り出してですか」

「侯爵家のお嬢に言い返せる奴はいないよ」

「先生は」

「俺に何を求めているのか知らんが、

俺は弱きを挫き、強きに従うしがない教師だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] どうせ宝物庫から宝物をくれるのなら、宝石よりもできれば魔剣とかの武器や竜鱗の鎧とかの防具の方が嬉しかったよね。
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