(テニス元年)2
学校祭が始まった。
開始と同時に児童達がゾロゾロ、大講堂に入って来た。
それを見て隣に腰掛けているテリーが自慢気に言う。
「来たな一年坊主」
確かに彼が事前に声を掛けた一年十組の子達だ。
児童達はテニスの模範試合を観戦すべく、そちらへ向かう。
俺はクラス委員としてテリーに礼を述べた。
「ありがとうございます」
んっ、変だ。
彼はうちの担任。
やるべき仕事をやっただけ。
礼は不要だろう。
まあ、それは飲み込んで。
一年十組の父兄らしき者達も入って来た。
彼等にとっては理解できないテニスの模範試合。
それでも物珍しさが勝った。
多くがコートの周りに足を進めた。
講堂の隅に俺とテリーは陣取り、全体の進行を管理していた。
今のところ問題はない。
二面のコート。
プレーヤーは四名。
主審二名。
線審四名。
球拾いは手空きのクラスメイト。
試合終了で順次交替して回して行く。
室内だけあり音が響き渡る。
試合開始の笛に合わせて放たれるサーブ。
ボールが床で弾け、即座にリターン。
前世のプロが発する音とは比ぶるべきでは無かろうが、
それでも耳に心地好いものだ。
まだまだ盛況には程遠いが、テリーがワザと漏らした。
「これは商売になりそうだな」
流石は獣人、嗅覚が鋭い。
そうなのだ。
兆しはあった。
最初にテニスの練習を覗いたシェリル京極が即断した。
「ダン、あれを私に売ってちょうだい」
ちょっと仲良しになったパティー毛利やアシュリー吉良もだった。
「佐藤卿、あれを売って下さらない」
友達の輪を通しての購入申し込みもあった。
それも全てが女子ばかり。
女子の喰い付きが異様に良かった。
たぶん、ジャージ等を含めたファッション性・・・、かな。
そこで俺はネットを含めた一式を試作品として届ける事にした。
「正式発売前なのでお売りは出来ません。
そこで試作品として提供します。
是非とも感想をお聞かせ下さい」
これが奇縁という物なのだろう。
お貴族様の女子に知り合いが増えた。
これを商売として大人達に丸投げしようとした。
パーティー仲間達の親の商会や下請けの工房に、
テニスの一切合切を扱う商会創設を持ち掛けた。
ところがそれに大人達がビビってしまった。
「これは拙いです。
利益が多過ぎて目を付けられます」
キャロルの父親曰く、「大手の商会が乗り出して来て、
テニスを模倣します」と。
マーリンの父親曰く、「貴族も乗り出して来て、利益に預かろうとします。
それには私共では抵抗できません」と。
モニカの父親曰く、「官庁の鼠も侮れません。
何のかのと理由を付けて、袖の下を要求します」と。
この三人は街の一角に店を構える商人。
下請けの工房にしてもしかり。
彼等は国都の外郭をテリトリーとする中小ばかり。
技術はあっても資金力が弱く、
悪意ある外圧に晒されると三ヶ月も持たないそうだ。
そんな大人達だが、唯一の解決策も持参してくれた。
「子爵様が商会のオーナーとなれば話は違います。
事に佐藤子爵様は特別です。
王妃様の庇護下にありますから誰も手が出せません」
大人達の言葉で俺は自分の立場を理解した。
そんなつもりでは無かったが、傍目にはそう映っているのだろう。
まあ、それは・・・。
丁度、その頃は伯爵の内示も受けていた。
寄親伯爵ともなれば、王妃様の庇護だけでなく、
自らも確たる地盤を持つ身となる。
俺は決めた。
俺の商会を起ち上げよう。
まず商会を起ち上げた。
商会長は俺。
当然俺は子供なので表には出れない。
そこでポーション工房を起ち上げようとしていたシンシア達を巻き込んだ。
「ポーション工房とテニス工房を一体化した商会を起ち上げる。
そこの取締役に就任して欲しい」
大人達の事情も掻い摘んで話した。
これまでの付き合いから三人は喜んで承諾してくれた。
三人を補う商売の専門家を部下に付けた。
キャロル達の親三名で、自分の商会とこの新商会の掛け持ちで、
役職はテニス課の課長待遇。
下請けの工房の親父達も掛け持ちで係長待遇。
子爵としての公金ではなく自腹を切った。
ダンジョン産の金貨が増えるばかりで困っていたので丁度良かった。
商人ギルドに登録し、口座に入金した。
「アルファ商会様、1億ドロン確かにお預かりしました」
窓口で1000万ドロン金塊を十本を提出して驚かれた。
個室に案内されなかったので仕方がなかった。
もっとも、これで周知させる必要がなくなった。
その日のうちに噂が飛び交い、
ビビっていた大人達の心配も軽減されるだろう。
金に飽かせて建物も買った。
外郭南区の繁華街の外れに大きな倉庫があったので、そこを買った。
大きな工務店に大規模なリフォームを依頼した。
室内コートを二面、テニスショップ、ポーションショップ、商会事務所。
そして顧客用の馬車寄せと駐車場。
魔法使いを雇用している工務店だったので仕上がりが早かった。
出来も良かった。
シンシア達が望んだポーション工房は、独特の匂いを発するので、
通りの反対側の建物を買い上げた。
用水路もあるので問題はない筈だ。
テリーの視線が揺れた。
そちらに目をくれた。
入って来る見学者の中にカトリーヌ明石少佐が紛れていた。
後ろには副官を従えていた。
二人とも私服姿だが姿勢が良いのでどうしても目に付いてしまう。
テリーが俺に告げた。
「どうやら卿に用がありそうだな」
そうらしい。
視線がかち合うとカトリーヌが笑顔になった。
俺は立ち上がってカトリーヌを待ち受けた。
「佐藤伯爵様、盛り上がっていますね」
カトリーヌから忌憚のない言葉。
俺は思わず頷いた。
「今は珍しいだけですよ」
「相変わらずですね。
さあ、参りましょう」
「どこへ」
カトリーヌが俺に耳打ちした。
「内緒話なので外の馬車で」
学校の応接室の防音設備を信用していないらしい。
駐車場の一角に案内された。
そこには無印の馬車が三輛が停められていた。
一見してそれが軍用と分かった。
周辺に屯している私服の馭者も近衛だろう。




